第十二週:ルルナイ宮の夜とシヤ=カンの朝(水曜日)
さて。
これまでにもいくつかお見せしたイン=ビト王を始めとする彼ら一族の奇妙な能力については、その起源と云うか出所を 《火主》や 《全主》の血と云うか遺伝子と云うかエネルギー体?みたいな?そんな感じの?ほんっとーにワケの分からない?ナンヤカンヤが?複雑に?入り乱れ組み込まれた結果なんじゃないかなあ?よう知らんけど……みたいな感じで、どの遺伝学者に訊いても皆んなが皆んなサジを投げている感じであったりする。
なので、この無知無学な筆者などが彼ら彼女ら遺伝学者・生物学者にイン=ビト王家の遺伝学的・生物学的ドーノコーノを訊きに行ったとしても、あからさまにイヤーな顔をされるだけなので、こちらももう開き直って、その辺の起源・出所については「ほら、あそこの人たちはあーゆー人たちなんで」でまかり通すことにしていたりする。
で。
まあそんな感じの遺伝学・生物学の先生たちだったりするワケだけれども、そんな彼ら彼女らも例えば――、
「ところでウェイワード家の騎士の血についてですが……」とか、
「レフグリス王子が発するフェロモンの構造変化についてなんですが……」とか、
そっち方面の、いわゆる 《優性戦争時代》の名残りであるような能力に関する質問にはまだまだ出番があるようで――、
「それが最近の研究で彼らの始祖スクトゥムと現オウルタス卿の間に奇妙なつながりがあることが分かって来ましてね……」とか、
「あれは多分に次代に遺伝子が引き継がれたことを確認した王子の身体が精巣そのものを変化させたためではないのかと……」とか、
ガッチガチの文系で化学式のベンゼン環が人の顔にしか見えないような作者に対して、大量の研究資料と論文と軽く2ラオ (約4時間)を超える講釈でもてなしてくれたりする。
で。
まあ、詳しい話は端折るって云うか、右のような理由で聴くには聴いたけど聴いてる途中で頭がパーーンッてなったからその辺はアヤフヤでアイマイアイマイな感じに流させて頂くと、世に数多ある 《騎士の血統》も、遡れば 《優性戦争時代》に開発された四名の強化人間、その遺伝子設計に辿り着くと云うことが、最近の研究でいよいよ判明しそうになっているのだそうである。(注1)
で。
その研究結果によれば、以前から言われている一般的な騎士の弱点長所もそれらの設計由来であることが分かって来たようで、そこから更に騎士の強化を行なうのか?等の議論も今後持ち上がりそうとのことなのであった。
*
「騎士の方々、王の血族の方々の身体的特長として、その身体が頑健過ぎること、その反射能力――外部刺激に対する反応――が過敏過ぎること等が挙げられます。が、その為これが逆に、『一つの身体に同時に相反する気を纏う』と云うようなより細やかな緻密さ精妙さが求められる術を使うことの妨げになっていると云うことも事実ではあるでしょう」
と、これは惑星ラケダにてイン=ビト王との久闊を叙している“師匠”ことウォン・フェイ・イェンの言葉であるが、そう言う彼の身長は0.43クラディオン (約172cm)。体も締まってはいるのだろうが中肉中背よりもやや瘦せ気味と云う感じで、目の前に立つ王と比べると大人と子ども、ゴリアテに対するダビデのような印象を受ける。
と、ここで、
「いやはや、相変わらず手厳しいですな」と、王が大筒袖をめくりながら言ったので、
「あ、いえ、そう云う積もりは」と、その身を半歩下げながらフェイは応えた。「ただ、私のような“普通の身体”でも使い方によっては皆さまのお相手が出来る。と言いたかっただけです」
(続く)
(注1)
もちろん。“ガッチガチの文系”の作者が呆けた頭で聴いて来たことなので、間違ってたらすみません。