第七週:動機と理由(火曜日)
承前。
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え?なに?「亀仙○のカメハ●波で月が消えたことがあった」? だーかーらー、あーゆー作り話と一緒にしないで下さいよ。
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と、云うことで再び、21世紀初頭の地球人類の方々にも近くて分かり易い例をひとつお出ししておこう。
それは、星団歴4027年 (皆さまの暦に直すと西暦2022年)の9月のこと。そちらの惑星の北半球の、とある大陸の、とある連邦共和国の、とある機関、《全国航空及び宇宙管理局》は、彼らが所有する無人探査機 《DART》を、《ディモルフォス》と呼ばれる小天体に衝突させ、その軌道を変える実験に成功した、と発表した。
こちらの 《ディモルフォス》は直径約170m、彼女よりも少し大きな小惑星 《ディディモス》 (直径約780m)の周りを回るラブルパイル天体であったが、この 《DART》の衝突によりその軌道周期は4%ほど変化させられ、11時間55分あった軌道周期は11時間23分にまで短縮させられた。
この実験の成功を受け、当該局の惑星科学部門長などは、
「我々は、地球人類の新時代に乗り出そうとしています」
と言ったし、同国にある某応用物理学研究所のとある博士などは、
「(新たな惑星防衛策が出来て)地球人類は以前よりも安眠出来るようになるはずだ」
と語ったとされているのだから、この時の地球人類の興奮はさぞ大変なものであったことであろう。
もちろん。たかだか直径170mほどの天体の軌道修正に一喜一憂するさまを見て、あまりに原始的なもののように想われる方もいるかも知れないが、それでも、レベル5にも達していなかった時代の、“野蛮”“未開”と他星から蔑まれていた時代の、地球人類が成した快挙であることを踏まえると、彼ら彼女らのこの興奮も、大変“可憐”なもののように作者には想えるのだが、如何だろうか?
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と、云うことで。
毎度の如く、説明と言う名の横道が長く遠くなってしまったが、ここで私が皆さまにお伝えしておきたかったのは、ただただ、
『皆さんが想っているよりも、天体の軌道修正って簡単に出来るっぽいですよ』
と、云うことである。
もちろん。
右の例は、たかだか直径170mほどの小天体の軌道修正であり、現在問題にしている天体 (イラティオ3系第一惑星スラスト)の直径は約120万クラディオン (約4,800km)、比較の対象としては余りにも差が大き過ぎるような気もするが、そこはそれ、こちらは“原因”の方も、全長20m足らずの探査船などではなく、全銀河より“化け物”と恐れ畏れられるイン=ビト王と、そのご子息たちである。――なんか、出来そうな気がして来たでしょ?
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「いくらオヤジでも、言えんもんは、言えん」
と、圧倒的な父王の力に抗しながら、ショワ=ウーの身体は、そこでスレストの大地に沈むのを止めた。
ほう。と、王はこれを嬉しく想った。
が、これがいけなかった。
息子の成長を喜ばぬ父親はおらず、それが自身の腹を痛めて産んだ子であれば (注1)なおさらである。王は口元を少し綻ばせると、
「ならば、これをこの場で受けてみろ」そう言って、ウーに掴まれたままの左腕に、そっと自身の右手首を重ね合わせた。「生き残れたら、聞かんでおいてやる」
《最大剋星龍捲風》の構えであった。
(続く)
(注1)
第六週金曜日の(注2)でも書いたように史書の記載ミスだと想われるが、イン=ビト王の心情をよく表している表現でもあるので、今後も引き続き使用させて頂く。