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第十週:彼と彼女(金曜日)

 承前。


 と云うことで、星団歴4260年11月。


 イン=ビト王が三番目の末子ショワ=ウーは、ヤザス族の姫君シ・ジェオをその第二夫人として娶ることとなった。すなわち彼女が後のシ夫人で、彼女はウーの息子ナム=ヌスと娘ポ=ニマを産むことになる。(注1)


 さて。


 この連載を読まれている方の大半が西暦2000年代の地球にお住いだと云うことを考えれば、この時ウーがしたことを皆さまにご理解頂くのは大変に難しいことであるのかも知れないが、しかしそれでも、一夫多妻と云う考え方は、銀河のあちらこちらで見られる考え方でもあって、例えば皆さまがお住いの地球でも、少し時代を遡ったり国や地域を変えたりすれば、どうしてもメスよりもオスの方が死にやすい、雌雄比率が歪になりやすい等の事情などもあり、結構普通に見られる制度、考え方であったりなんかもする――個人の好き嫌いはさておき。(注2)


 で、まあ例えば、ウーの住む北銀河北東域などでは古来より『複数の女性を愛せると云うことは情が深い証である』みたいな考え方が主流を占めていたりもして、結局このウーも、その生涯でヤビノ、ジェオ以外に正妻一名、側室六名を娶ることになったりなんかもする。――けっ。(注3)


 で、であるからして彼の第一夫人スピ=ヤビノも、この辺の事情や考え方は十二分に理解しており、


 たとえ夫が身重の自分をほったらかしにしたまま仕事と称して惑星を行ったり来たりしていようとも、


 たとえ自分がツワリで苦しんでいる時に夫が持ち帰った土産が塩漬けパラペアの缶詰 (注4)であったとしようとも、


 たとえ自分が『さ、そろそろ臨月やで』と体調を整えようとしているところに夫が十六・七の若っかい娘さんを、


「おう、ヤザス云うとこの女王さまが娘さんくれたけえ、今日から仲良うしてやってや」


 とか言って連れ帰って来たとしても、


 そこはそれ、


 それこそが男の甲斐性であり、


 それこそが彼の情の深さ厚さを証する行為であり、


 それでこそ私の愛した愛しい愛しい旦那さまであるワケで――、


 だなんて想うと想ったら大間違いだ!!!


 こんのタマナ (*検閲ガ入リマシタ)が!!!!(注5)


 と、云うことで。


 改めて、承前。


⑩ 事前の報告・連絡・相談のひとつもなく若っかい娘さんを第二夫人として貰って来たショワ=ウーに対しブチ切れたスピ=ヤビノさんは、その彼をボッコボコのメッタメタのギッタギタのケッチョンケッチョンに叩きのめした後、その可憐でか弱い身重の身体を引きずりながら、西銀河北西域は惑星ラケダに住む友人レフグリス=リアスとデナンダ・アングリス・パンテラ夫妻を頼りに、銀河を横断したのであった。


     *


「でも、でもですな、家令さん。確かにアイツへの事前のホウ・レン・ソウを忘れたんはワシも悪かったですけどな、それはもうこっちも色んな化け物と戦ったりデッカイ岩に圧し潰されて死んだりしとったからで、アイツとアイツのお腹の子らのことは一時たりとも忘れたことはなかったんですよ?(注6)」


「はあ……」


 と云うことで舞台は、そのレフグリス夫妻の住む星団歴4260年12月のリアス王宮賓客待合室へと戻る。


 汗と涙と鼻水まみれでこの待合室へと通されてからの約2.5ラオ (約5時間)、その屈強で鋼のような巨体をニセフトコロコメツキダマシ (注7)のように小さく小さく縮こまらせながら汗と涙と鼻水まみれの訴えを続ける我らが英雄ショワ=ウーであったが、そもそもそんな彼の訴えはヤビノ夫人に取り次いで貰えるワケもないし、その訴えを聞かせられ続けているこの王宮の家令 (勤続47年目)の太っとい堪忍袋の緒もそろそろ切れ掛けているところでもあった。(注8)


「せやけえ、せめて一目会ってやってくれとアイツに――」と、ウーが家令の肩をつかみ、


「ですから私の立場ではなんとも――」と、なかば切れ気味に家令が応えようとしたところで、


 カチャリ。


 と、待合室の扉が開いた。


 ヤビノ夫人の言伝を預かったこの惑星の第三王子、レフグリス=リアスその人であった。



(続く)

(注1)

 編者より。

 レ〇ィーボーデンのおっきい方×2(チョコとストロベリー)が効いたのか昨日乱れた作者の筆もどうやら治って来たようです。

 大変ご心配をお掛け致しましたが、以降は安心して物語をご堪能頂け――はい?「体が冷えて来たから今度は熱いお茶が欲しい」?そんなもん自分で淹れて下さいよ、先生。


(注2)

 あれ?


(注3)

 あれれ?


(注4)

 パラペアはオペンシアに広く生息する体長30~35cmほどの細身の海水魚。

 このパラペアを塩漬けにして発酵させたのが『シッシレ=パラペアモン』で、これは“北銀河一臭い食べ物”としてよく知られている。

 ちなみに。これがどの程度臭い食べ物かと言うと、このシッシレ=パラペアモンを初めて嗅いだ“百頭竜身リデス”が涙ながらの助命をその仇敵“三つ頭の大セルペ”に求めたと云う伝説が残されているほどで、ここから例の『三ツ頭のパラペアモン、百頭リデスまで』のことわざも作られたと云うことである。


(注5)

 編者より。

 あー、やっぱダメだったみたいですね…………えーっと、それでは私は、大量の焼き芋を買って参ります。


(注6)

 ウソ吐け、このドグサ (*検閲ガ入リマシタ)野郎。


(注7)

 昆虫の名。詳しくは「ラーメンズ 名は体を表す」で検索のこと。


(注8)

「堪忍袋」とは、なにも地球人類にのみ固有の袋ではなく、銀河の他のヒューマノイドやなんならオートマータ族のような機械生命体にも付いているような袋で、近代の大銀河グレーテスト・オリンピックにおいては、この堪忍袋を切らせるまでの時間を競う競技「CCBP (Cut the Cord of Bag of Patience)」が正式種目になっていたりもする。

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