第五週:紺と金(月曜日)
星団歴四二六〇年九月。
惑星レクレス守護クアトス=ベルの屋敷。
――深夜。
チッ。
と云う、何かの光る音が聞こえ、
え?
と、想うと同時にベルは、
ドッ。
と云う、自身の頭の床に堕ちる音を聞いた。
それから彼は、少しの間、黒き血で染まって行く床と、今夜の客であったはずのある男、それと、その甥だと云う大きな男の足元を、見るともなしに眺めていたのだが、
「なっ!」
と言う、若い使用人の声に我に返ると、
『まずい』
そう想うが早いか、
トッ。
と云う、件の甥の床を蹴る音と、
「だれか!」
と叫ぶ若い使用人の声、それに、
チッ。
と云う、再び何かの光る音を同時に聞き、
また、それより一瞬遅れて、
「守護が討――」
と云う若い使用人の末期の叫びと、
ズルリ。
と云う、彼の頭の頸から離れる音を聞いた。
*
「これで宜しかったでしょうか?」と、汚れた短剣を下衣で拭いながらタル=ジオは訊き、
「先ずはな」と、床に堕ちたベルの首を確かめながらタル=バリは返した。「数は?」
「直ぐに来るのは二―三十」
「あまり多くても困るな」
「私もそう想います」
「やれるか?」
「その男の刀を使っても?」
「構わんよ」
そう言うとバリは、床に倒れているベルの身体から刃渡り八分の一クラディオンほどの刀を抜き甥に渡すと、そのまま、ベルの左手親指に嵌められていた帝国の指輪をも外し、自身の同じ指に嵌めようとして――、
「まいったな」と、言った。
「どうされました?」
「守護の指輪がこれほど小さいものとは想わなかった。――小指に嵌めては不格好かな?」
「そんなもの要らぬでしょう」
「いや、多分に名分は必――」
とここで、
「構え!」と叫ぶ衛士長の声が聞こえて来て、「何者かは知らぬが!」と部屋の外で彼が続けようとするより先に、
ザッ。
と、ジオは歩み出ていた。
それから彼は、「すみません。叔父上」と言うと、バリに自分の陰に隠れるよう合図した。「四―五十はいるようです」
ドン。
と、ジオの左踵の地面を圧す音がし、
ジャザッ。
と一閃、衛士二人が斬られ刺される音がした。それから――、
ヴォッ。
と、ジオの左右の衛士三人が同時に長槍を振り下ろしたのだが、
ヒョッ。
と、先ずは、右の衛士の頸が突かれ、
ザッ、ガッ、
と、次ぎに、左の衛士二人の胴が斬られ、頸が堕とされていた。
「ひるむな!掛かれ!」と、衛士長が叫び、
ド、ドン。
と、ジオの左右の踵が地面を圧す音が聞こえた。
この時ジオが撃ち殺した衛士の数は数十人。そこまで行って初めて守護府の者はひれ伏し、抵抗を止めた――と云うことである。
(続く)