第七週:動機と理由(木曜日)
「ならば、これをこの場で受けてみろ」と、《最大剋星龍捲風》の構えを取りつつ王は言った。「生き残れたら、聞かんでおいてやる」
いま王は、その左手でイル=ミトの首を持ち上げ、その同じ腕を取りに来たショワ=ウーに対しては、取られた腕を少しく曲げ、腰を軽く落とすことで、スレストの大地に膝を突かせている。この王の息子らは、ミトもウーも、それぞれ半クラディオンは優に超える巨体なので、老年と言ってもよい背格好の王がこの形を取っていること自体奇妙に見えるが、ここで王は更に、《最大剋星龍捲風》を放とうと云うのである。と、ここで――、
ガッ。
と、そんな王の右手首――《龍捲風》発動のため左腕に添えられた右手首――をつかむ者がいた。
「こ……んな……もん……ま……とも……に、受け……たら……アカン」
王に吊られ意識も絶え絶えの兄・イル=ミトであった。
「ジ……ジイ……の……あ……いて、は……ワ……シが……する」と、ミト。王の手首に自身の左の手指をめり込ませながら言う。「に……げろ……ウー」
ほぉう。と王は、背中の毛が総て立つほどの喜びを感じた。
が、これもいけなかった。
息子の成長を喜ばぬ父親はおらず、それが自身の腹を痛めて産んだ子であればなおさらである (二回目)。
王は、口元を更に綻ばせると、彼らの成長と勇気に最大限の敬意と愛情を示すため、
「ならば、二人で“コレ”を受けてみろ」と笑った。「首が落ちねば合格――お前らに“ハイヘブ”と“オペンシア”をやろう」
“ハイヘブ”も“オペンシア”も、王が統治する惑星である。
ザッ。
と、王の右足がその位置を変え、
ブン。
と、ミトがその身を捩り、王とウーの間に踊り込もうとした。すると――、
「“最大剋星――”」
と、王が技を発動し掛けたタイミングで、
ガッ。
と、今度はウーが、王と自分の間に踊り込んで来たミトの身体を受け止め、そのまま王の面に立とうとした。が――、
「“――龍捲風”!!」
と、王が技を発動した、その一瞬――いかな王とてその時だけは兄弟を掴む力の緩むその一瞬――を突いて、
ブンッ!
と、今度はミトが、弟の身体を抱き締め、彼と二人身をひねり、《龍捲風》から逃れようとした。直後――、
ドッ・ウゥオォォン!!!!
と、多分に王のその歓喜と愛情のせいであろう、通常の二倍はする 《龍捲風》がミトとウー、そしてスレストの大地を襲った。
「参った……」と、王はつぶやき、それぞれの身体から離れ宙へと舞って行く、兄弟のつなぎ合った右腕と左腕を眺めた。「互いにかばい合うてなんのつもりじゃ」
が、しかし、これは王の早合点であった。
先ず、宙へと舞ったかに見えた兄弟の腕は、依然彼らの身にしっかと繋がっており、
次に、彼らには、その身を案じかばい合う兄弟がもう一人いた。
「なんじゃ、来とったんか」そう王は言った。
息子の成長を喜ばぬ父親はおらず、それが自身の腹を痛めて産んだ子であればなおさらである (三回目)。
「“カサエペス”ひとつで飛び出して来るとはのう」と、僅かに歪んだ空間を見詰めたまま王は言い、「確か“ルルナイ”が残っとったな」と、目に入った埃を払った。「よかったら貰ってくれんか?……ムンよ」
(続く)