第五週:紺と金(土曜日)
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「そうね、未来で説明するわ」
『――なるほど』
「うん。じゃ、まあ、そんな感じで――」
ポッ。キュッ。ヒュン。
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《木曜日。14時47分》
「へ?――消えた?」
『どうやら、タイムトラベラーの方だったようですね』
「……でも、生身じゃなかった?」
『はい。確かに安定した時間旅行には、いま我々が居るような密閉型タイムポッドが一番よろしいのですが、個人向けのカート型やベルト型・ブレスレット型もあるようで――』
「あー、じゃあさっきのオバさんが腰に巻いてたV3みたいなベルトが――」
『旧型のタイムベルトかと想われます』
「へー、あ、じゃあなに?未来であの人にまた会ったりするってこと?」
『多分そうでしょうね。本人がそう仰っていましたから』
「ふーん。しかしさあ、なーんかあのオバさん、どっかで見たような気がするんだよな」
『はい。実はそれなのですが、先ほどのスキャニングで少々興味深い結果が――』
ブー、ブー、ブー、ブー、
「なんだ?今度は?」
『携帯か何かの鳴動音のようですね』
ブー、ブー、ブー、ブー、
「“携帯”?って、ああ、カシヤマさんたちの持ってた電話のことか」
ブー、ブー、ブー、ブー、
「忘れ物かな?どこにあるか分かる?」
ブー、ブー、ブー、ブー、
『出口扉の前辺りにないでしょうか?』
「出口扉?…………あー、あったあった。これ多分カシヤマさんのだな、さっき使って――こう云うのって出た方がいいのかな?」
ブー、ブー、ブー、ブー、
『相手によるのではないでしょうか?』
「あ、なんか“坪井”って出てる。西子ちゃんだな (注1)」
『なら、大丈夫なのではないでしょうか?』
「だな。カシヤマさんが電話なくしたって騒いでんのかも知れないし」
カチャ。
「もしもし?西子ちゃん?オレだよ、オレ、デュだけど、なんかカシヤマさんこの電話忘れて行っ…………って、アンタだれ?」
*
《木曜日。15時11分》
コンコン、コンコン。
「お、来たみたいだな――どうする?やっぱ中には入れない方がいいんだよな?」
『流石にこの時代の地球の方にこのポッドの中は見せない方がよろしいかと――』
「だよな。俺らでも理解不能だもんな、この“見た目よりも何百倍も中が広い”って」
『正確には、“ほぼ無限”ですけれど (注2)』
「で?オレの見た目も変わってんだよね?」
『はい。ポッドの見た目も通常の“コロコロ色の変わる球体”から“古い英国のポリスボックス”に見えるよう調整しておきました』
「なるほど。で、オレはその中にいる警察官に見える――ってか何で“古い英国”なの?」
『以前、Mr.Blu‐Oが「地球でタイムマシン言うたら『小学生の勉強机』か『青のポリスボックス』が相場らしいで」と仰っていたので、そちらを参考に――(注3)』
「へー、ほんと地球ってのは変な惑――」
コンコン、コンコン。
「と、いけない。じゃ、まあ返してくるよ」
『よろしくお願い致します』
カチャ。
「あー、どうもすみません、わざわざ。確か西子さんのお姉さんの――」
「あ、はい、こちらこそすみません。西子の姉の東子、坪井東子です」
(続く)
(注1)
第一週の土曜日で“さっきの坪井くん”として名前が出た女性『坪井西子』のこと。某三流出版社で編集者をしており、デュ・パンやカシヤマ・Fらとともに時空を股に掛けた旅をして来て、先ほど地球に戻ったばかり。
(注2)
このポッドの中には、作者が把握しているものだけでも、メインコントロールルーム(直径20~30m)が1つ、四畳半の書斎が4.5個、シャワールーム、バスルーム、トイレ、コインランドリー、婦人用クローゼット、男性用クローゼット、キッチン兼食糧保管室、部品製造工場がそれぞれ3つずつ、サブコントロールルーム、バベル的図書室が2つずつ、それにクリケット競技場、巨大シアタールーム、昼寝用の寝室、昼寝し過ぎて寝むれなくなった夜用の寝室、二段ベッド付き寝室(二段ベッドはクールだ!)、ビクトリア朝風寝室、来客用の寝室、かわいい人形で埋め尽くされた寝室が一部屋ずつ、その他にも、ただただ草むしりを楽しむためだけの庭など等があり、作者も2度ほど迷子になって泣きそうになった経験がある。
(注3)
元ネタの分からない方は、『小学生の勉強机』については“ドラえもん”を、『青のポリスボックス』については“ドクターフー”を、それぞれ検索のこと。