第七週:動機と理由(土曜日)
ブブ、ブブブ、ブブ。
“ナ?”
ブ、ブブブブ、ブ~ン。
“ナニャッ?!”
ブ、ブブブブブブブブ、ブ~~ン。
“フニャッ!!”
*
「もう聞くだけで疲れちゃっ――あ、そだ」
『はい?』
「さっき、あの子のことスキャンした?」
*
《木曜日。15時43分》
『“あの子”とは、Miss坪井の事ですか?』
「そうそう。西子ちゃんのお姉さん」
『はい。確かにスキャニング致しましたが?』
「なんで?」
『“なんで?”とは?』
「別にポッドの中に入れるわけでもないし、検疫?的なことは必要なかっただろ?」
『はい。あのスキャニングは、そう云った通常の手順によるものではありませんでした』
「だろ?だったらなんでしたのさ?」
『はい。実は先ほどの“オバ……“お若いレディを名乗る女性”のスキャニング結果を分析・検証していたところ、少々興味深い結果が出て参りましたので、その補強になればと想い、Miss坪井の遺伝子情報も――』
「……うん?なんでさっきの“オバさん”の話が出て来るんだ?」
『はい。あの“お若いレディを名乗る女性”の遺伝子情報をこのポッドに乗船履歴のある他の方々のそれと比較していたのですが、つい最近乗船された方の中に二名ほど、大変近しい関係の方がいらっしゃいまして――』
「あー、親戚とかそんな感じ?」
『はい。そのようなものです』
「ふーん。ま、あのオバさん、このポッドのこともナツ君のこともよく知ってたようだしおかしくないかもな――二名って誰?」
『Miss坪井西子と、Mr.樫山です』
「へ?」
『西子さまの方は少し離れているようなのですが、Mr.樫山の方は大変近く――』
「え?でも、あのふたり、別に親戚とかじゃないんじゃない?」
『はい。あのお二人に遺伝的な繋がりは認められませんでした』
「だったら――」
『そこで、西子さまのお姉さまの東子さまをスキャニング、“お若いレディを名乗る女性”との遺伝情報を比較したところ、あのお二人が母娘関係にあることが分かりました』
「――は?」
『通常の判定なら、99.99%の確率で、あのお二人は母親とその娘です』
「そうなの?!」
『はい。通常の判定ならそうなります』
「あー、言われてみれば雰囲気似てたかも。二人ともおっぱい大きかったし」
『胸部の膨らみもそうですが、耳介外縁の形状や腎臓の能力なども親近性が強く――』
「なーんだ。西子ちゃんと東子さんのお母さんだったってことか。だったらだったで、そう言ってくれればよかったのに。俺、けっこう失礼なこと言っちゃったよ」
『あ、いえ、デュさん。その認識は間違――』
ブ、ブブ、ブブブブブ。
「――なんだ?」
『膜翅目の飛翔音のようですね』
ブ、ブ~ン。ブ、ブ~ン。
「“まくしもく”?ってなに?」
『地球における昆虫の分類の一つで、ハチ全般とアリを含むグループのことです』
ブブブブ、ブ~~~~ン、ブブブ。
「“ハチ”って、“ホデリオオコガネバチ”とか、“イワナモモトリオオオバチ”とか?」
『はい。ただ、その二種は東銀河には生息しておらず、いまポッド内にいるのは…………“オオツタハコバツバメバチ”のようですね』
(続く)