第八週:色香と巨乳とエッチな太もも(月曜日)
さて。
“北銀河の神砂嵐を呼ぶ男”ことイン=ビト王が放った最大絶対極大奥義、数多の詩にも詠われた 《最大剋星龍捲風》を、その小さな体にまともに喰らった惑星スレスト (イラティオ3系第一惑星)は、その後、自らの公転軌道を変えてしまうほどの急激な地殻運動を開始、ほどなくして彼女が所属する恒星イラティオ3の重力圏に囚われ、そのまま彼に飲み込まれてしまうこととなった。
となったが、この惑星消滅の理由については、以前 (第五週金曜日)にも書いた通り、こちらの星域を管轄する西銀河帝国守護や星団査察部門などによる現地調査が複数回に渡り行なわれたものの、結局、公的には、“直接の原因は不明”と記されることとなった。
なのでそのため、これまで二週に渡りご披露致して来た所謂『イン=ビト王家ケンカ説』は、前述の研究者 (こちらも第五週金曜日に登場)とこの作者が、各種の資料・史料を基に、それら状況証拠から導き出した一つの仮説に過ぎないことは、ここで改めて申し上げておきたい。
もし、今回のこの説に何かしらの興味・関心を持たれた方がおられたのなら、この基となった資料・史料に直接当たられることをお薦めするし、それが作者としても一番の歓びである。
特に、雲の惑星 《ハイヘブ》の王宮史書や風土記は、亜空間ネットにアクセスすれば今では誰でも無料で簡単に読めるし、彼の王家の“驚嘆せずにはいられない”歴史記述をこれでもかとばかりに堪能出来るので、是非一度お読み頂ければと想うが――閑話休題。
さて。
この惑星スレストの消滅が星団歴4247年のことで、その7年後の星団歴4254年、スレストの大地で約束した通りに王は、自身の持つ三つの惑星をその末子三名にそれぞれ譲り渡すと、各々で統治するように命じた。
それはつまり、一人目の末子イル=ミトには雲の惑星 《ハイヘブ》を、二人目の末子シン=ムンには夜の惑星 《ルルナイ》を、三人目の末子ショワ=ウーには水の惑星 《オペンシア》を、各々上手いこと運営管理してくれ、わしゃもう疲れた――と云う意味であった。
と、云うことで。
ここで話は、やっと、星団歴4260年11月の水の惑星 《オペンシア》へと戻ることが出来る。
そう。
あそこ (第五週の水曜日から金曜日)の場面でショワ=ウーは、《オペンシア》の原住民 《ヤザス》の一団と口論になり、そのひとりと、もう少しでステゴロのケンカでも始めそうな勢いになっていたのであった。
――やれやれ、やっと戻って来れた。
*
「ほじゃけえ安心せえ、命までは取らへん」そうショワ=ウーは言うと、若者の後ろに立つ他のヤザスたちに向け、「そっちん老いぼれどもも安心しとけ、こん惑星めがしたりはせんけえ」そう続けた。「そんなんしたら、ワシがあんジジイにグァ (*検閲ガ入リマシタ)られてしまうわ」
もちろん。このウーの言葉に噓は無く、この惑星の新たな経営者として、これから良好な関係を築いて行かなければならない原住民の方々に、圧倒的な力による恐怖を植え付――いや、漢と漢、体と体、生身の拳と拳を交えることで、友情にも似た信頼関係を構築しようと考えた訳である。(注1)
であるが、突然ここで――、
「Kini o ti ṣẹlẹ?」と、傍らの林から麗しき乙女の声がした。「Kilode ti gbogbo yin fi n pariwo?」(注2)
白き腕に細き腰、女神の如き顔に、髪はまるで白金が如く。蒲白 (注3)の白き衣を纏う、ヤザスが姫君、“シ・ジェオ”であった。
(続く)
(注1)
こーゆーのを“詭弁”と言います。
(注2)
ここでの“シ・ジェオ”の言葉の邦訳は次の通り。
「なにかあったの?」
「みんな、なにをそんなに叫んでいるの?」
(注3)
オペンシア原産の植物の一種。その綿毛は羽毛よりも軽く、断熱保温効果にも優れていたため、衣料によく用いられた。
現地では“あの花”としか呼ばれておらず、学名も付けられていない。
我が邦の“蒲 (がま)”によく似た形をしており、且つその花穂が白いため、この地を訪れた地球出身のある童話作家は“蒲白 (ホハク)”と呼んだと云う。
なので今回は、その童話作家へのリスペクトの意味も込めて、この呼び名を採用させて頂いた次第である。
また、この綿毛を乾燥した物には止血効果があり、薬用としても重宝されていたと云うことであった。