プロローグ
都市伝説。
生きていれば一度は聞いたことのあるであろう言葉にして、人々の心に好奇心を持たせるであろう逸話でもある。代表例では神隠しや共通夢などのファンタジーな現象。陰謀論等の組織的な隠蔽。
数え始めればキリがないだろう。
そしてそれは、リアルだけでなく、アニメやゲームの世界にも存在する。曰く、主人公は死んでいて、母親がクレヨンで書いた物語。曰く、長く続く日常は一本毛の老人の夢etc…。
長く愛されればそれに比例して規模や数が増えていくのもまた共通点だ。
しかし、現実は非常。このようなモノは大抵、真実とは程遠いのが現実である。
この物語は、そんな、ありきたりで、聞くものが聞けば鼻で嗤うような都市伝説により異世界に転移してしまった者たちの物語である。
* * *
どんよりと曇った空に苔むしている廃れた廃ビル。マッチングとしてはある意味適切な組み合わせの場。そんな場にて、激しく動き回る男がいた。
ある一瞬は地を走り、ある一瞬は壁を蹴る。さながら、アクション映画のワンシーンといった処か。しかしながら、アクション映画とは違いこの男は演技などではなく、本当に〝死〟から逃げている。
男が走る最中、何かを呟きながら虚空から出したナイフを投げる。そのナイフは物理法則なんて知らないとばかりにひとりでに上昇し、狙いの先である巨大な骸骨に向けて加速する。対する骸骨はナイフを気にも止めずに男に骨を用いた中距離攻撃を続ける。
骸骨の使うこの中距離武器には一つ一つに即死魔法が付与されている。一度でも当たればそれ即ち死だ。
『ソード = マジック = ワールド = オーバー』
通称SMWO。日本の某ゲーム会社が開発したフルダイブ型のMMORPG。発売されてから既に七年。未だに衰えを知らない世界でも有数なゲーム。他社を上回る圧倒的なグラフィック、その破格な課金設定、ゲームバランスetc。『全てにおいて数歩未来を歩いている』とまで言わしめた。それがこのSMWOだ。
そして、ゲームの世界には当然、ランキングの中での『一位』がいる。その王座に比較的多く座っているのがこの男。『プレイヤー名:ヨゾラ』、二つ名を『二刀流の魔法使い』である。
背丈は成人男性よりも一回り小さく顔はやや童顔。走る最中にチラリ、チラリと黒髪の間から見える山吹色のポイントカラーは何処か夜空に輝く星を連想させる。青い刺繍の入ったフード付きの黒いローブを羽織り、腰には二本の剣--小太刀と日本刀--がぶら下げられている。
現在ヨゾラは、SMWOの裏ボス的存在である『モンスター名:餓者髑髏』と対峙している。HP、攻撃力、防御力共に作中NO.1。基本スペックとして『状態異常無効』、『固定ダメージ無効』、『弱体化デバフ無効』がある。それに加え、この場の環境補正である『物理攻撃デバフ-70%』、『魔力攻撃デバフ-70%』とふざけた補正を持ち、この場においてマルチプレイ不可。更に更に、餓者髑髏のHPが全体の半分を削られると補正が共に85%まで上昇。それに加え、攻撃一つ一つが即死魔法を帯びてくる。
最早、理不尽を超越した存在。プレイヤーからは「死んだのに死んでない屍」、「運営のミス」、「バグ」、「エラー」などと呼ばれ親しみを持たれている。
どんな廃人も、更には運営までもが倒すのを放棄したこの裏ボス餓者髑髏。そんな理不尽な存在に、ヨゾラは終止符を打とうとしていた。
現在、餓者髑髏のHPは2%。約8時間ぶっ続けで戦い、漸くここまで削った。それでも数値化すれば数千はあるが、当然勝機は見えてくる。ヨゾラは虚空--インフィニット・アイテムボックスからお気に入りの投げナイフを取り出す。
「『最上級念力魔法:加速する投擲』」
発動したのはヨゾラが使う魔法のなかで特に使い慣れている魔法。加速する投擲。初級、中級、上級、最上級、超星級とある魔法のなかで二番目に階級の高い大魔法。更に念力魔法は操作が難しく、第一階、第二階、第三階、第四階、第五階魔法とあるなかで第三階魔法に分類される比較的難しいと言われる魔法だ。
余談だが、超星級の極星魔法を使えるプレイヤーはSMWO内に二十一名しかいない。一位という玉座に座るヨゾラでさえも使える超星級の魔法は(二十七種のなかで)四種のみだ。
軽い力で投げたナイフは加速する投擲の効果でグングンと速度を上げ餓者髑髏へと迫る。餓者髑髏は呻き声を上げながらそのナイフを肉のついていない骨の手で払い除けようとするが、次の瞬間ナイフは八方向へと分裂した。
この投げナイフはヨゾラの所属する『ギルド:孤独の絆』のメンバーである零式が作り上げた武器で名を『投げナイフ型零製魔導具:八裂投』という(零式命名)。更にこの八裂投には付与として『上級付与魔法:連撃』という付与が成されている。これは一定時間に攻撃を連続で当てると威力が上がるという付与効果だ。これにより、八裂投で発生するダメージは更に飛躍した。
しかし、それでも高い防御力と物理攻撃デバフ-85%に阻まれナイフ一つで五百前後のダメージしか発生しない。それでもおおよそ四千ダメージは入った。そして到頭、餓者髑髏のHPが1%を切った。
「グゥゴォォォ!」
餓者髑髏のHPが1%を切った刹那、餓者髑髏のHPバーの上に一つのバフ効果が表示された。白い星型のマークが丸で囲われている。SMWOプレイヤーに絶望という付与をした最悪のバフ。〝無敵状態〟だ。ヨゾラは顔を引き攣らせながら、自身の切り札である超星級魔法を展開する。
実を言えばヨゾラはこの状況を予知していたりする。というのも、過去に何体かの高難易度のボスはラストHPが1%になると『スキル:捨て身の突貫』という一定時間後に自爆してしまうが、自身のステータスを七倍にできるというとんでもないスキルで、えげつない攻撃をしてくることが多々あった。流石に、裏ボスなんだからそれくらいするだろうと身構えていたのだ。
餓者髑髏は無敵状態をフル活用し、発動までが長い魔法を左右の掌に展開し始める。SMWOにおいて、発動までの時間=強力という方程式がプレイヤーの間では(例外があるものの)一般的だ。
発動までの時間が刻一刻と経つにつれ、ヨゾラの心は緊張に蝕まれていく。ヨゾラの餓者髑髏への挑戦は今回で三十五回目。流石に今回負けるのは洒落にならない。
魔法が展開されてからおおよそ一分。漸く魔法が放たれようとしていた。
左右の掌に展開された禍々しい魔法を餓者髑髏は胸の前でドッキングし、それをヨゾラに向ける。魔法から放たれるあり得んほどの瘴気と、これに当たればまた振り出しというプレッシャーがヨゾラの身体を襲う。
ヨゾラは迫り来る魔法を見据え、展開済みの超星級魔法を発動する。
「『超星級結界魔法:天理の結界』ッ!」
超星級結界魔法:天理の結界。
この世の何処かにあると言われる、万物を司る大樹『世界樹』に干渉し万物を防ぐ結界を授かるこの極星魔法。超星級魔法のなかでは一番展開時間が短く、使用魔力も少ないことが特徴の魔法だ。
餓者髑髏の放った即死の光線はヨゾラに迫り天理の結界と鍔迫り合う。
もはや物理的な物力をもった光線は空気をも震わせる。悪天候であった空模様がさらに曇って見えるのはもはや幻覚ではない。
天理の結界と即死光線がぶつかり合って何秒が経過しただろうか。到頭、天理の結界に限界が来てしまった。山吹色の結界に亀裂が走る。
パリンという音が辺りに響いた。
そして、その音に追従するかのように耳障りな亀裂音が響き渡り、最後には、ガラスが砕け散るような音が響いた。
結界が消え、即死の光線がヨゾラに迫る。
ヨゾラは目を閉じ、呟いた。
「なんだ、このクソゲー……」
ここまで読んで頂きありがとうございました。「ここおかしくない?」という指摘や「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたらコメントしてくれると幸いです。




