第九週:努力と友情と勝利(火曜日)
さて。
以前 (第六週金曜日の注1)にも書いたが、イン=ビト王の家系には代々、生まれたばかりの赤ん坊に文身を施す風習があるが、これはただの装飾ではなく、彼ら一族の者が死ぬほどの窮地に陥った際、その祖霊らとコンタクトするための、死者からの加護を受けるための、媒介の役割を担っている。
その為、この文身の文様は通常状態では見えないのだが、彼らの身体が死やそれに近い状態に陥った際には、彼らの体表に浮かび上がり、死者からの加護 (ハドルツからの闇)をその場に呼び寄せることになるのである。
そう。
つまり。
この日この時、このムプスの山麓で呼吸と心臓を止めたショワ=ウーの下にもひとりの“死者”が呼び寄せられることになった。――彼の亡母イン=ティドである。
*
而して御親“イン=ティド”来たり。
ラトの岩下にひとり死ぬ、
愛しき我が子を哭き憂い、
冥府に戻りて始祖に乞う。
而して祖霊“リク=ルウ”応じる。
即ちヤザスが女王のピェラ、
ピェラが娘ジェオを遣わし、
繕い創り活かさんとしめき。
*
「ほんでなもは、おめえさんがウーさまのお母さまなのやか?」と、ヤザスの女王ピェラが訊くと、
『ガキは十四と三十五余り孕んだんですがのう』と、ウーの亡母イン=ティド (霊体)は答えた。『最後の最後のあいつはホンマ一番出来が悪うて――産むんまで旦那に任せたんがマズかったんかも知れませんなあ』
彼女たちはいま、イン=ティド妃の祖霊が一人リク=ルウの助言に従い、蒲白の綿毛で出来た大量の布と、女王ピェラが作り出した大量の硬玉、それにエイモン社製の替刃式大型スクレーパー×3本 (注1)を持って、大ラト岩の下で呼吸も心臓も止めているショワ=ウーの所へと向かっている最中である。
するとここで、
「ほんでなも、お義母さま、この大量の布と石は何に使うのやか?」と、ヤザスの姫君ジェオが訊き、「――あ、“お義母さま”とお呼びしてもよろしいやか?」
『ああ、ああ、もうもう、あんたみたいなかわええ子が義理の娘になってくれる言うんなら』と、笑いながらイン=ティド妃の霊体は応えた。『“お義母さま”やろうが“ババ様”やろうが“クソババア”やろうが好きなように呼んで貰うて構いません。ホンマなんちゅうんかなあ、いまん嫁もエエ子はエエ子なんやけど如何せん気が強うてのお、わしも気が荒い方じゃし、ケンカにならんよう気を付け――お、見えて来ましたな、あの大岩です』
そう言う妃の指差す先に二人が目を遣るとそこには、問題の大岩がいまだ朱い色を帯びたままドドドン。と鎮座ましましていて、その下には真っ赤に焼けただれ貼り付いたままのショワ=ウーの姿が見えた。
すると、この状況に言葉を失くしたジェオとピェラは――先ほどのイン=ティドの言葉になにか引っ掛かりはあるものの――彼の下へと駆け寄り近付き、
「こんなヒドイことをウチの男衆はやったのやか?」と、先ずはジェオが、
「あのゴンタども、戻ったらタダじゃおかん」と、続けてピェラは言ったのだが、しかし、
『あ、まあ、そんな気にせんといて下さい』と、問題の亡母は軽い感じである。『惑星統治なんかやっとるとようあることで、ほら皆さん土地ごとに色々事情もありますし、ウチの旦那もよう四肢もがれたり存在消されそうになりましたし、あと、ま、こんくらいなら結構簡単に蘇生出来るもんですしな』
(続く)
(注1)
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(注2)
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