第五週:紺と金(水曜日)
承前。
「この地の守護ベルは奸臣であった!」そうタル=バリは叫んだ。「故に!私がこれを討ったのである!!」
それから暫くの間彼は、ベルの生首を掲げ続けていたのだが、守護府の衛士たちに反駁の気配のないことを悟ると、先ほどベルの左手親指より抜き取ったばかりの指輪を、この地における帝国守護であることを示す指輪を、生首に代えて掲げつつ、
「本日以降、この地レクレスはタル氏が守護する」と、続けた。「この決定に異議ある者は、前へ進み出よ」
無論。こう叫ぶ彼の後ろには、今まさに衛士数十人を撃ち殺したばかりのジオが、返り血も拭い切らぬままに立っており、生き残りの衛士たちに異議のあろうはずもなかった。
*
「して、本来の目的は?」と、この翌日、ひとりの豪吏がバリに訊いた。
「“本来”とは?」と、バリは訊き返し、
「ベル殿に叛乱の意思ありとて驚かぬが、タル殿に仕官の意思ありと言われれば驚く」そう豪吏は応えた。「“西”なら未だしも、“東”には付かぬでしょう?」
ここで言う“西”とは西銀河帝国のことで、“東”はもちろん、東銀河帝国のことである。
「例の農夫ですか?」と、ついつい小声になりながら重ねて豪吏は訊くが、
「いや、あれも所詮は一過性のもの」と、こちらは変らぬ声量のままのバリである。
「しかし、刺激を受けているものは多い」
「重石が軽くなりましたからな」
「皇帝も、長子に譲れば良かったものを――“西”をどう見ます?」
「動かぬでしょう」
「なるほど――大義をどう付けますか?」
すると、この質問に対してバリは、暫くの間、言葉も発さぬままに、豪吏の黒子だらけの顔を眺めていたのだが、ハッと気付くと、
「ああ」と得心の声を上げ、「そう言えば、まだお伝えしておりませんでしたな」そう続けた。「我が祖国は、“東”に滅ぼされたのです」
この後バリは、自身の素性――亡ジン国の将軍タル=ウドゥの息子であること――を彼に伝えると、この豪吏に大事を起こす理由を諭し、協力を得、遂に惑星レクレスにて兵を挙げることとなるのだが、これが第一週の初めに書いた“タル=バリの造反軍”である。
星団歴四二六〇年十一月。タル=カことタル=ジオ二十四才のことであった。
*
同年同月。
ドッ!
と、十束剣の大風を引き起こす音がして、この地のヤザス (オペンシア原住民の一つ)を坂の麓へと追い伏せた。すると次には、
ゴゥッ!!
と云う、豪矢の宙を切り裂く音がして、別のヤザス達を河のたもとから追い払った。
ここは、北銀河北東域。イン=ビト王が三人目の末子ショワ=ウーが治める水の惑星 《オペンシア》である。
「ほじゃけえワシャあ何もアンタらんトコとことぉ構えたい言うとるわけでも組み伏せたあ想ぅちょるわけでものうてやのぉ、たんにアンタらぁがべつんとこのエモノんまで手ぇ出しちょる云うチクリがあったけえ、話を聞かせてもらいに来たまでじゃ」と、剣を納めながら、この地の統治者ウーは言い、
「Ndataura izvozvo,Nzvimbo iyoyo yaimbova yedu.」と、ヤザスの長老は応えた。「Zvisinei “gaburobeta”vakaityora.」 (注1)
するとこの言葉にウーは、
「そうは言うても――」と言い掛け言葉を切ると、「あんたいま“ガヴュロベタ”言うたか?」と続けた。「そなぁなキッタない言葉つこうもんちゃうで」
(続く)
(注1)
この長老の言葉の邦訳は、次の通り。
「そうは言っても、あの場所は元々が我々の土地だった」
「それをあの“ガヴュロベタ”どもが奪ったのである」