第二週:残骸と神々(土曜日)
木曜日。13時21分。
『消えた?――ネコがですか?』
「ああ、たしかにいままでそこにいたんだけど……“ネコ”?」
『地球を中心に東銀河辺境域に生息する食肉目の哺乳動物の総称です。ウルプレックスによく似た見た目をしていますが性格は――』
“ナアーゴ。”
「あれ?」
『いまのは私にも聞こえました』
「どこだ?」
『少々お待ち下さい……はい。いまデュさんの居られる位置からだとポッドの丁度反対側、コントロールパネルの向こう側に――』
「コンパネの向こう……あ、尻尾だ」
『ですが、こちらは先ほどのネコとは――』
「はいはーい。どやってあんな高いところから降りて来たんでちゅかーー、アンヨとかケガしてないで……あれ?」
『どうかされましたか?』
「いや、この子さっきの子とはちがうな。さっきの子は白くて女の子ぽかったけど、こっちの子は黒くて……ちょっとゴメンな」
“フゴ?”
「……お、やっぱ立派なのが付いてんな」
『オスなのですね?』
「ああ、でもさっき見えた尻尾は白かったような…………もう一匹いないか?」
『少々お待ち下さい……いえ、いまこのポッド内にいる有機生命体はそのネコ一匹です』
「俺の見間違い?」
『いえ、私のスキャンでも先ほどのネコとそちらのネコは別の生物であ――』
“ナアゴ。”
「うん?どうかちまちたか?お背中でちゅか?お首をコチョコチョでちゅか?」
『今度はどうされましたか?』
「いや、なんか構って欲しそうでさ、背中なでたり首コチョったりしてんの。ねーー」
『なるほど。しかし、その幼児語は――』
「お、ここでちゅか?ここが気持ちいいでちゅか?コチョコチョコチョコチョッーー」
“ウナニャオーーーーーーーーン。”
『――必要なようですね』
「コミュニケーションだよ、コミュニケーション。でちょよねーー」
“ナオォオーーン。”
『なるほど』
「あ、でもアレだな。この子、飼いウルプレッ――じゃなかった飼いネコだな」
『――そうなのですか?』
「ああ。首に高そうなペンダント着けてるし、毛もちゃんと手入れされて……うん?」
『はい?』
「この子、瞳の形がちょっとおかしいな」
『――と言いますと?』
「瞳の半分が黄色で、もう半分がブルーっぽく……っていうか完全にブルーだな」
『なるほど。多瞳孔症の一種でしょうか?』
「“たどうこうしょう”?」
『一つの眼に二つ以上の瞳孔がある状態のことです。重瞳とも呼ばれる病理の一つですね』
「この惑星のネコは普通ひとつ瞳なのか?」
『普通はそうですね』
「ふーん?でもこんなにキレイに半分――」
“ナゴ。”
「うん?どうかちまちたかーー?ポンポン空いたんでちゅかーー?」
『下の冷蔵室にミルクが残っていますが?』
「傷んだりしてないかな?」
『Mr.Blu‐Oの設計で、冷蔵室内の時間はほぼ停止しているんです』
「へえ、流石はバアさんだな――よちよち。じゃあ、それ貰いにいきまちゅかねーー」
“ナム。”
「はいはい――あ、そう言や、おとぎ話にもあったよな、その“チョードー”っての」
『ええ。例えば 《七百年戦争》の――』
「そうそう。ブラディオスとかな――」
(続く)