第十三週:履と小さな愚か者(土曜日)
《木曜日。19時13分》
カーン、カーン、カーン、カーン。
「フンフ~ン♪ フンフ、フンフフン♪
ランラ~ン♪ ランラ、ランララン♪
ウィ・トライド、トゥ・ワー…………っと、リーブさーーん、こっちオッケーっすよーー」
「分かったー。そしたらお前も上がって来い。試しに動かしてみようーー」
「りょうかーーいっス」
《Mr.Blu‐Oのポッド――の中にある個人用大型プール (三千平方km)》
ポーン。
「よお、ふたりともお疲れさ――って、うお! なにここ? マジで海じゃん」
「あ、デュさん。お疲れさまです。――っと言うか、見るの初めてなんですか? ここ」
「いま乗って来たエレベーターもそうだけど、さっきまで存在すら知らなかったよ」
「まあこれだけ広いポッドですとね」
「なんかオレ、結局コントロールルームの周りしか知らなかったんだなって想ってるところ」
「管理はさっきのオートマータの方が?」
「ナツ君ね――あ、ってか、ナツ君は結構昔のコンピューターだから、オートマータじゃないよ」
「へえ、あれだけ流暢に話せるコンピューターも珍しいですね」
「まあ、バアさんに色々改造されたらしいし――あ、で、どう? リーブさん。進捗は」
「あ、はい、おかげ様で順調で、丁度これから試運転に入るところです」
「へー、まだ2時間経ってないんじゃない?」
「いやそれが、ここ設計したのよっぽど頭のいい人なんでしょうね。メンテナンス用の通路から電気系の配線から、まあお手本のような作りになってて、おかげでいつもの半分ぐらいで上がれそうですよ」
「へー、やっぱバアさん流石だな――あ、で、ごめん。缶コーヒーかペットボトルのジュースぐらいしかなかったんだけど、ひと息付くかなって想って」
「あ、わざわざすみません」
「どれにする? 取り敢えず目ぼしいヤツあるだけ持って来たんだけど」
「あ、じゃあ私はそのブラックの缶コーヒーを――おーーい、パイン!!」
「なんスかーー?」
「デュさんがー、飲みもの持って来てくれたんだけどーー、おまえ何にするーーー?」
「うおっ! マジっスか?! すっげー、ジバレーほんとリスペクトっスよーー」
「なに? パインくんいまどこにいるの?」
「ああ、この下で配管の微調整やってて、いまハシゴ使って上がって来てるところです」
「ハシゴ?――って、うお! なにここ? 断崖絶壁じゃん」
「なんだかんだでプールですからね。あ、でも水面レベルは変えられるんで、最終的にはもうちょい上がりますけど、水面」
「ふーん。それもバアさんの指示?」
「はい。作業依頼書には水張り作業まで含まれていますから、高さ指定で」
「へえー、お、パインくん、おつかれ」
「お疲れさまっス。デュさん」
「なに飲む? コーヒー、紅茶に、エナジードリンクもあるけど」
「あ、じゃ、オレ、そのいちごミルクコーヒーでお願いしまス」
「はいはい。なんかカワイイね」
「好きなんスよね――って、ちょっとすわってもいいスか? 足もうガクガクで」
「ああ、もちろん。でもおかげで早く終われそうじゃん」
「そっスね。これでいつクジラやイルカが来ても大丈夫っスよ」
「そうそう。これで――なんだって?」
「はい? だってこのプール海水に変えるのって、クジラやイルカ用なんでしょ?」
(続く)