異変
一人の少年が目を覚ました。
先まで巨大な骸--餓者髑髏と退治していたヨゾラである。
SMWOでは基本デスペナルティはない。死んでしまったプレイヤーはゲーム内の殿の中で復活する……そう〝普通〟は、である。
「はぁ……死んだ、死んだ。まさか、天理の結界が破られるとはなぁ。どうしよう。なにか別の魔法で……」
そこまで呟き、気が付いた。
自身が、鬱蒼とした森の中にいることに。
「……はぁ? どこだここ? バグ……な訳ないか」
フルダイブ型のゲームは基本的に脳に直接作用するというものである。そんなゲームをやるに当たって、バグがあるゲームをやりたいと思うプレイヤーはいるかと聞かれればそうそういないであろう。なにせ、その不具合で脳がなにかダメージを受けおかしくなれば笑い事ではすまない。その為、フルダイブ型のゲームは端末系のゲームとは違い、石橋を叩いて叩いてヒビが入るくらいまで確認をし、世界に発信されるのだ。
フルダイブ型であるSMWOもその一つで、発売されて約七年。バグの一つも発見されてはこなかった。故に、その可能性をヨゾラは振り払う。
ではなんだとヨゾラは頭を捻る。
まず、イベントである可能性。SMWOには半年に一度開催される大きな大会とは別に、週一、月一などの不定期に開催されるイベントが存在する。が、これの可能性は低い。なにせヨゾラは定期的にSMWOのサイトの確認や、リークの模索等を行っているからだ。そんな中に復活地点の変わるイベントなんてなかった筈だ。
時点で考えられるのが他ギルドの攻撃。ヨゾラの所属するギルド:孤独の絆にはヨゾラを始めとしたトップランカーが多く所属している。故に、ギルド抗争を申し込まれることが多々あるのだ。その中の攻撃の一つが復活地点の変更という考えだ。だが、復活地点を変更させるアイテムなど聞いたこともない。さらに、ギルド抗争とは言っても双方の合意の元に行われるギルド抗争を大きな戦力である副ギルド長のヨゾラなしで行うというのも考えづらい。
あれでもない、これでもないと考えているうちに、取り敢えずゲームから出ようという考えに至った。
「メニュー画面」
ヨゾラは呟くが特になにかが起こる気配はない。
「あ、あれ? メニュー画面! メニュー画面!」
本来、メニュー画面と唱えれば目の前にウインドウが現れ、自身のステータスの閲覧やログアウト、ログインが出来る。が、それが出ない。それ即ち、どういうことか。
「ゲームに、取り残された……?」
ヨゾラは絶望した。
メニュー画面が出ないということは上記意外にも、マップからのワールドワープやチャット機能なども使えない。SMWOのワールドは広大だ。現実で例えると、先日実装されたマップも含めれば日本本島の半分ほど。それを徒歩で歩かなければならないと考えればとてつもないだろう。さらにチャット機能も使えない為、仲間に救援も送れない。
「ふぅー……落ち着け。運営も違和感を感じたり報告が入れば救援に来る筈だ。それまでの辛抱だと考えればどうにかなる」
ヨゾラはSMWOのトップランカー。大抵の事であれば(SMWO内限定で)どうにかなる。金銭やらの大切なものは装備品のインフィニット・アイテムボックスの中に入っているし、SMWO内では空腹や尿意に襲われることもない。
「まあ、リアルではどうなってるか分からんが…」
フルダイブ型のゲームは基本身体を長時間拘束される。その為、食事やトイレは済ませてからというのが常識だ。済ませなければどうなるかというのは自己責任らしい。説明書に書かれていた。
「取り敢えず、この森を抜けるか」
おそらくここはワールドの西エリアにある森林地帯だ。太陽の動きは地球と同じな為、東方面へと進路を決めヨゾラは歩き出した。
* * *
それはヨゾラの身に不可解な現象が起こった同時刻。ヨゾラの所属するギルド:孤独の絆のメンバーである六名はギルドホームの居間に勢揃いしていた。
「……あ」
そう言葉を溢したのはメンバーの中でもヨゾラに次いでの古参であるプレイヤー名:マリオネットガールだ。彼女は身長150センチの小柄で左手にはウサギの人形を抱き抱えている金髪ツインテールの少女だ。
「オフライン、か。負けたなこりゃ」
マリオネットガールの言葉に追従したのは左目に眼帯を着け、右手には赤黒いナニかが着いた包帯をグルグル巻きにしている男、プレイヤー名:闇夜に紛れしクロき英雄が言葉を発した。
「ほっほっほ……今度こそ、心が折れたかの?」
ウインドウを操作しながら話すのは長い白い髭を生やし、薄茶色のロープを着たいかにも好好爺といった印象を受ける老人、プレイヤー名:大賢者である。
「まあ、流石にねぇ。35回目だっけ?」
大賢者に相討ちを打つのは、ヨゾラに八裂投を渡し、孤独の絆で武器の調節等を担っている水色のマントが特徴的で中性的な容姿、声色をしているプレイヤー名:零式である。
「何も言わずに落ちるなんて、相当堪えたのね…」
ウインドウを見ながらしみじみとするのは全体的に白銀のフルプレートで統一されていて、腰にレイピアを差している騎士風の女性、プレイヤー名:氷結の姫である。
「お兄ちゃん、大丈夫かな…」
実の兄を心配するのは水色髪が特徴的な少女、プレイヤー名:アオゾラである。アオゾラはリアルでヨゾラと義理の兄妹なのだ。
「ふむ、そうじゃの。姫さんの言う通り、おそらく相当堪えておる。ソラちゃん、今日はこれくらいにして、ヨゾラの傍にいた方が良かろうて」
大賢者はアゴヒゲを擦りながらアオゾラに語り書けた。余談だが、大賢者はリアルでは32で老人ではない。言葉の節々の台詞は単なるキャラ作りである。
「そう、ですよね。すいません、今日はこれくらいで失礼します。頃合いを見計らって連絡するので」
「うん。元気付けるの、頑張って」
「また明日会おうぞ。蒼穹の姫よ」
「うむ。またの」
「ばいばーい。また明日ね!」
「ヨゾラによろしく。またね」
アオゾラは手慣れた手付きでログアウトを済ませる。
* * *
「いやー。流石にショックだろうねぇ、ヨゾラ」
零式は元々ヨゾラに誘われてギルド:孤独の絆に入った為、ヨゾラを無意識に敬っている節があるからかだろうか。いつものテンションを数段下げて話し出したのは零式だ。
「ん。アオゾラの励ましスキルに懸かってる。頑張ってもらうしかない」
「ほほ。じゃが、ソラちゃんは無意識に爆弾を落とすことがあるからの。トドメの一撃になっとらんといいのじゃが」
マリオネットガールと大賢者が零式の話しに乗っかる。アオゾラは大賢者の言う通り、無意識に爆弾発言をすることが多々ある。それの一番の被害者は闇夜に紛れしクロき英雄だったりもする。
「……ん?」
と、みんなでワイワイと談笑をしている中、闇夜に紛れしクロき英雄が小さく声を上げた。
「どうしたの、クロキ」
「クロキと呼ぶな。闇夜に紛れしクロき英雄だ」
その声に一早く気が付いたのは氷結の姫だ。クロキは見ていたウインドウをみんなに見えるように回転させる。
「表示がおかしくてな。ほら、見ろ」
「……副ギルド長が、クロキ?」
闇夜に紛れしクロき英雄が気が付いたのは何故か自身が孤独の絆の副ギルド長になっていたことだ。
「むぅ? お嬢ちゃん、変更したのか?」
「まさか。副ギルド長はヨゾラ以外にあり得ない……なんで?」
ギルド:孤独の絆の創立者はマリオネットガールだ。とある事件はあったが、そこにフレンドとして知り合いだったヨゾラが合流する形でこのギルドは完成したのだ。
副ギルド長の権限付与はギルド長にしかない。相手から奪い取ったりすることは出来ないのだ。さらに、自分から副ギルド長を止めたとしても他のプレイヤーに自動で付与されることはない。空席になるだけなのだ。
「ぅ、え……?」
「なんじゃ、今度は零式かの? どうしたのじゃ」
本日二度めの困惑の声。その声の主は、先までウインドウを弄くっていた零式だった。
零式は油の切れた機械のようにゆっくりとした動きで、ギルド仲間の、ヨゾラに恩のある皆に向かって、口を開いた。
「ヨゾラの……アカウントがなくなってる……」
「「「「……え、、、」」」」
* * *
アオゾラ--中島 碧は頭に着いていたヘルメット状のゲーム機を近くの机に置く。
「ふぅ……あ、ト、トイレ!」
碧は慌ててトイレに駆ける。フルダイブゲームが終わったらトイレに駆けつけるのは最早プレイヤーの性でもある。
お手洗いを済ませた碧は二階にいる兄--中島 星夜の部屋に向かった。
(? なんか、妙に静かなような……?)
心に嫌な予感を持ったからか、自然と駆け足になった碧は星夜の部屋の扉を開けた。
「……え、、?」
が、そこ合ったのは、人が住むような部屋などではなく、使わなくなった物や段ボールが山積みになっている、とても人が住めるような空間ではなかった。
碧はしばらく呆然とした後、家の中にある部屋という部屋をくまなく探した。当然、靴や自転車、車の有無も。そして、二人の共有スペースに碧の要望で飾ることにした二人の沢山のツーショットであった写真見て、碧は呆然と立ち尽くした。
--全ての写真から、兄が消えていたのだ。
ここまで読んで頂きありがとうございました。「ここおかしくない?」という指摘や「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたらコメントしてくれると幸いです。




