第九週:努力と友情と勝利(月曜日)
ドッ!
と云う大きな音がムプスの山頂から聞こえ、
「アプルムが駆け出しましたぞ!」
と叫ぶヤザス長老フ・ラテルの声ならびに、
『ショワ=ウー殺さむ』
と云うヤザスの男衆八百八十人の熱いと云うか暑苦しいほどの妬み・嫉み・自己顕示欲の固まりのようなものが、ムプス山裾で獲物を待つウーの下へと送られた。
が、しかし、そもそも、ムプス山頂から駆け出したと云うか転がし落とされたのは、問題の鯨偶蹄目哺乳類などではなく、その哺乳類に見立てられた、熱く熱くマッカッカになるまで熱せられた (約2,100度)8クラディオンほどの大ラト岩であった。
が、もちろん。いつもの、頑健強固で四則演算も覚束ない割には勘だけは鋭いショワ=ウーであれば、この転がり落ちて来る巨岩の動きからこれが生物ではないことを悟り、また、ムプス山頂から送られてくる、
『ショワ=ウー殺さむ
ショワ=ウー殺さむ
ショワ=ウー殺さむ。』
と云うヤザス男衆八百八十人の妬み・嫉み・自己顕示欲の固まりのようなものから、
『あれ?』
と云ったような違和感を感じ、自身でも我知らずのうちに、何らかの回避行動を取っていたかも知れない。
が、しかし、それでも、本日この場の彼は、
①ルオサ・リデス・大セルペの表皮毒で手足の感覚が鈍くなっていたし、
②半神レタクの棍棒のせいで罹ったモコマアレルギーに頭がクラクラしていたし、
③さっきまで一緒だったゾンの女王ポリーテの色香と巨乳とエッチな太もも三連発に正常な判断能力と云うものを奪われていたので、
『なんぞ、岩のようなケモノじゃのう……』
と、そのボケた頭でボヤッと想うばかりであり、その為、
『ま、あたまに一発ゴボンとかませばおとなしゅうなるやろう……』
と、ボヤ―っとした感じに問題の棍棒を構え、ボヤ―っとした感じにその転がり降りて来るケモノ――ではなく、大岩を受け獲ろうとし、結果、
ドゴッ!!
と、ボヤ―っとした感じのまま、その熱く熱い大ラト岩の一撃を喰らうこととなった。
が、もちろん。いつもの、真っ裸でも堅甲利兵を絵に描いたようなボディをしていて、半年ぐらいの賞味期限切れなら意にも介さず消化する内臓を持っている彼であれば、こんな鉄をも溶かす大ラト岩 (注1)をぶつけられたぐらいでは火傷はおろかスリキズひとつ負わなかったのかも知れない。
が、しかし、それでも、本日この場の彼は、
①ユドネ・エーアース・テュパで取り込んだ細菌に皮膚と云う皮膚を侵されていたし、
②ミテルの矢で増殖されたこれら細菌のせいでひっどい頭痛と寒気と膝関節痛を感じていたし、
③さっきまで浴びるほど飲んでいたンタロ族の毒酒のせいでそれらの変異株も大量発生、四肢も内臓もボッロボロのボロボロ状態だったので、
『なんや、アホみたいに熱いんやのう……』
と、そのボヤ―っとした頭でボヤ―っと想うばかりであり、
『ま、これぐらいゴロンと横倒しに転がせばエエか……』
と、問題の棍棒を捨て、我と我が身を焼きに来る問題のケモノ――ではなく、問題の大ラト岩を倒そうとした瞬間、
ガク。
と、彼の膝は折れ、そのまま、熱く熱い大ラト岩に圧し潰された彼の身体は、焼きに焼き尽くされ、その力強かった呼吸と心臓は動きを止めることとなった。
(続く)
(注1)
ちなみに。鉄の融点は1,538℃で、この時の大ラト岩の温度は、それよりも600度ほど高い2,200度ほどであったとされている。