人の反応
ヨゾラが赤熊を討伐してから体感で一時間ほどが経過した。
そしてやはり、先程まで考えていた仮説が正しいと裏付けるように太陽は動いていない。
この一時間歩いて頭の中はだいぶスッキリした。少なくとも、木の根で四回連続で転ぶようなヘマはもうしない筈だ。
俺はこの時間、とあることを思い出していた。それは、某動画サイトを閲覧していた時のこと、とある動画のタイトルが目についた。それが、
『第3回イベント「世界の超越」に隠されたヒントがエグすぎた!』
というタイトルだ。SMWOを初期からやっていた俺は当然このイベントも経験している。イベントの内容は確か、異世界からやって来た魔女に様々な予言を貰いそれをクリアする。というシンプルなものだ。
動画の内容を端的に言うなら、やって来た魔女の持っていた本を解読するととある五つの文が浮かび上がってくるというのだ。それが
『壱、餓者髑髏の討伐又は瀕死まで追い込む』
『弐、5㎞離れた場所からの精密狙撃』
『参、一秒間に百体の魔物の殲滅』
『肆、全属性の魔法を一秒間に放つ』
『伍、神の怒りをかう』
という、まあ土台無理であろうと言う内容だった。
なんでも、その動画の通りだとこれらを達成してしまうと異世界に強制転移されてしまうらしい。
改めて、この仮説が正しいとして当て嵌めてみると現在の俺の状況とめちゃくちゃに酷似している。
つまりだ。俺は今、異世界にいるということになってしまう。
* * *
異世界にいるという確信を得てから何時間ほど経過したか。あれから何体かの魔物を討伐しながらも森の中をひたすらに歩いていた。そして到頭……。
「が、街道だ……!」
歩いてから数時間。森を彷徨い続け漸く森から出ることが出来た。ここまで来れば後は簡単だ。道沿いに行けば町にでも何でも着くであろう。
歩いていた数時間、俺は現状使える魔法やアイテムの確認をしていた。結果から言えば、魔法、スキル(必須条件有りのスキルは除く)は全て使えた。アイテムはインフィニット・アイテムボックスに入っているのは問題なく使える筈だ。問題は、インベントリに入っていたアイテムだ。SMWOでは基本、無制限にアイテムを持ち運ぶことはできない。それこそ、俺の持つインフィニット・アイテムボックスでも使わないとだ。デフォルトで使えるインベントリにはアイテム制限があるのだ。ならば、インベントリを使う必要はないのではないかと聞かれればこれも違う。インベントリとアイテムボックス系統のアイテムの決定的な違いは〝連続使用〟にある。例を上げれば回復アイテム。一気に体力が瀕死まで追い込まれれば回復アイテムを連続使用する機会も出てくる。これがインベントリに回復アイテムがあれば別であるが、アイテムボックスに入っていれば一つずつの使用しか出来ないのだ。これは他アイテムも同じ仕様で、連続使用する武器アイテムも連続使用が出来なくなるのだ。その関係で、回復アイテム--所謂ポーションや薬草は全てインベントリの中に入っているのだ。そして、インベントリを見るにはメニュー画面から見るわけで……開くことの出来ないインベントリから取り出すなんて不可能であろう。
詰まるところ、俺は回復アイテムを持っていない。だがまあ、実を言えば問題はない。何故ならば魔法の中に治癒魔法なるものがあるのだ。それがあれば、回復アイテムなんて必要ないのだ。
* * *
街道を見つけ歩き始めてから既に数時間。既に太陽が沈み欠け空が夕焼け色に染まってきている。それなのに町はおろかダンジョンの影も形も見えない。おかしい。ここがSMWOの世界ならとっくにダンジョンを通過していてもおかしくないのだが……。
と、そんなことを思っていた時だった。
「ん、魔物の反応か」
数は7体。反応の動きからするに……戦っているのか? 俺は使っている魔法をキャンセルし、別の魔法を発動させる。
最上級空間魔法:万物の監視者。先まで使っていた上級空間魔法:見えざる魔ノ手と同じく上級空間魔法:見えざる人ノ手をくっつけたような魔法。魔物と人の二つを同時に、広範囲で探知することの出きる魔法である。ただしこの魔法は魔力消費がマッハであるため乱用は出来ないのだ。
「お、人の反応……ってこれ、マズいやつか?」
反応を見るに、七体の魔物が三人を囲っているようだ。そして内一人の反応がとても弱い。反応が弱いということは即ち、死にかけているということだ。
この世界での死。それはどういうものなのだろうか。SMWOのように神殿で復活するのか。はたまた、復活はせずに本当の死が訪れるのか。恐らく、それは後者。この世界はSMWOからゲームのシステムを丸々くりぬいたような、そんな印象を受ける。であれば、自ら死地へと赴く必要なんてない。だが、これでも俺は人として最低限の倫理観は持ち合わせている。人が死にかけているなら手を差し伸べてあげたい。悩んでいるなら話を聞いてあげたい。確かに死ぬ可能性もあるが、それはほんの数%程度。これでも俺はトッププレイヤーだしな。
* * *
「アリス、お前はリサの回復を優先させろ!」
「ッ! しかし、そうすればタケル殿は…!」
「俺のことは気にすんなッ! 人命優先だ!」
止められた馬車の中でアリスはグッと、歯噛みした。目の前の青年の名はタケル。サーベルのような剣を持ち、頭にはバンダナを付けているのが特徴的である。孤児院育ちであるため性はない。『堕ちた騎士』であるアリスとは冒険者ギルドに張り出されていた仲間募集で知り合った。
アリスとタケルの付き合いが出来てからおおよそ二年。こういう状況ではタケルは意地でも引かないであろう。
アリスがタケルから目を離し、横たわっているお下げの少女を見る。彼女の名はリサ。三人で構成されているパーティーでの後衛。青を基調としたコートを着ており、付近には彼女の三角帽子が無造作に置かれている。彼女は現在、襲撃されている森ノ狼に横っ腹を食い破られてしまい、血が止め処なく流れ出てしまっている状態。このまま放置していれば間違いなく多量出血で死ぬ。しかし、即時回復作用のあるポーションは既に使いきってしまった。リサの命綱はアリスの使う初級治癒魔法:小再生のみだ。
しかし、恐らくこのまま行けばリサは死ぬ。アリスの使う小再生はどこまで行こうと『小』なのだ。リサの出血量とアリスの治癒魔法では明かに出血量の方が多い。詰まるところ、回復が追い付いていないのだ。
アリスは迷う。どのみち助からないリサを捨て、タケルの増援に行くか、最後までリサの面倒を見守り続けるかを。本音を言えば、リサのことを最後まで見ていたい。しかし、そのまま行けばリサは死に、最悪タケルまで死なせる可能性もある。どちらを取るのが最善かを考えていた、その時。
「あ、りす、ちゃ……ん」
「ッ!! リサ! 目を覚ましたのか!」
目の前の親友が目を覚ました。それだけで歓喜に震えそうになる。しかし、親友の次の言葉にアリスは心を砕かれたような心境に陥る。
「わたしを、、ころして…」
「……え?」
親友の言葉に耳を疑う。何故、という疑問が出た次の瞬間には、アリスの頭の中に既に回答は出ていた。リサは、自己犠牲を選んだのだ。リサさえいなければ、アリスはタケルの援護に行ける。リサが居るから、アリスはタケルの援護に行けない。
「お前は……ッ!」
アリスはリサにひどい憤りを覚える。が、それを晴らすのは今ではないし、現状ではそれが一番の最善策であることも確かだ。自身の考えに心底腹が立ち、同時に魔力が尽き掛けてきていた、その時だ。
「--随分深刻そうな傷だな」
「……っは?」
目の前に、人がいた。
本当に唐突だった。
アリスは魔物が馬車を突き破った時のために、簡易的な索敵魔法を展開していた。それでも、感知することは出来なかった。
「おまっ、だれ」
「話しは後だ。--一応聞くが、助けはいるか?」
ここまで読んで頂きありがとうございました。「ここおかしくない?」という指摘や「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたらコメントしてくれると幸いです。




