第八週:色香と巨乳とエッチな太もも(金曜日)
「ほな、気ぃ付けて帰るんやで」と、ゾンの女王ポリーテに百頭竜身リデスの肉を土産に持たせながらウーは言った。「また、姉さんとこにも遊びに行くけえのお」
すると女王ポリーテは、
「マ=ダンのアプルムは気性が荒いと聞きますでなも」と、ミテルの矢を三つに折りながら (注1)応えた。「どうぞ気を付けて行って帰って来て下せえ」
が、こんな二人のやり取りを横で見ていて気分が悪いのはヤザスの男連中である。我らが女王や姫君だけでなく、彼を殺すために連れて来た百戦百殺男嫌いで有名なゾンの女王 (姉御系巨乳美人)もウーにメロメロ腰砕け、当人に悪気はないのかも知れぬが、これはもう存在自体が罪である。なので彼らは――、
『ショワ=ウー殺さむ』
と云う想いも新たに、いざと云うときの為に用意しておいた十三番目の暗殺案を実行に移すことに決めたのであった。
*
「ここがマ=ダンのムプス山です」と、その頂上を指しつつフ・ラテルは言った。「目的の朱アプルムはあの辺におるはずです」
「大きさは?」と、ウーが訊き、
「七と半クラディオン程かと」そうラテルは応えた。「この辺りでも特に大きなオスです」
「ゴ=ジュのデカいんよりも大きいのお」
「大きい方が味がよく、色も黄・蒼・白・朱の順で美味くなります」
「なるほど。朱で一番デカいから一番美味いっちゅうことやな」
「姫も女王も喜ばれるでしょう」
「うん。手順は?」
「先ず、我々が頂上まで上り、ヤツを追い立てます。すると、アプルムの習性として麓の方へと駆け降りて来ますので――」
と、ここでラテルが、ウーが半神レタクから奪い取った天然コランダムの棍棒を指すと、
「なるほど」と、その棍棒をブヒュン。と振りながらウーは応えた。「下で待つワシが、ソイツを討ち取ればエエんやな」
するとラテルは「その通りです」と、微笑みながら答えたが、もちろんこれは嘘である。
と云うのも、この時すでに他のヤザス達は山頂へと登り、そこにあった八クラディオンのラト岩 (注2)を焚火や火炎放射器やオオオペアカゴミムシ (注3)の発する高温ガスなどで熱している最中だったからである。
つまり。彼らの“十三番目の暗殺案”とは、
①超高温となり朱に染まったこのラト岩 (全長約32m)を大アプルムに見立て、
②ムプス山 (標高約1,400m)の山頂からもの凄い勢いで転がり落とし、
③山裾でこれを待つウーにぶつける。
と云うものであった。
が、しかし、いつものウーならば、これ位のことで死ぬはずがない。
と、そんなことはこちらも百も承知で、そこはそれ、カニス=カゴマスも裸足で逃げ出す狡猾怜悧なヤザスが長老である。彼は、これまでの十二の殺害案の中に、この第十三案に向けた伏線もシッカリ張っていたのである。
そう。それはつまり、
先ずはネメーイオンの牙で彼に傷を負わせ、
ユドネの沼の細菌をその傷に潜り込ませる。
ミテルの矢の呪いでその細菌を増殖させて、
ンタロ族の毒酒で変異株も大量発生させる。
更に糞尿処理施設で別の細菌を潜り込ませ、
怪鳥の唾液からまた別種の細菌も潜ませる。
その後、半神レタクの棍棒の呪いで彼をモコマアレルギーにして判断力を奪うと、
女王ポリーテの色香と巨乳とエッチな太もも三連発で更に彼の判断能力を鈍らせる。
で、まあ、更にダメ押し的に?ルオサ・リデス・大セルペの表皮毒で彼の手足の感覚を鈍らせる。と云うものであったのだが――、
さあ! 果たして!! 我らがショワ=ウーの運命や如何に?!!
(続く)
(注1)
ゾン族に伝わる魔除けのまじないの一つ。『旅路の平安を』の意味がある。
(注2)
我が惑星の御影石によく似た岩の名。
御影石の融点も1,000~1,200度と高いが、こちらのラト岩は更に1,800~2,100度と高く、それだけ多くの熱を蓄えることが出来る。
(注3)
オペンシアを始め北銀河でよく見られる大型の昆虫の名。
地球のミイデラゴミムシのように、外敵からの攻撃を受けると体内で過酸化水素やヒドロキノンなどの化学物質を反応させ、その尾端から超高温の気体を爆発的に噴射することで知られるが、ミイデラゴミムシとの大きな違いは、そのサイズ (一抱えほどある)と、噴射する気体の温度 (紙や木も燃やせる)であろう。