違和感
鬱蒼とした森を単身で歩く者がいた。時に木に登り、時に草を掻き分け、時に大地魔法の重力操作で重力を操作して空高くに跳んだりと、こんな事態なのにも関わらず呑気なプレイヤーヨゾラである。
「あー、にしても暇だな。みんなどうしてるかなぁ」
ここ西エリアから、孤独の絆のギルドホームまではおおよそ600㎞ほど。放浪が好きな闇夜に紛れしクロき英雄でもこんなところまではこないであろう。
太陽を頼りに歩いておおよそ十分ほど。ボーッとしながら歩いていた時だった。ヨゾラはふと、足元に生えている植物に目が止まった。
「なんだ、この植物。初めて見るが……」
諄いようだが、ヨゾラはSMWOのトップランカーにして、リリース当日からこのゲームをプレイしている猛者だ。それに比例し、当然ゲーム知識なんかは他プレイヤーより群を抜いている。そんなヨゾラが見たことのない植物アイテム。当然、ヨゾラは興味を持つ。ヨゾラはインフィニット・アイテムボックスから黒い縁のモノクルを取り出す。
「魔導具発動:鑑定のモノクル」
モノクル型零製魔導具:鑑定のモノクル。零式が造り上げた魔導具の一つ。外部サイトとリンクし、アイテム名等の情報を得ることが出来る零式お手製の魔導具だ。
既にヨゾラは大抵のアイテムの効果や群生地を覚えているため取り出すのはかなり久々である。
ヨゾラは早速魔導具を発動するが、鑑定の結果は…
「Unknown、か……」
零式曰く、これが出れば『データなし』である。確かにこれは珍しいが、SMWOでは特別おかしいという訳でない。SMWOの運営が出す情報は基本イベントのみだ。アイテムが追加されても「植物系のアイテムが追加された」という情報のみで、何処にあるかや、どういう姿形をしているかなどの情報を一切出さないのだ。故に、実装されてから一年してアイテムが見つかるという事例も過去にあった。実際に現在五~六ほど発見されていないとされるアイテムが存在している。
「まあ、別にあり得ない現象じゃないしな。採取だけして先に進むか」
ヨゾラは深く考えないように植物を採取しインフィニット・アイテムボックスの中に放り投げ、再び歩き出した。
* * *
初見の植物を採取してから数十分。
変わらずに太陽を頼りに歩いていたが、ヨゾラは違和感に襲われる。
「……そういえばあの太陽、なんか全然進んでないな」
SMWOの時間設定はリアルの一時間で昼夜交代するシステムで、一日がおおよそ二時間ほどである。既に数十分ほど経っているのであれば太陽が殆ど動いていないのはおかしいだろう。
その太陽の動きはまるで、現実世界と同じような……。
「まあ、そんな訳ないか」
ヨゾラは可能性を切り捨て再び歩き出すのであった。
* * *
鬱蒼とした森を極力なにも考えずに歩いていた時であった。定期的に発動していた上級空間魔法:見えざる魔ノ手に反応があった。
上級空間魔法:見えざる魔ノ手。自身を中心とし、半径500mの範囲の魔物のみを探知出来るこの魔法。別の探知系の魔法とは違い、探知出来るものを魔物に限ることで探知範囲の拡大、魔力の消費を押さえているのが特徴だ。
ヨゾラはすることも無いために見えざる魔ノ手を頼りにその場所へと走った。
やがて数分後、ヨゾラは反応のある場所にたどり着いた。
ヨゾラはそっと木陰に隠れ様子を伺う。
見えざる魔ノ手に引っ掛かったのはどうやら『赤熊』であったようだ。
赤熊。危険度はE~Sの六段階でCに分類されている、通称『初見殺し熊』である。純粋そうな目をしているからか、初心者がテイムをしようと近づくと、赤熊の腹がガバリと開いて丸呑みするという、初心者に恐怖とトラウマを植え付けたなんとも恐ろしい熊である。しかし、所詮は初見殺し。それさえ知っていれば対処なんて簡単である。
ヨゾラは木陰から堂々と出た。
『グァ……?』
赤熊は唸り声を上げた。どうやら、ヨゾラに気が付いたようだ。
『グァ』
赤熊はティディベア座りも相まって何処か可愛い子ぶった唸り声を上げたように聞こえる。まるで「僕は悪い熊じゃないよ?」とでも言いそうな眼差しである。
しかしヨゾラは既に初見殺しを認知している。認知されれば初見殺しなんてあってないようなものである。
ヨゾラは赤熊の数歩手前まで歩き、止まる。赤熊は行動の意味がよく分からないのか首をかしげた。
ヨゾラはおもむろに右手を赤熊に向ける。
「……『上級電撃魔法:紫電の電導』」
既に展開済みであった紫電の電導がヨゾラの指先から放たれた。紫電の電導はまるでカミナリが如くバチバチバチィと激しく音を立てながら赤熊まで一直線に空間を伝う。突然のことで反応できなかった赤熊はなんの対処も出来ずに魔法にヒットし、赤熊はバタりとその場に倒れ付したのだった。
「まあ、こんなもんか……あれ?」
赤熊を瞬殺し、刹那ほどの時間が流れた後にヨゾラは再び違和感に襲われた。
「魔物がアイテム化しない……?」
SMWOではダンジョンのミミックを除きすべての場合、倒した魔物の身体が光の粒子となり、アイテムがその場にドロップする。当然赤熊もそれに含まれる。
ヨゾラは気になり、赤熊の亡骸に恐る恐る歩み寄る。すると、、、
「うッ……」
思わずヨゾラは後ずさる。
赤熊から、嗅いだことのない肉が焼け焦げたような腐敗臭が込み上げて来たのだ。
「に、臭い……!? そんなの、、感じる訳が…!」
SMWO内で再現されている五感は聴覚と触覚、視覚のみだ。故に、嗅覚と味覚はゲーム内で感じることはまずない。あるとすればそれは脳の誤認--気のせいである。しかし、これはそんな生易しいものではない。鼻から込み上げてくる不快な腐敗臭。それを、気のせいではないと頭に直接訴えかける。
「まさか……本当にリアルなのか……?」
先から考えていた『最悪』の想定。
しかし、それならそれで疑問も残る。
ヨゾラは先程見つけた新種の植物以外にもいくつか植物を見つけている。その中にはリアルにはない、SWMOでしか見ないゲームオリジナルの植物もあった。
更には、魔法が使えているのもおかしい。これがリアルなら魔法なんて使える訳がない。夢物語もいいところである。しかし、実際に使えている。
それ即ち、どういうことか……。
「俺は今、SMWOの世界にいるのか……?」
ヨゾラはそう、自身の中で仮説を立てた。
ここまで読んで頂きありがとうございました。「ここおかしくない?」という指摘や「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたらコメントしてくれると幸いです。




