第四週:鉄床と槌(金曜日:その1)
承前。
その後、金箔を貼られたコケイセイは、そのまま金細工師二人に体を押さえ付けられると、この社の神子たちの手によってアズライトの化粧を施される。
こうして、元々の顔の朱と胴の緑、それに羽の白にアズライトの青と金の輝きに覆われた犠牲が出来上がるわけである。
*
「なるほど、これはお見事」と、神子たちの手際に感心しつつハイ・ジャオは言うと、傍らにいた衛兵長に目で合図を送った。
すると衛兵長は、事前の打合せ通り、この地の青年司祭とふたり、鳥の前後を両手でつかみ、女神の前へと引き出して行く。
それから、そんな二人の歩みに合わせるように、神殿右奥からは浄めの水と粗挽きの大麦を持った壱の司祭が、神殿左奥からは鋭利の斧を持った弐の司祭が、神殿入り口からは血受けの大鉢を捧げ持った参の司祭が、列席者の間を縫うように、入って来た。
と、ここで――
「それでは陛下――」そう祭司長は皇帝を促すと、自身もまた彼の後に続く形で女神の下へと歩み出て行った。
その後皇帝は、先ずは、壱の司祭が持つ水で手を浄め、次に、その大麦を犠牲に振り掛け、さらに弐の司祭の斧を受け取ろうとして、
「陛下、その前に――」と、彼を嗜め呟く祭司長の言葉に儀礼手順を想い出していた。
「毛は、どの程度?」と、こちらも呟き声で皇帝が訊き返し、
「右の手指、ひと摘み」と、祭司長は応えた。
「であったな」そう呟くと皇帝は、その言葉通りに鳥の頭の朱毛を引き抜き、「そして、ここで祈るのだったな」と、その毛を女神の火中へ投じた。
*
“ケェッ”
と、末期の声を上げる間もなくコケイセイの頸が断たれ、それに合わせるかのように女たち――社の神子らと金細工師の女――が甲高い声を上げて女神を呼ぶ。
それから、迸り出る黒き血は、衛兵長と青年司祭が鳥を高く持ち上げて、参の司祭の大鉢に、最後の一滴まで受け止められるようにする。するとその内、この雌鳥の魂もいよいよ骨を離れる時が来るので――、
「では、そろそろ――」
と、宙を眺める祭司長の言葉に合わせ、残った男たちが、兼ねて用意の刃物を使い、しきたり通り、まるで踊りを踊るが如く、その手際もお見事に、鳥の体をばらして行く。
その後、先ずは二重に畳んだ脂身で、離したばかりの腿と尾肉を包み、その上に胸や手羽の生肉を載せる。
すると、そこに皇帝が白き酒と乳と蜜を振り掛け、そのまま女神の薪火へかざして焼く。
また、これと平行して、残った皮や臓物は、先ほどの男たちが別の薪火にて黒く焦げる一歩手前まで焼き、焼けたものから細かく切ってはクル=リバの緑の葉の上へと並べて行く。
「そろそろではないか?」と、皇帝が訊き、
「はい」と、引き続き宙を――コケイセイの魂の行方を――見詰めながら祭司長は応えた。「ロン=サジェ女神もお喜びのようです」
それから焼かれた腿・尾・胸・手羽の肉は、形と大きさを整えられ、細い鉄串に刺されてから、更に遠火で焙られる事になるのである。
*
「それはなりませんぞ、陛下」と、小さいが強い口調でハイ・ジャオは言った。「あのようなリバシデに陛下の肉を分け与えるなどと」
皇帝が先述の“ルリュイセス”に自分の胸肉を分け与えたいと言い出したからである。
「宮殿の者にでも知れたら何を言われるか分かったものではありません」
“リバシデ”とは神子や女の俳優を蔑んで言う際の言葉である。
(続く)