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第四週:鉄床と槌(月曜日)

 さて。


 中央~東銀河で広く信仰される“ロン=サジェ女神”が光と予言、芸能と芸術を司る神であることは先にも書いたが、これら能力の中でも特に神託を授ける予言の女神としての側面は、古来より神話伝承の題材 (と書いては様々な方面からお叱りを受けてしまうかも知れないが)されて来たようである。


 そう。それは例えば、尚偉人をプタハジの支配から逃すため、モルセスに恒星の位置を変えるよう告げたのも彼女であるし、また例えば『ナホトセット』では、ナホウトクの末の王子にある種の予言の力を授けたのも彼女であった――と云うことになっている。


     *


「その中でも最大の権威を持つとされるのが、このウム=ムンディの神託所となります」と、まるで幼児にでも語り掛けるかのように話すのは、東銀河帝国の宦官ハイ・ジャオである。


 彼の骨太の指が差す先には、問題の“ナホウトクのロン=サジェ社”こと“ウム=ムンディの神託所”とその周辺を映した石板が立てられており、彼が顔を向けている五~六歩先には、東銀河帝国皇帝に即位したばかりのノノフストの姿があった。


 彼は、そんなハイ・ジャオの年とは不釣り合いなつるりとした顔を一瞥すると、「それぐらい教わらなくとも分かっておる」と、やや不満気に応えた。「朕もまだ行ったことはないが、これも兄上の遺言、行かぬわけにも行くまい」


 すると、この言葉にジャオは、「いえいえ、陛下」と、辞を低くしながら応え、「いくらサポルソフ様のご遺志とはいえ、いまや陛下は東銀河帝国の皇帝。わざわざこのようなヤチミ臭い場所に参らずとも、コケイセイの一羽ぐらい代理の者を立てれば――」と、出来る限り皇帝の行幸を止めたい――帝都の外には出したくない――様子であった。


 ちなみに。


 “ヤチミ”とは、古来より神子 (巫女)や予言者を任じる者たちが好んで使っていた香木香葉の一種で、主に鎮痛覚醒作用をもたらす。物の本によると、特にロン=サジェ・メディシエナ母娘女神を信仰する者たちの間でよく使われていたもののようで、“ヤチミ臭い”とは、転じて「宗教臭い」「浮世離れしている」「予言・魔法の類いを信ずる愚者」等の意味で使われていたようである。


「まあ、そう言うな、ジャオよ」と、自身の不満声に気付いたのでもあろうか、今度は皇帝が、聞き分けの悪い老人を諭すような声で言った。「ウム=ムンディの神子には佳人が多いと聞く。朕とお前、それを見物に行くぐらいの気で臨めば好いであろう」


「はあ――」


「が、にしてもやはり、奇怪な場所には代わりはないがな」


 そう言うと皇帝は、椅子よりやおら立ち上がり、ジャオの――石板に映された地図の方へと向かいながら、「“《泰坦》の屍の上に築かれた街”と、話には聞いていたが――神託所から 《泰坦》の頭までは3~4ルロイ (1ルロイは約2.6km)程か?」と、訊いた。


 そう皇帝の指差す先には、《サリクの丘》と呼ばれる街の画像がある。


 なるほど、確かに。ここに映された宙空写真を見ると、《サリクの丘》を頭とし、南西から北東方向に掛けて、“倒された巨人”のものらしき両の手足と背中と尻、計七つの丘が連なるように並び、その丘の上にはそれぞれ七つの街が建てられていた。


「すると、その頭の先と周りに見える湖たちがナイエテの“ヒューレア落とし”で開いた穴にでもなろうか?」



(続く)

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