第六週:安堵と恐怖(月曜日)
それでは、先ずはボア・ハンコックを二名用意しましょう。
それから、用意したボア・ハンコックの上にもう一方のボア・ハンコックを重ね、2~3時間放置しておきます。
そうしておいて今度は、松本乱菊と峰不二子とドロンジョ様を一名ずつ用意します。
で、その後、用意した松本乱菊と峰不二子とドロンジョ様に余分なボヤッキーとかルパンとかがくっついていないか十分に確認した上で、先程のボア・ハンコック×2に彼女たちを混ぜ合せてやります。
そうして、暫くの間粗熱を取ってやった後、その出来上がった物にヨーコ・リットナーや千手綱手から奪い取って来たフェロモン等もそこはかとなく振りまきつつ、リズシャルメルのランジェリーやディオールのドレスなんかをプレゼントしようとしたら、「いやですわ、そのような窮屈なもの」とか言って彼女が逃げ出そうとするので、そんな彼女に今度は、高級ボンヴィック・シルクで出来た着物を羽織らせてあげましょう。
すると、それは北銀河の伝説の美女“スピ=タルヤ”にそっくりになったりはしないだろうけれども、彼女をよく知る王族の中の何人かは、『ああ、言われてみればそっくりだ……』と、妙に納得するのかも知れない。
つまり。ここで私が何を言いたいのかと言うと、“スピ=タルヤ”と云う女性は、胸が大変大きくて、フェロモンがムンムンとしている割りには天真爛漫で、着物の袂や衿下から覗く胸や太腿なんかが異様にエロい割りにそんな事を考える我々の邪な心こそが浄化されるべきだと気付かせてくれる女性で、早い話が、ショワ=ウーとその兄イル=ミトの初恋の人で、彼ら兄弟の喧嘩の原因でもあった。
*
星団歴4247年。惑星スレスト。
「ムンさま!お二人をお止め下さい!」
と、こう叫ぶのは、右に書いた北銀河の伝説の美女スピ=タルヤ嬢その人であり、この彼女の百華馥郁たる香りに頭の先から足の先まで全身隈なくクラクラ~とさせられているのは、イン=ビト王が二人目の末子シン=ムンその人であった。
「止めろと言われましても」と、タルヤの色香から適切な距離を取りつつムンは言うが、
「私などの為にミトさまとウーさまが仲違いされるなど、あってはならぬこと」と、そんなムンの気など知らずにタルヤは続けた。「お二人をお止め出来るのはムンさまだけ」
と云うのも、そんな彼らの前――と言っても地球の単位で13kmほど離れた“前”ではあるが――に立つミトとウーの兄弟は、その怒気も殺気も隠すことなく、各々の武器武具を地面に打ち立てている最中である。
「お恐れながらタルヤさま」と、ムン。「私は身体も弱く、力で彼らを説き伏せるのは困難。それにそもそも、ああなった二人を止められるとのは我が父王ぐらいしか――」
と、この時、
ドォン!
と云う大音響が大地をつんざき、彼らの会話を止めた。――ミトが、準備がてらの右脚で大地を踏み抜いたのである。
と、今度は、
ド!ドドォゥン!!
と云う轟音が天地を揺れ動かした。――ウーが、左右の脚で大地を踏んだのである。
『これはいけない』そう想うとムンは、兼ねて用意の対タルヤ用防フェロモンマスクを被りながら、「このままでは我々の身すら危のうございます」と、彼女に伝えた。
それから彼は、足元の岩を踏み傾けると、両手を“コン=エイロ (注1)”に組み、その岩を“カサエペス (注2)”に変じた。
「失礼します。タルヤ様」そうムンは続け、彼女の白く柔かな身体を持ち上げカサエペスの中へと入れた。「今は何よりお命が大事」
(続く)
(注1)
手で組む型の呪印の一種か?詳細不明。
(注2)
本来は“垣根”を意味する北銀河の言葉だが、こちらも詳細は不明。ただ、後述の内容から、何かしらの人工亜空間かフォースフィールドの類いと推測される。