第一週:石と短剣(土曜日)
西暦2019年4月25日
木曜日。12時59分。
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ええっ?!
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『西方烈風』(注1)終了直後。
『セダチュー』(注2)開始約一ヶ月前。
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そ、それ、編集長はなんて?……快くOK? ――で、でも、そしたらこっちの第三部は?…………そっちが終わってからで良い?とにかく東子くんとの打ち合わせを始めろ??編集長も同席する???
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地球。日本。東京都練馬区石神井公園。
くつろぎ広場――の、とある東屋。
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「ちょっとちょっと樫山さん、今度は一体なんなんだよ?」
あー、デュさん (注3)。それがこの電話、昔一緒に仕事してた人で、さっきの坪井くんのお姉さんなんですけど、なんか『千駄ヶ谷の中心で愛を叫ぶ』の続きを書かなくちゃいけなくなったらしくて――、
「は?」
ど、ど、ど、どうしましょう?
「どうしましょうって俺に訊かれてもよ」
あー、そりゃまあそうなんですけど――、
「まあ取り敢えず今日は色々あったからさ、一旦ポッドに戻ってお茶でも――」
あー、そっかそうですよね。時空を旅して宇宙の始まりまで行って (注4)帰って来たばかりですもんね。少しぐらいゆっくり――、
「そうそう。ナツ君 (注5)に頼んでバアさんの隠してる他のお菓子も出してもら――」
あー、でもやっぱダメですよ、デュさん。
「は?」
あそこの編集長見た目は優しいですけど、根はマジでブラックで、『スグやる。イマやる。スグサマやらせる。』が信条だったりして――、
「はあ。」
だから、だから、だからゴメンなさい。ピューッと行って、パーッと帰って来ますんで、ナツ君とここで待ってて貰えますか?
「は?」
じゃ、じゃあ、そう云うことで、取り急ぎ編集部まで行って来ますね――。
「え、ちょ、ちょっとこんな所に置いてかれても――って、もう見えなくなったよ」
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カチャ。
『お帰りなさいませ。――Mr.樫山は?』
「あー、それがさナツ君。ナンヤカンヤがドーノコーノらしくって――どうしよっか?」
『なるほど。それはMr.樫山も大変そうですが、しかし、この時代のこの地球に我々が長居するのもあまり――』
「だよな?星団加入前なんだろ?」
『多分、サピエンス種の方々は星団はおろか他星の方々の存在も把握されていないかと』
「な、俺もこのポッドも目立…………うん?」
『どうかされましたか?』
「いま、ウルプレックス (注6)の声がしなかったか?」
『いえ――少々お待ち下さい……はい。ポッド内に小型の生命体が一体入り込ん――』
“ニャオゥン。”
「あ、いた。……なんであんな高い所に?」
『落としましょうか?』
「いやいや落としちゃダメだろ。いいよ、俺が飛んでって捕まえてくるから」
『はい。よろしくお願い致します』
「ったく。――はいはい、どちたんでちゅかー、道に迷ったんでちゅかー、女の子でちゅかねー、白くてカワイイでちゅ…………え?」
『……どうかされましたか?』
「いや……あれ?……なんか……枯れ葉みたいになって消えたんだけど?」
(続く)
(注1)
樫山泰士制作のSF冒険譚『西方烈風、臥鳳蔵凰』のこと。別にこちらを読まなくても本作は楽しめるが、気になられた方は、こちらをチェック→ https://ncode.syosetu.com/n9555hg/
(注2)
同じく、樫山泰士制作のラブコメディ『千駄ヶ谷の中心で愛を叫ぶ』のこと。こちらも別に読まなくても本作は楽しめるが、気になられた方は、こちらもこちらをチェック→ https://ncode.syosetu.com/n8003hm/
(注3)
フルネームはデュ・パン。黄色の光型知性体 《ジバレー》族のひとり。詳しくは『西方烈風』に書いたが、別にそちらを読まなくても「あー、そんなキャラがいるのね」ぐらいに想っておいて頂ければ大丈夫です。
(注4)
正確に言うと、“宇宙の始まり”まで行ったのは、『西方烈風』の主人公である五人の少年少女たちであって、カシヤマたちは宇宙の急激な縮小と膨張を見ただけである。
(注5)
西暦1997年1月12日に稼働状態に入った人工知能装備型のコンピュータだが、各方面からお叱りを受けるので本名は明かせない。木星の新星化によりハードウェアごと消滅するところをMr.Blu‐Oに拾われた。なので、いまここにある彼の知性は、例の“黒い板”と同化した方のコピーと云うか双子のようなものである。こちらも詳しくは『西方烈風』に書いたが、「あ、そういうキャラなのね」ぐらいに想っておいて頂ければ大丈夫です。
(注6)
主に西銀河に生息する肉食の小動物。その中でも特に家畜化されたウチウルプレックスに対する通称。地球で言うところの小型の狼と猫を合わせたような見た目をしている。こちらも詳しくは『西方烈風』の第十五週に書いたが、あんまり気にしなくてよいです。