第七週:動機と理由(金曜日)
イン=ビト王の 《最大剋星龍捲風》を正面から受け生き残った者は、史書に明記されているもので、わずかに五名。
ひとりは、西銀河にその人ありと謳われた盲目の武術の達人ウォン・フェイ。
ひとりは、全主と火主の血を引くと言われた不老長生のアルサ=フェトゥム。
そうして、残る三名は、昨日までの連載でお見せした通り、イル=ミト、シン=ムン、ショワ=ウーの、王の末子三名であった。
*
「なるほど」と、身にまとっていた怒気と殺気を解きながら王は言った。「“あの方”が二人の動機で、お前の理由か――」
王の目線の先、ムンの遠い背後には、丘に立つひとりの女性が見えていた。
それから王は、両手を“コン=エイロ”の形に組んだまま動けなくなっているムンの肩をトン。と叩くと、「家に帰るぞ」そう言って彼が彼自身に掛けたままの呪と守を解いてやった。「タルヤ殿を呼んで来てくれ」
また、ここで王は、自身の足元で抱き合い倒れたままのミトとウーの背中をそれぞれガッ、ギッ、とばかりに蹴飛ばすと、
「オノレらもサッサと起きて立て」そう言って無理やり二人を立ち上がらせた。「男同士で抱き合うて気色の悪い」
「ジジイ……?」と、ウーが訊き、
「約束は約束じゃ、惑星はやる」と、王は応えた。「が、タルヤ殿は諦めえ、あの人は“フアジ”に身体捧げとる身じゃ。お護りするんもお慕いするんもええ、が、それ以上の感情はあの人を困らせるだけじゃし、それに――」
するとここで、
ビキ、ビギ、ビギィ。
と、三人の立つ大地に、静かに、しかし早く深く、大きなヒビが入り始め、
「ヤッベ」と、王は静かに、しかし確かに焦った声で「やっちまった」と言った。
王の 《最大剋星龍捲風》は、いわゆる“ソニックブレード”の一種である。
で、あるが、その威力の膨大さと複雑さ加減のため、銀河中の騎士や武術者から恐れ畏れられ、且つ、その習得の困難さが言われて来たワケである。
特に、その“複雑さ”においては、前述のシエノ=オウルタス卿が「まったくもって術理不明」と語った通り、その波がどのような軌跡を描き、成長し、どのような波紋を織り成し、それを受けた者達に――それを受けた“物”達に――どのような影響を与えるかについては、放った側にも放たれた側にも“まったくもって”未知数且つ意味不明であった。
であるからして王は、この技を放つ時は必ず、“波”を受け止める物のない宙空や広大な大地に向け、且つ、それを受ける対象が悉く薙ぎ払われてくれるような場面であることを十二分に確認しつつ放つようにしていた。
が、この時ばかりは、父としての歓びが多分に勝ったのだろう、そんな様な事情をすっかり忘れ、スレストの大地に膝突くウーに向け、渾身の 《龍捲風》を放ってしまった。
その為、今回王の放った弾性波は、ウーにもミトにもムンにも当たらず、そのまま、スレストの大地を直撃、複雑な波紋効果をもたらしつつ、その惑星の内部へと浸透、拡散、急激な変化を起こさせることになった。
ゴ、ボゴゴゴ。と、大地の唸り声が聞こえ、
「ヤッベ」と、今度は確かに、周囲にもその『やっちまった』感が伝わる風に王は言った。「流石にこれは逃げた方が――」
と、ここで、
「王!」と、タルヤを連れたムンが叫び、
「“カサエペス”を最大まで拡げろ!」と、ミトとウーを肩に担ぎつつ王は応えた。直後――、
ボゴン!と、スレストの大地は、自身の身体ごと彼らを宙へと押し上げると、
ドゴォオォォオォォォォォォォン!!
と、大層急激な地殻運動を開始した。
(続く)