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第二週:残骸と神々(水曜日)

 承前。


 神と見紛うブラディウスの美々しき黄金の髪を泥と砂と小石が汚す。これらの渦に巻き込まれれば、いかな英雄の力をしても死の運命は免れ得まい。


「我と我が兄が、お前の奥都城となろう!」


 河神クサニスうねりを上げて、その兄ドロニスもこれに応える。


 かくて双子のこの神は、汚れた血肉と武具武器を、総べてここより削ぎ浄めんと、青きムラスの空高く、地鳴りとともに立ち上がり、止めの怒涛を起こしたり。


「母よ!」


 最後の力を振り絞り、我ら勇者が母を呼ぶ。


 しかし多くの血を吸った、ムラスの大地は押し黙り、河神の身体が彼を襲う。


 が、ここで――


 “カッ、ハッ”


 と、奇妙な音がして、彼らの踊るより川上に、白き蛟の踊るが見えた。


 そしてそれからこの大蛟、双子の河神の下まで来ると、突然変じて鳥となる。


 “ハッ、クッ”


 黄色き鳥の泣き声響き、かくて七つの火柱が立つ。


 熟したマネリ、花燃えヌペリ、陸に拡がるウラム、サリコマ、タマリの木々を薙ぎ払い (注1)、生者、屍、亡者をも、焼き払いながら、七つ火柱、河神を襲う。


「これは?」とクサニス流れを止めて、


「柱が壁に?」とドロニス驚く。


 が、そんな間もなく、双子の神は、七つ柱の火に飲み込まれた。


 河燃え、水煮え、魚も貝も行き場を失くし、ただその中を周章狼狽。


 打ちのめされしクサニス、ドロニス、元の流れに陸を降りたり。


 耕地に残るは薙ぎ倒された、その地の草木、数多の死体。


 そして瀕死のゴラス兵、追うは若獅子ブラディオス。


 息吹き返したこの英雄は、地に落つ槍を逃げ惑う、奴らの背に向け投げ放ち、デオン、グリモス、レイアトス、憐れその血を大地に流した。


「お前の顔も!憶えているぞ!」


 十束剣をブラディオス、走るユドリスその喉元に、狙いを定めたまさにその時、


「ならば!」


 現れ来たるはゴラスの王、レウリウラムがその長子、紅き瞳に玄き髪、褐の肌持つアウクシス、モアサナイトの双盾を、両の手に付け、剣を止めた。


「わたしの顔も!憶えているか!」


     *


 さて。


 この後、ホスタージの詩によれば、ブラディオスとアウクシスは、七日七夜にも及ぶ一騎討ちを繰り広げることになるのだが、流石にそこまで追っていては横道が横道ではなくなってしまうであろう。


 なので、この辺りで我々も、陸を下りた河神よろしく、本編の流れへと戻りたいと想う。


 前にも書いたとおり、惑星メル=テムの考古学者ピスカトルは、いまタル家の叔父と甥が見下ろしている二つの大河を、クサニスとドロニスの双子の河神であると考えていた。


 が、しかしそれでは、この後ホスタージが詠ったアウクシスの墓碣――フルオライトの柱であったとされる――が、この地で見付かっていないこととの整合が取れない。


 そのため筆者などは、この賢明且つ懸命であり続けたピスカ老もまた、自分達の土地と血に古の英雄伝説を結び付けたがるあの病に罹っていたのではないかと想うのだが、どうだろうか?


 が、あ、いや、これもまた余談・横道であった。そう。我々は物語をジオとバリの二人の英雄に戻さなくてはいけないのである。



(続く)

(注1)

 いずれもホスタージ時代の植物の名称。

 マネリが我が惑星で言うところの早生の小麦のような植物であり、以下、ヌペリが晩熟の小麦、ウラムは大柄の楡の木、サリコマも同じく大柄の柳の木、タマリが檉柳のような落葉小高木であったとされる。

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