第三週:光と予言(水曜日)
さて。
結論から言うと、昨日の連載で書いたボ=バルバの懸念は、半ば的中することになる。
彼の語っていたとおり、動きを活発化させたオートマータ族の過激派は南東銀河辺境域を中心に勢力を拡大、星団歴4259年にはロウスティスブリッジ (南東銀河と中央銀河を結ぶ小規模ワームホール)において東銀河帝国軍と衝突、所謂 《ロウスティス橋事件》が発生する。
そうして、この衝突が引き金となり、4259年末より東銀河帝国とオートマータ族は戦争状態へと入り、ここから都合六年半に及ぶ第二次オートマータ戦争は始まるのである。
が、これもバルバが予想したとおり、密接な外交努力を怠って来た東銀河帝国は最初の数年、この苦難に際して西銀河帝国からの援助はほぼ受けられず、単独でオートマータの軍に対処することになる。
またこの機に乗じてとでも言おうか、東銀河帝国内の各諸侯、領民らが帝国に反旗を翻すと云う事態が頻発。帝国を混乱が襲った。
襲ったのだが――あ、いや、この書き方では事情を知らぬ読者に誤解を生じさせる。
と言うのも、この4259年と云う年の前半には、もっと大きな事件が、流石のボ=バルバにも予想し得なかった事件が、東銀河帝国を襲っていたからである。
そう。東銀河帝国第十一代皇帝コンパルディノス二世の崩御と、その長子サポルソフの自害である。
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コンパルディノス二世の死因については、当時の帝国議会が何故か公表を控え続けたことと、前述のような混乱が帝国を襲ったこと等もあり、どの史書・史料にも明確なことは書かれていない。
が、しかし、我らが時の女神の言葉を借りるのならば、彼の死は“天命”或いは“天罰”いや、もっと具体的に“不死の法を追い求めた報い”であったとこの作者などは考えている。――少し補足しておこう。
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この週の冒頭でも触れた通り、コンパルディノス二世の版図巡行の正確な理由について各種の史書・史料には何も残されてはいない。
が、これに関して、民間流布の巷説の中に、大変興味深く、また大変根強い説がひとつあり、それは、『不老不死、或いは、生まれ変わりの法を探すため』と云うものであった。
もちろん。真偽のほどは定かではなく、専門家の中にはこれを一笑で付して終わらせる者も少なくない説ではあるものの、それでも、史書・史料の別の部分には、それとの関連を匂わせる記述があるのも事実である。
そうして、それは例えば、
『転生の法持つ 《火主》族探索に、東銀河深奥にクシュ=ウェルを遣わせた』とか、
『OWL (オートマータの族内ギルドの一つ)に自己修復性分子機械 (所謂ナノマシンのようなもの)製造のため金**を提供』とか、
『(ある宴席にて)北東より戻ったばかりのウ=ウォン持参の酒を皆に振る舞った』
などのことを言うのだが、またこれらとは別に、晩年の皇帝に関する描写の中には、ナノマシン薬の副作用を想わせるものも散見されており、彼が彼自身の身体を用い“転生の法”や“分子機械”を試していた、そのため逆に命を縮めた――と、この作者などは考えているわけである。
本来、人にも動植物にも、それぞれにそれぞれが与えられた命数と云うものがあり、それを覆そうとすれば何かしらの報いや罰を受け、またそれが彼に別の天命を与える。
彼自身が受けた報いや罰がどのような物であったかは、この物語の別の部で“少しだけ”書いておいたが、それらとはまた別に、彼の死後の帝国や銀河の混乱も、或いはこの報いや罰であったのかも知れない。
(続く)