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第一週:石と短剣(月曜日)

 タル=ジオはメル=テム (現在のス=ジン星系シ=タスの西半球)の人で、字 (あざな)はカ。二十四才の時に初めて兵を起こしたが、これは父方の季父タル=バリの造反軍に参加してのことであった。――が、この“造反軍”については後ほど述べることとしよう。


 タル=バリの父であり、ジオの祖父でもあったタル=ウドゥは、ジン国の将軍で、星団歴4246年、当時の東銀河帝国将軍レクスファヌによって殺された人であった。


 タル家は代々ジン国に仕え将軍を輩出、タル (現在のル=メン星系メル=ディオの南半球)に封ぜられたため、“タル”を姓としていた。


 と。


 さて。ここでいきなり話は脱線するが、このタル=ウドゥについて、巷間よく知られたエピソードをひとつ挿んでおきたいと想う。――ひょっとすると、この先展開されるであろうタル=ジオとキム=アイスオブシディアンの物語に何かしらの繋がりがあるかも知れぬからである。


     *


 星団歴4235年。ジンのベセンテ王の時、王は 《亜氏の碧玉》とされる石を手に入れた。


 《亜氏の碧玉》とは、時主の賢人 《法亜》が、東北銀河間を逍遥する非周期彗星 《インセッツ》の山中にて得たとされる名玉だが、第一次オートマータ戦争 (4214~18)の混乱で長く所在不明となっていたものである。


 その玉がどのような経緯をもってベセンテ王の下へと辿り着いたかは不明であるが、この噂を耳にし即座に動いたのが当時の東銀河帝国皇帝コンパルディノス二世であった。


 コンパルディノス二世の 《時主》に対する――と云うよりは 《ひとりの時主》に対する執着については、別の物語に詳しく書いておいたので割愛するが、この頃の皇帝が、時主族に関するあらゆる情報を収集していたのは想像に難くなく、しかも“碧い玉”である。


 皇帝は、近侍の宦官よりこの碧玉の話を聞くや使者を立て、ベセンテ王に書簡を送った。


「願わくは、(ジンとの境界付近にある)衛星三つをもって玉と交換したい」


 この余りにも破格の申し入れにベセンテ王は、半信半疑ながらも、タル=ウドゥを始めとする将軍・大臣らを集め話し合いを行なった。が、しかし――、


「それは、流石にハッタリでしょう」


「あのゴドラオオダヌキのことだ。石を渡したところで衛星は得られますまい」


「なんなら、我々が衛星に入ったところを星ごとユピトー (問題の衛星を持つ巨大なガス惑星)に堕とすようなヤツだ」


「しかしさりとて、渡さなければ帝国の軍兵を来攻させるよい口実にさせてしまうぞ」


 と、なかなか方針は定まらなかった。


 更に相手は、黒い噂の絶えぬ――名もなき一兵卒から皇帝にまで上り詰めた――“あの”コンパルディノスである。回答に向かう使者を求めても、みな尻込みするばかりであった。


 そうして、そんな話し合いが三日を過ぎようとしていたとき、宮廷仕えのある老女が、


「ひょっとして――」と、タル=ウドゥに耳打ちした。「以前、舎人として将軍に紹介させて頂いたあの小女 (こおんな)ならば、使者になれるやも知れません」


「小女?」と、この唐突な申し出にウドゥはつい、その老女の方を振り返りつつ訊いた。「何故そのような――」


 が、この問いの途中で彼は、自ら微苦笑することになる。老女の両の瞼が“閉じられたまま、綴じられて”いたからである。


「いや、すまん」と、続けてウドゥ。「そなたがそう言うのなら、その通りなのであろう」


 すると、老女はコクリ。と頷き、


「が、ただそれだけでは少々心許ない」と、将軍は老女に席を進めた。「もう少し、“未来”を教えて貰えるか?」



(続く)

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