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第三週:光と予言(金曜日)

「“メディシエナに一羽の借り”?」


 そう訊き返したのは、サポルソフ自害の報告を聴いていた宦官ハイ・ジャオであった。そうして――、


「左様。コケイセイ一羽分の借りがあると仰られておりました」


 と、こう答えたのは、前述の片目の宦官キュ・ロプスである。彼は、公子とモロルの死を見届け、彼らの遺体を帝都近郊の山奥墓へと葬り宮中に戻って来たところであった。


「その借りを殿下――いや、陛下に返せと?」と、再びジャオが訊き、


「“他に頼める者も居らぬため”とのことでした」と、ロプスは応えた。「――“忘れず、必ず返してくれるように”とも」


 ちなみに。


 “メディシエナ”とは、中央~東銀河を中心に信仰されていた医療の女神であり、“コケイセイ”とは、我が惑星で云うところの雉によく似た鳥、その雌鳥のことである。


「なんの企みあってのことか分かるか?」


「いえ、ただ“借りがあるのだ”とだけ」


「その“綴じた目”はなんと?」


「いえ、こちらもなにも――」


「ふむ。――モロルの方は?」


「いえ、こちらは言伝などは特になく、殿下――サポルソフの最期を見届けるとすぐに、同じ太刀にて自害致しました」


「ふむ。――鳥の件は私から陛下に話そう。社については何か指定はあったか?」


「“ナホウトクのロン=サジェ社”と」


「母の方ではないか」


「合祀されているそうです」


     *


 さて。


 “ロン=サジェ”とは光と予言、芸能と芸術を司る女神の名で、こちらも主に中央~東銀河の神話に登場する。


 この女神と惑星リッサの王の息子ロシ=ニスとの間に生まれたのが前述のメディシエナであり、彼女は人と神の子として医学・医術を学んだが、その腕は遂に“死者を蘇生し、無から有生む”までとなり、これに怒った冥府の王が 《全主》らに訴え、彼女は死を賜うことになった。そうして、その後、宙に昇ったメディシエナは、改めて医療の神となったわけである。


 が、ここでハイ・ジャオが引っ掛かったのは“メディシエナ”ではなく“ロン=サジェ”、しかも“ナホウトクのロン=サジェ”の方であった。


     * 


「“ナホウトクのロン=サジェ”……?」と、ジャオは繰り返した。「それは、あまり気乗りする場所でもないな」


     *


 この物語のはじめにも書いた通り、《ナホウトク (あるいはナホトカ)》は、その“白き壁”“高き城”で知られた 《七百年戦争》の最終決戦地であり、ホスタージの長編詩『ナホトセット』の主な舞台でもある。


 無論、この戦は神話時代のことであり、本来のナホウトクが何処にあったかは古来より議論がなされ続けており、はっきりとした決着は未だ付いてはいない。


 が、それでも、ハイ・ジャオ達のこの時代 (4100~4200年代)では、惑星ポ=ルテントスの東南域、現在のチアーナク地方にその国はあった――とするのが通説になっていたようである。


     *


「“ロウスティス”の件で御座いますか?」そう片目の宦官ロプスが訊くと、


「いや、あれも所詮は小競り合い」と、この後起こるであろうオートマータ族との戦争も知らぬままにジャオは答えた。


「それよりも西との境界付近に、アレを連れて行く方が気が重い。サジェ神の“黒き矢”や“神託”でも授けられては面倒だからな」



(続く)

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