第十一週:男と女(金曜日)
さて。
以上が、惑星オペンシアの統治者ショワ=ウーの第一夫人スピ=ヤビノの初産にまつわる物語である。
各種史書によると、この火中出産が行なわれたのは正式に星団歴4260年の12月13日。その後夫人とウー、それに産まれたばかりの四人の子らは、翌4261年の1月26日まで惑星ラケダのリアス王宮で過ごしたとされている。
母子ともに健康そのもの。ヤビノ、ウー夫妻の友人・知人・親族らも続々とラケダを訪問、出産を言祝いで行った。
で。
と云うことはつまり、その訪問者の中にはウーの第二夫人となったばかりのシ・ジェオやその母親ディ・ピェラもいたワケだが――、
「もうもうもうもう、わっち、画面の前で涙があふれてあふれて止まらなかったんやよ」と、開口一番ジェオが言い、
「わっちもヤビノさんが『アンタのうた、ワシ好きやし』ってデナンダさんに言うたとこ辺りから嗚咽と涙とむせび泣きが止まらんくっ……あー、想い出したらまた泣けてござったやないかあ」と、あふれんばかりの汗と涙と鼻水顔でピェラが続けた。「こんど録画したのん超高画質6Kにして送るな」
と、こんな感じで。
本来ならばここで、第一夫人と第二夫人とその母親をトリプルヒロインに据えた愛憎渦巻くと云うか権謀術策入り乱れると云うか平日お昼の韓国メロドラマ風的運命のメロドラマをおっぱじめても良さそうな登場人物&シチュエーションでもあるのだが――、
「もうな、ウーさんとのことで何ぞあったらすぐにわっちのところ来るんやよ。ヤザス上げてヤビノさん応援するし、わっちのことはオペンシアのお母さんやと想うてエエから」
とピェラは言うし、ジェオはジェオで、
「そうそうそう。そしたらわっちはヤビノさんの妹さんになりたいしー、いっしょの屋敷で住みてえしー、いっしょのお布団で寝たいしー、なんならヤビノさんの子ども産みてえくらいやしー、きゃー!ってかウーさんいらんくない?あーもー、ヤビノさんかっこエエなー、なーなー、“お姉さま”って呼んでええ?」
と、先々週までのウーに対するラブな想いはどこへやら、いまではすっかりヤビノの虜となっていて、いやはややっぱり覚悟を決めた母親の前には色男のフェロモンなんかクソの役にも――って、え?はい?なんですか?
『さっきジェオが言った「画面の前で」とか、ピェラの言った「録画した」とかはどういう意味だ?』?
あー、あれはですね――。
*
「わあっはっはっはっはっは!!」
と、そんなヤビノを取り巻く訪問客の大騒ぎを横目にひとり大笑いをしているのは、問題の八尋殿の所有者にしてレフグリス=リアスの実父、デナンダの義父、惑星ラケダの統治者、オーレス=リアス王その人であった。
と云うのも今回王は、可憐で勝気な妊婦 (=ヤビノ)と一見温和だが芯の強い息子の嫁 (=デナンダ)に懇願される形で火中出産用の八尋殿を貸し出したまでは良いのだが、その再建費用その他がキチンと回収されるかどうか不安に想っていたのだが、そんな時、とある若い大臣から、
「だったらいっそ動画配信にして収益化してみますか?」
と、古いタイプの統治者である王にはよく分からない提案をされたので、
「うん? ああ、ま、やるだけやってみてくれ」
と、よく分からないままに許可。ヤビノさんとの交渉等その辺の契約関係も含めすべてその大臣に任せっ切りにしておいたところ、今回の火中出産生配信が某亜空間動画投稿サイト開設以来の閲覧数&チャンネル登録数&投げ銭額を叩き出すことになり、
「なに?! こんなに儲かったのか?!!」
と、燃え落ちた八尋殿の二つや三つなら簡単に再建出来そうな広告収入その他を得たからなのであった。
(続く)