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第六週:安堵と恐怖(金曜日)

「先ずは! 屈め!」と、スレストの大地に着くや否や王は叫んだ。「首が落ちても知らんぞ!!」


 この王の声にミトとウーは彼らが父の方を見、と同時に、その王が起こそうとしている構えに“死”以上の恐怖を感じた。――“アレ”が来る!と想った瞬間、“ソレ”は来た。


「“最大剋星龍捲風”!!!!」


 ド・ゥオォン!!!!!!


 と云う衝撃波が、彼ら兄弟と、彼らの周囲のすべてを薙ぎ払い、その反動はこの固体惑星の地軸を傾かせるほどであった。


「おどれら! なにさらしとんじゃ!」と、続けて王は叫び、地面に伏す息子たちの下へと近付いて行った。「こん星系んカシラからエラい剣幕のクレームが来よったぞ!!」


 すると、この父王の言葉に最初に反応したのはミトであった。


「せやけどオヤジ、ここはダレも住んどらん無人の――」であったが、ここで、


 ドンッ!!


 と、腹立ちまぎれの王が蹴った巌石がミトの額に命中し、そのまま彼は、軽く30クラディオンほど後方へと飛ばされてしまった。


 すると王は、「いくら無人の惑星言うてものぉ、二つ隣りん惑星にゃ住んどる人もおられるんじゃ」と、ミトの落下地点に先回りしながら、「オノレらみたいなゴツイんがドタバタやっとったらそれだけで迷惑やろうが」そう続けた。「それぐらい分かれや!」


 と、ここでミトは、王に掴まる前に体勢を整えようとしたのだが、如何せん速さが違う。


 グッ。


 と、それと気付かぬうちに彼は、王の左手に襟首を掴まれ持ち上げられていた。


「分かるんか?! 分からんのんか?!! どっちや?!!」と、一応の疑問形で王は訊くが、首を絞められ吊るされているミトに返答の術はない。で、あるからして――、


「さっさと! 答えんと! 首が締まってまうぞ!!」と、一応の心配口調で言う王の声も顔も遠く意識の彼方へと向うのみであった。


     *


「だ、だ、だ、大丈夫でしょうか?」


 と、こちらは、そんな彼らを離れた場所から見ているシン=ムン。


 生まれつき身体の弱かった彼は、ミトやウーと違いその身に 《一族の文様》(注1)を施されていない。いくら純虚数を扱う“カサエペス”を持っているとは言え、父王の技に巻き込まれては一溜まりもない。が、しかし、タルヤ様にまで害が及んでも…………いっそ私ひとりで彼らの下へ行き仲介を――、


 そう彼は考えると、問題の女性の意向を確かめようと後ろを振り返り――その女性の消えていることに気付いた。


     *


「離しちゃれや、クソジジイ」と、ミトを持ち上げる王の手を取ったのはショワ=ウーであった。「これはワシとミトとの問題じゃ」


 が、しかし、ここで王が、取られた腕を少しく曲げ、腰を軽く落しただけで、


 ガク。


 と、ウーは、その気に圧される形で、その場に膝付くことになる。


「お前と話すんも久しぶりじゃのう、ウー」と、王。「問題ちなんじゃ?」


「オヤジにゃ関係ない事じゃ」と息子は答え、


「関係ないことあるか」と父も応えた。「二人ともワシが腹痛めて産んだ子じゃ (注2)」


 その後も王は、その愛しい息子をいまにも潰しかねない力と体勢で彼を圧し続けたが、


「いくらオヤジでも、言えんもんは、言えん」とのウーの言葉に合わせるように、これまでであれば潰されるがままであっただろう彼の身体は、そこで沈むのを止めた。


 これが、彼を守護する玄き闇の色が増したせいか彼自身の力が増したせいかは分らぬが、


 ほう。


 と、王はこれを嬉しく想った。


 が、これがいけなかった。



(続く)

(注1)

 イン=ビト王の一族に彫り込まれる文身のこと。

 彼の家系では代々、生まれたばかりの赤ん坊にその文身を施す風習があるが、この文身はただの装飾ではなく、彼らが死ぬほどの窮地に陥った際、彼らの祖霊とコンタクトする――死者からの加護を受けるための媒介の役割を持っている。

 その為、この文様は、通常状態では見えないが、彼らの身体が死やそれに近い状態に陥った際に彼らの体表に浮かび上がり、死者からの加護(ハドルツからの闇)をその場に呼び寄せることになる。

 なお、この文様の効果のほどについては、既に別の物語(『夢物語の痕跡と、おとぎ話の物語』)で詳しく書いておいたので、ここでは割愛させて頂きたいと想う。


(注2)

 史書の記載ミスか?

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