第八週:色香と巨乳とエッチな太もも(火曜日)
承前。
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ヤザスが姫君“シ・ジェオ”来たり、
民らの前に一人立つ。
高き男に目を遣ると、
高き男も目を遣返す。
斯くて各々目合いて、
斯くて各々目結わす。
すると姫君走り去り、
己が御所に還り入り、
その母君に申し曰く、
“èèyàn tó rẹwà gan-an ló dé.”(注1)
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※編者注:
ここまで、彼らヤザス族の言葉は、こちらの作者の「臨場感を優先したい」と云うちょっと意味不明な意見を尊重し、作者が提出して来たものをそのまま採用していたのだが、舞台がここ 《オペンシア》に戻って来たことを機に、改めて読み返してみたところやはり、臨場感以前の問題として、大変読み難く、且つ、あまりにも読者そっちのけであると云う大問題に気付いてしまったので、以降は、こちらで訳した邦訳を――あの丸でダメ男の了解などは取らずに――載せるようにしたいと想うので、賢明かつ懸命なる読者諸姉諸兄に置かれましては、改めてこの旨ご容赦ご海容賜わりたく存じます。
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すると、ここで姫君が母、ヤザスの女王“ディ・ピェラ”は、「イケメン?」と、手にした角杯を傍らの端女に渡しながら、「外で男衆が騒いどるのはほんでなもすか?」そう娘に訊いた。「どんな感じのイケメンやか?」
すると姫君は、その白き顔を微かな朱に染めながら、「川横のオリム (注2)の下におるやが」と応えた。「でらキレイな男の人や」
「どれほどのイケメンやか?」と、女王は重ねて訊き、
「わっちら父王にも勝るほどのイケメンやさ」と、姫君は応えた。「ちびっとグロゥムヘム (注3)に似ていますでなも」
この応えに女王ピェラは、「グロゥムヘム?」と小さく呟くと、先ほどの角杯を端女から取り戻しながら、御所より外へと出た。
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「ほじゃけえ、いまのおなごは誰ち訊いとるんじゃ」と、ショワ=ウーがヤザスの長老に詰め寄りながら訊くと、
「おめえさんに教える理由はあれへん」と、ヤザスの長老は答えた。「それより、うちとこの若い衆と戦うのか戦わへんのか」
さて。つい先ほどまで彼は、ショワ=ウーの隠している力を見極めつつ、血の気に逸るヤザスの若連中を抑え込みながら、この新たな惑星経営者から如何にして少しでも有利な条件を引き出そうかと、そのカニス=カゴマス (注4)が如き狡猾怜悧な脳細胞をフル回転させていたのだが、偶然現れた姫君の瞳が恋する乙女のそれに変わるや否や、そんな奸佞邪知たる彼の部分は何処へと吹き飛んでしまい、
『わっちは姫さまが生まれる前から、姫さまをお慕い申しておるんや』
『こんなソソノレトなヴュョバヨァに我らが姫さまを奪われてなるものか』
と、幼き日のジェオ姫を、彼を“おじじ”と呼んでくれた彼女の面影を想い出しながら、
『若いもんの一人や二人犠牲にして――』
と、“将に忠臣ここにあり”のようなことを考えていたのだが、そこに――、
「あれまあ、ほんまイケメンやねえやか」と、突然現れたピェラ女王の声に我に返されることになった。「おめえさんどこのだれやか?」
が、しかし、この女王の言葉にウーが、これまた別タイプの美人登場とばかりに、
「ワシャ、イン=ビトが三人目の末子ウーや」
と、鼻の穴膨らませながら答えたので、彼の殺気&怒気も更に膨らむこととなった。
(続く)
(注1)
ここでのシ・ジェオ姫の言葉を邦訳すると次の通り。
「とても美しい人が来ました」
(注2)
オペンシア原産の香木の名。
この木の枝・皮などは持薬用とされ、めでたい席などに飾られる。見た目は我が惑星の肉桂や月桂樹に近い。
(注3)
北銀河北東域出身の俳優、ポルト=グロゥムヘムのこと。甘いマスクとそれとは少々不釣り合いなマッチョなボディで、特に女性ファンの人気が高い。
「繊細且つ強烈。驚くほどのハンサムなのに驚くほどにフレンドリー。クラスに一人はいるタイプと見せ掛けておいて、どこの世界にもいないタイプ。あのボディにメロメロになる女性ファンは多いけど、彼の一番の武器は、あの多彩な顔芸よね」とは、お昼の連続コメディドラマ『共犯探偵』で彼のワイフ役を務めた女優ニオマ=コッチャーの評である。
(注4)
主に北東銀河に生息する哺乳動物。ずんぐりとした体に短い脚を持ち、我が惑星のタヌキにキツネとブルドッグを掛け合わせたようなルックスをしている。
催眠&変身能力でひとを化かすことでよく知られており、そこから『ひとの良さそうな見た目をしているが、実際にはずる賢い者』のことを、北東銀河域では「カニス=カゴマス」と呼ぶ。