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第九週:努力と友情と勝利(水曜日)

 承前。


『――あと、ま、こんくらいなら結構簡単に蘇生出来るもんですしな』


 と、ショワ=ウーが亡母にしてイン=ビト王が亡妻イン=ティド妃 (霊体)は言った。


 言ったのだが、困ったのは言われたヤザスが女王ディ・ピェラと、その娘シ・ジェオである。


 と云うのも、いま彼女たちの目の前に横たわっているのは高温冷めやらぬ朱色をした大ラト岩とその岩肌に焼け焦げ貼り付いているショワ=ウーの……言わば死体であり、そんな彼の呼吸も心臓も動きを止めていると云うことは素人目にもハッキリ明らかであり、霊体になるならまだしも、とてもここから“結構簡単に蘇生出来る”とは到底想えなかったからである。なので――、


「ほんでもアンタ、これは明らかに――」と、先ずは言葉を濁したピェラが言い、


「こんなんにこんな蒲白がなにか役に立つのやろか?」と、続いてジェオが、肩に担いだ大量の蒲白布を地面に置きつつ訊いた。「あと、この替刃式大型スクレーパーも」


『あ、そいつはちょっと違うんですよ』と、ジェオの手よりスクレーパーを拝借しながらのイン=ティド妃。『布と玉は身体の欠けら集めた後に使うて貰うんで』そう言いつつ岩にこびり付いた息子の欠けらを剥がしに掛かる。『すみませんが、お二人も剥がすん一緒に手伝うて貰えますかいのお――』


 と、云うことで。


 カリカリ、カリカリ。


 ガリガリ、ガリガリ。


 と云うエイモン社製替刃式大型スクレーパー×3の作業音がムプスの山中に響き、


『あ、そこはヒザ頭から削った方がキレイに取れますわ』とか、


『これ、どっちの小指や想いますか?』とか、


『あっ、そこは息子の大事な…………あー、はい、そこは後ほど私がやりましょう』とか、


 そんな感じの妃の御声も静かに厳かにムプスの森奥へと流れて行った。


 で、まあ、それから暫くして、


「ほんでもアンタ不思議やね」と、女王ピェラがチタン製の大型金だらいにウーの右手前腕を入れながら言うと、


「なにが不思議なのやか?」と、同じくウーの左足首を同じ金だらいに入れながら娘ジェオは訊き返した。すると、


「この岩」と、今度は右手上腕を剥がしに掛かりながらのピェラ。「まだこんな熱そうなのに、わっちたち焼かれたりしておらん」


 確かに。彼女たちがこの地に着いて約半ラオ、ウーが岩の下敷きになってからならおよそ1.5~2ラオほどの時間が過ぎたところである。ラト岩の性質を考えるのなら、当初蓄熱した2,100度は流石に無理だとしても、1,000度前後の温度は保っていてもおかしくはないのだが――、


『ああ、それは“闇”のせいですわ』と、ここで息子の大事な (*検閲ガ入リマシタ)を剥がしながらのイン=ティド妃。『いまのウーやワシのまわりになんぞ玄いモヤみたいなもんが掛かっとるでしょう?それが岩のオモテにも薄く漂って“汝の国”(注1)の熱を奪っとるんですよ』


 すると、「は?」と、頭上に大きな疑問符を作りながらのピェラとジェオだが、それに対して妃は、


『ま、そちらのカタスと違いウチのハドルツはなんや特殊らしゅうて――』そう続けると、『他の土地の方には理解しにく――お、取れた取れた、キレイに取れましたわ』と言って、岩から剥がしたばかりの息子の大事な (*検閲ガ入リマシタ)を振って見せつつニヤリと笑った。『これぐらい立派でしたらきっとそちらのお嬢さんにも (*以下、作者の好感度がダダ下がりする表現が続くので、省略)』



(続く)

(注1)

 “いましのくに”と読む。「あなた方のいる世界」ぐらいの意味だが、ここでのイン=ティドは死者の世界 (ハドルツ)から来ているので、どうしても、こちら側の世界をこのように呼ぶことになる。

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