第七週:動機と理由(水曜日)
さて。
イン=ビト王の名を伝説的なものにした逸話や事件や出来事はそれこそ星の数ほどもあるが、その中でも特に名高く恐れ畏れられた物の一つに、王が開発した究極絶対最大奥義 《最大剋星龍捲風》がある。
なにしろこの技は、銀河の歴史を通しても、習得出来た者は十人いるかいないか、西銀河の剣聖シエノ=オウルタス卿を持ってしても、「まったくもって術理不明」と言わしめるほど習得困難な技であった。
であったがしかし、と云うか、それ故に、と云うか、この技の習得を望む騎士や自国の騎士に習得させたいと願う国家も古今東西多数存在、イン=ビト王ご本人を招いての講習会やDVDディスクの販売なども積極的に行なわれていたようで――うん。そのDVDから少し見てみよう。
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「違う、違う、違う!」と、王は叫び、「“無から有を生じさせる”んちゃう、そんなこと出来るハズがなかろうが?!」と、居並ぶ騎士たちに説いて言う。
が、言われた騎士たちは騎士たちで、『別にそんなこと想っていないのですが……』と云う困惑顔で王を見詰めるばかりである。
すると、そんな彼らの純真無垢的表情に、ジェネレーションギャップと云うかコミュニケーション・ブレイクダウン的ムードを感じ取ったのだろうか王は、更にちょっとイラついた感じになって、
「ほじゃけえ、腕をこう十字に構えるじゃろう?するとこう、時間がグググググググィッと遡るような感じになるじゃろ?」と続けた。
すると、『お、何かエエ感じの説明になって来たか?』と、王としては想えたのだろう、
「ほいで、それをドンドンドンドンドンドン遡らせれば遡らせるほど、こう熱い玉?みたいなんが出来て来るような気がするやろ?」と、ちょっと興奮した感じで続け、
「で、それを行けるとこまで行かせて、ドンッと爆発させる!」と、技を出すフリをして、「これでエエんじゃ!!」と、満足そうな声で言った。
言ったのだが、困ったのは言われた方の騎士たちで、彼ら彼女らの頭上には先ほどよりいっそう大きな疑問符が浮かんでいる。すると、ここで一人の若い騎士が意を決して、
「すみません。それは周囲から気を集める感じですか?」と王に訊いたのだが王は、
「違う違う、そんな 《元〇玉》みたいなもんとちゃう」と、にべもなく答えるだけであった。「ここには、ただ 《玉》があるだけじゃ」
すると今度はまた別の中年騎士が、
「四次元ウェストポーチから秘密道具を出すイメージに近いかと想ったのですが?」と恐る恐ると訊いたのだが、これに対しても王は、
「それとも違う。それでは“向こう”にある力しか使えん」と、よく分からぬ答えを返す。
で、それから更に少しの質疑応答があって結局王は、「なんで皆んな分からんかのお……」と、一人呟くことになるのであった――。
*
と、まあ、以上のようなやり取りがどこの講習会でも見られたらしく、そんなこんなが何年も何十年も続いたこともあって王は、
「やはり、身を以って覚え込ませるしかないんかのお……」と、なかなかの職人的・体育会系的結論に辿り着くことになったし、
そこに加えて昨今のコンプライアンス意識向上なんかもあって、「死んでも良いから、覚えて来い」とまで言ってくれる騎士団もなくなったことなんかもあって、
「なんぞ、詰まらんのお……」と、王は嘆くことになったし、その代わりに今回、この惑星スレストの地で想像以上の力を見せた息子の成長について喜ぶことにもなる。
『こいつになら、ぶつけても大丈夫なんちゃうか?』――と。
(続く)