第六週:安堵と恐怖(火曜日)
ゴッ。
と、先ず投げられたのは4クラディオンほどの大きな岩であった。が、これは、
フン。
と言うミトの鼻息と共に砕かれ散らされた。
が、この巨岩も所詮はウーの出した目くらましに過ぎない。
「鈍うなったんちゃうか?」と、岩屑の陰より近付きながらウーは言うと、「それとも、力比べからか?」と、ミトの左腕を掴んだ。
が、これと同時にミトは、その左腕を“ソリス (注1)”に取り成すと、
「この!」と手を放し離れるウーに向けながら、今度はその同じ腕を剣刃へと取り成した。
それから彼は、空いている右手で家宝の二十束剣を逆手に持ち、
バッ。
と、ウーの首筋目掛け逆袈裟に切り掛けた。
すると、この二刀に対したウーは、流石に避けられぬと想ったのだろうか、左の肘と腿でその宝剣を挟み割らんと動いたのだが、剣に憑きし祖霊の影に、瞬間動きが鈍くなり、
ズサ。
と、宝剣わき腹かすめ、ウーに小さな血を流させた。
「やるやないか」と、兄は言い、
「ご先祖さんが邪魔した」と、弟返す。「それがのうたらオドレのアゴを割っとる」
するとショワ=ウー半歩を下がり、
「力比べちゃうんか?」イル=ミト彼を刺激する。「ワシの腕ならここにあるぞ」
そう言うとミトは、再び“ソリス”に取り成した左腕をウーの前に差し出して見せたのだが、この挑発にウーはウーで、自身の右腕を“グラゲナ (注2)”に取り成してから、今度は確りと、兄の左を取りに行った。
「せやったな」とショワ=ウー呟くと、若きアルウド手折るが如く、兄の左手掴みて拉ぎ、彼方に見えたベリルの山へ、
ゴォ。
と、兄を投げて放った。
しかし憐れはベリルの山。この時すでにイル=ミトの、身体を守護する祖霊の闇は、彼の身体を金緑石、アレキサンドが如くに硬め、
ガッ。
と、ベリルに穴を穿いた。
しかしショワ=ウー承知の上で、次は手近の大槌に“グラゲナ”成しつつ地を奔る。
嵐が如き大槌に、山をその身の盾にせん、ミトは陰へと隠れたが、“グラゲナ”成されたその槌は、まるで砂山削るが如く、ベリルの山を削り行く。
『これは不味い』と、イル=ミトは、その大槌を盗まんと、猛る子弟に近付くも、こちらも既に守護の闇、ウーを護りし“フリゴス (注3)”に、祖霊の影を見出した。
ズザ。
とイル=ミト、山より退がり、己が武具らの下へと奔る。
「なんや、戻るんか」と、こちらショワ=ウー、ベリルの山に、最後に残りし峰崩し、ミトの方へとその身を捩る。「ま、その方が面白いがの」
それから二人は鬼神が如く、武具を変えては戯れ遊び、拳を交えて地を割りて、脚を交わして河川を裂いた。
*
天を照らせし イル=ミトと
大地荒らせし ショワ=ウーも
ちとせやちとせ とわには居れぬ。
いまこそ群れい さまよいあそぶ。
*
さて。
この後二人は、互いの武具尽き拳砕けるまで、スレストの天と地を巻き込みながら、一歩も引かず討ち合っていたのだが、実際の所、この程度で水星大の惑星が消滅する筈もない。
ではこの後、いったい何があったのか?
彼らが父王、イン=ビトの枉駕である。
(続く)
(注1)
本来は“太陽の様に熱く”と云う意味の北銀河の言葉だが、詳細は不明。
(注2)
こちらも本来は“地獄の様に冷たく”と云う意味の言葉だが、同じく詳細は不明。
(注3)
こちらも同様。“冷たい熱”の意だが、詳細不明。