第六週:安堵と恐怖(土曜日)
《木曜日。15時11分》
カチャ。
「あー、どうもすみません、わざわざ。確か西子さんのお姉さんの――」
「あ、はい、こちらこそすみません。西子の姉の東子、坪井東子です」
「あー、はいはい、なんかやっぱり雰囲気似てますね、西子さんと」
「え、そうですか?うちの姉妹は四人ともあんま似てないって言われるんですけど――」
ピー。
「――?いま、なにか光りました?」
「え?……えっ?――あ、いや、あー、いえ、私には特になにも…………って、ああ、ほら、それより、ほら、樫山さんの電話」
「あ、そうでしたね」
「えっと、これですよね?この青いケースの――」
「そうそう、それです、その青いケース。――ちょっと見せて頂いていいですか?」
「どうぞどうぞ」
「えーっと……はい、間違いありません。私が入れてもらったマークも入ってますし」
「“入れてもらった”?」
「あ、これ、私が先生のお誕生日にお贈りしたケースなんですよー」
「へー」
「先生って同じスマホを何年もケースなしで使ってらして、まあそれで落としたりキズだらけにしたりはしないんですけど、ほら、その辺、かなりキチンとされてる人なんでー」
「あー」
「でもほら、ずっと裸のままスマホ使ってるのもちょっとアレだったんで、どうにかして上げたいなーってずっと想ってたんですね」
「ああ」
「でもでも、なんのアレもないのに突然スマホケースプレゼントするってのもチョットおかしな話じゃないですかー」
「ああ」
「で、ちょっと迷っ――、あ、ケース選びでは迷ってなかったんですよ?えーっと……ほらこれ、私のスマホケースなんですけどー」
「あ、よく似てますね」
「そうそう。同じケースの色ちがいでー、で、これがとっても使い勝手がよくてですね」
「なるほど」
「で、ケース選びには迷わなかったんですけど、どんな理由で渡せばよいかで迷ってー」
「でも、それは誕生日とか――」
「そう!そこなんですよ!ほらほら、先生って5月4日生まれのA型じゃないですか」
「あ、そうなんですね」
「そうなんですよ!で、で、私は9月19日生まれの乙女座で、星占い的にはけっこう相性良いハズなんですね!」
「はあ」
「まあそりゃ最初はちょっと苦手?って云うか分かり難い人だなっとか想ってたんですけど、それもほら牡牛座の特性ですしー、慣れて来たら逆にそこが――って、やっぱ分かり難い部分ありますよね?樫山先生って」
「あー、まあ、ちょっと難しい部分は――」
「ですよねー、だからお友達も少なくてー、あ、でも妹さん想いの優しい面もあって――」
*
《木曜日。15時43分》
カチャ。
「……ただいま」
『お帰りなさいませ。長かったですね』
「なんか延々と樫山さんの話を聞かされたんだけど――ってか、なに?この惑星の女は皆んなあんなにおしゃべりなの?」
『概してその傾向にあるようですが、今の坪井様は特にその傾向がお強いようですね。32分間、ほぼお一人でお話されてましたから』
「もう聞くだけで疲れちゃっ――あ、そだ」
『はい?』
「さっき、あの子のことスキャンした?」
(続く)