第四週:鉄床と槌(火曜日)
さて。
《七百年戦争》の終盤においては、神々たちの参戦に加え、地上世界からはヒキュウ (貔貅?)を始めとした猛獣族なども参加、果ては 《泰坦》 《歌利亞》二つの巨人族などの参戦もあったようである。
*
かくて歌利亞のデュリオラは、ユノス女神の衣を割きて、その白肌を手籠めにせんと、彼女の四肢の自由を奪う。
そこで女神は声を上げ、その夫君たる全主ピタルに、
「穢れた巨人に、君が怒りを!」
と、叫んで呼んだ。
すると宙より雷鳴響き、ピタルが雷霆霖雨が如く、デュリオラ目掛けて降り注ぐ。
この雷撃雷霆に、流石の歌利亞デュリオラも、手にしたユノスを落としたり。
憐れ女神や柔肌あらわ、ナホトカの地へと堕ちて行く。
が!ここで!
「義母上!」
と、飛び出し来たるはピタルが子息、ユノス女神の乳にて育つ、半神半人グロラディ。愛しき義母をその手に受けた。
「歌利亞如きが!」
己が片腕義母を抱き、その馥郁たる黄金髪、
幼き日々の想い出を、荒らす巨人にグロラディ、
憤怒の形相凄まじく、アレオの矢をば番えたり。
「我が怒りにて灰へと帰れ!」
ヒョオ。と、ナホトカ空高く、
金糸銀糸のアレオの矢、
幾千幾億尾を引きて、
猛き巨人の右眼を襲う。
「この半神の小僧が!!」
かくて流石のデュリオラも、
義母を想いしグロラディの、
アレオの虚無に身を燎かれたり。
残る巨人は僅かに二人。
まずは歌利亞がクリミマス。
これは工匠アルティクス、
ニオブの坩堝をこ奴に掛けた。
あわれ歌利亞がクリミマス。
音も遺さず、その地に消えた。
残るは泰坦アナトウス。
流石にこれは分が悪い。
青き虚空に玄き穴、
空けてその場を去らねばと、
右手の五指を宙へと向けた。
が!
そこに見えたが我らが女神、
あかき髪持つナイエテ女神。
双子の月の片割れに、
己がエイジス刺して言う。
「去れると想うな、この巨人が」
かくて女神がエイジス抜けば、
黄月ヒューレア堕ち来たり、
「この血塗られた女神が!」
あわれ泰坦アナトウス、
女神が堕とした玉かずら、
その一身に受け止めた――。
*
と、以上が――またしても引用が長くなり過ぎたが――世に言う“ナイエテのヒューレア落とし”の一幕である。
この後、黄色の衛星ヒューレアをその身に受け倒されたアナトウスは、ブラディオスを始めとする連合側の兵士たちにその皮を剥がされ、その皮は連合側の職人たちの手によりなめされてから、兵士らを護る鎧や盾の材料になった。
それから、残った骨や肉は食用には出来ぬどころか徐々に土や岩のようなものへと変質して行き、そのまま頭・両腕・両足・背・尻の計七つの丘となり、そこに事情を知らぬ者たちが移り住み、街を造り――と云うわけである。
(続く)