第五週:紺と金(木曜日)
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※編者注:
昨日の連載の途中から突然、一般読者の方々にはあまり聞き慣れない聞きたくない類いの言語・方言が登場するようになったが、これはこの北銀河特有の言語・方言をこの作者が作者なりに日本語に近付けたものである。
もちろん。もう少し品のある、見目のよろしい訳に我々編者の方で出来ぬこともないが、そこはそれ「臨場感を優先したい」と云う作者の意を汲み、ほぼそのままの形で掲載する。
なので、読者の皆さまには、大変恐縮ではあるが、この旨ご容赦頂ければ幸いである。
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承前。
「そなぁなキッタない言葉つこうもんちゃうで」と、ショワ=ウーが言うと、この言い方が余程気に障ったのだろうかヤザスの長老は、
「Kana usingakwanise kundidaidza kuti “gaburobeta”, ndidaidze “Wambanatta”!!」そう叫ぶと、「Isu tiri varidzi vekutanga veSHERA!!」(注1)と、仲間のヤザスたちにも叫ぶようけし掛けた。その為――、
『SHERA!! SHERA!! SHERA!!』
と、ヤザスの男衆数百人の大合唱が巻き起こり、
「ああ、わあったわあった、いまんはワシがわるかったわ」と、ウーは弁解を始めた。「“ワンバナッタ”でも“ガヴュロベタ”でも“ソソノレト”でも好きなように呼びゃええ」
が、しかし、一度付いた火はなかなか消えないようで、
『SHERA!! SHERA!! SHERA!!』
と、叫ぶヤザス達の声は収まりそうになく、ついには“nhaehyoronga”や”wavegabba”や”nnnoletnga”などの単語までが飛び出し始め、最後には、よく言えば意気軒昂、悪く言えばワンバナッタな若者が、こともあろうに、「Ni nanangmo ket “Vyobayoani”.」と、ウーにその下唇を突き出しながら言った。
そのため、流石のウーも我慢が効かなくなったのか、「おどりゃあ、ぬかしてエエこととワルいことがあるぞ」と、身に付けていた武器武具の類いを地面に放り出し始めた。
すると、この明らかに様子の変わった彼を見てヤザスの年長者たちは、「Ho,Hoy…」と、その無知無鉄砲且つソソノレトな若者を止めようとしたのだが、当の本人は頭に血が上っているのか、それとも仲間の手前引っ込みが付かなくなったのか、「Ni nanangmo ket “Vyobayoani”!!」と、今度はその前歯を剥き出しつつ叫んだ (注2)。すると――、
プツゥーーーーーーーーーーン。
と、小さいが確かに何かの切れる音がして、
「ほおーーーーーーーーーーーーー」
と、今度は大筒袖をたくし上げながらウーは言った。
ちなみに。ここまでの彼の一連の動作は、『やるんやったらステゴロじゃ』と云う意思を示す、イン=ビト王家伝統の決闘申し込みのスタイルであり、これに続く、
「ええかげんそのこぎたなあ歯と上下唇しまわんのんやったら、ワシのこの手でオドレのドタマごとハラんとこまでへこましちゃるけえ、そんゴマまみれんヘソのアナから世間一般よう見てみいや」
と云う言葉や、
「それとも逆に、そん使い込まれたマックロクロスケなケツのアナに手ぇツッコんで、奥歯ガタガタ言わせちゃるか?」
と云う言葉も、彼の王家伝統の由緒正しき決闘申し込みの言葉であるからして、
ベッ。
と、地面に穴が開くほどの勢いで吐いた彼のツバも、その伝統に則ってのものであり、
「安心せえ、命までは取らへん」
と云う言葉も、あくまで礼を失っしないための……まあ、反語のようなものであった。
(続く)
(注1)
“シェラ”と読む。ヤザス族がオペンシアの一地域を指してこう呼んでいたらしい。
(注2)
この回のヤザス語邦訳は、順に次の通り。
「“ガヴュロベタ”がダメなら“ワンバナッタ”と呼ぶまで!!」
「我々こそが、シェラの本来の所有者である」
『シェラ!! シェラ!! シェラ!!』
『シェラ!! シェラ!! シェラ!!』
“ンヘヒョロ”
“ワヴェギャバ”
“ンンノレト”
「おまえの母ちゃん“ヴュョバヨァ”」
「お、おい…」
「おまえの母ちゃん“ヴュョバヨァ”」(注3)
(注3)
“ンヘヒョロ”も“ワヴェギャバ”も“ンンノレト”も“ヴュョバヨァ”も古くから銀河全域で使われている侮蔑語である。
であるが、昨今のコンプライアンス意識・人権意識の向上を受け、滅多なことでは使われなくなった言葉でもある。
なので本来は検閲を入れるべきかも知れないが、ここはあくまで「臨場感が云々」と云う作者の意思を尊重させて頂くこととした。