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3-2

 翌朝、食堂に降りていくと(てん)はすでに出発したあとだった。そりゃそうだ。朝早くに出発するって言っていたものね。


「なんだい。天の奴、月白ちゃんに何も言って行かなかったのかい?」

「あっ、いえ。昨日のうちに言ってくれました。今朝は早いからって」

「そうなのかい? それならいいんだけど。ほら、朝ごはんができるから座りな」

「はい」


 (もも)さんの言葉に食堂で朝ごはんをいただいて、薬屋に向かう。

 食事中も薬屋への道すがらも、天が戻ってきたらどう話そう、天はどんな顔をするだろう、とそればかりを考えていた。だから薬屋のドアに手をかけるまで気が付かなかった。物陰に彼女たちが潜んでいることなんて。


「お久しぶり。やっと見つけたわ」


 聞き覚えのある、でも、二度と聞くことはないと思っていた声に反射的に体が固まった。一拍置いてぎしぎしと音がなりそうなくらいぎこちなく声の方を振り返る。

 そこには私とは違いきちんと十年分成長したオリジナルの紅緋(べにひ)が立っていた。


「どうしてここに?」


 ドアノブに手を掛けたままの奇妙な体勢でたずねた私の声は掠れていた。


 ガチャリ。


 紅緋に気を取られていた隙に声とは反対から手が伸びて、私の右手に手錠がかかる。


「我らは王立研究院の研究者だ。この意味がわかるな。抵抗は無駄だ」


 手錠をかけたのはまだ年若い少年。紅緋と少年の後ろにはやや年嵩の男性。おそらく彼がリーダーなのだろう。三人揃って濃紺に金糸の縁取りがされた制服を身に纏っている。タイム村には不釣り合いなその姿にどうして気が付かなかったのかと心の中で舌打ちする。


「手荒な真似はしたくない。大人しく従いなさい」


 年嵩の男性が二人よりは幾分柔らかな口調で私に声をかける。逃げられるか? と一瞬考えてすぐに諦めた。アンドロイドといってもこれと言った特殊機能があるわけでもない。それに逃げたらタイム村の人たちに迷惑がかかる。


「わかりました。近くの宿屋に荷物があるので取りに行かせてください」


 私の言葉に男性がうなずく。手錠をつけられたまま少年に引かれてあんず亭に向かう。村の人たちが何事かと遠巻きにこちらを見ている。


「月白ちゃん、どうしたんだい?」


 あんず亭に戻ると朝ごはんの片付けをしていた桃さんが目を丸くして声をかけてくる。ちょうど朝のお客さんの食事が終わったタイミングだったのだろう。食堂には桃さんしかいなかった。


「桃さん、あの」

「この村に魔女がいるとの報告があった。この女は王立研究院が連れていく」

「「えっ?」」


 手錠を持つ少年の言葉に私も桃さんも驚きの声を上げる。そんな私の顔を見て紅緋が満足そうな顔で笑う。


「あんた、この村でも厄介者だったみたいね。村の人間から王立研究院に訴えがあったのよ。夏祭りで怪しげな魔術を使った魔女がいるってね。まぁ、所詮はア……」

「紅緋、余計なおしゃべりはやめなさい。さっさといくぞ」


 アンドロイドと言いかけたのだろう。紅緋の言葉を男性が止める。驚いた様子もなく手錠を掴んだままの少年。どうやら紅緋だけではなく、青年と少年も私がアンドロイドであることを知っているらしい。そして、青年の言葉から今でもアンドロイドは秘匿されるべき存在のままであることもうかがい知れた。


「あいつ、馬鹿なことを」

 

 桃さんが苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。おそらく夏祭りの夜のことを思いだしているのだろう。小さな村だ。王立研究院に訴えたのが誰かなんてすぐにわかった。私に魔女だと叫んだあの女性だ。


「おいおい、お役人様。そりゃ誤解だよ。月白はうちの娘さ」


 カウンターの奥から聞こえてきた声にハッとする。そこにはケラケラと笑う松葉さんが立っていた。松葉さんの言葉に桃さんもハッとした顔で慌ててうなずく。


「そうだよ。この子はあたしらの娘さ。確かにあたしに似て美人だけど、魔女ってほどじゃないだろうよ」

「そうそう、魔女っていうなら桃の方がよっぽど」

「なんだって?」


 なおも軽口を続ける松葉さんに桃さんが芝居がかった態度でジロリと睨みつける。そんな桃さんに松葉さんも大袈裟に慌てて見せる。


「違うって! 桃には妖艶な大人の色気があるって話さ。月白にゃ、まだまだ無理だろ?」

「まぁ、そりゃあねぇ。あたしももういい歳だし、最近は大人の魅力って言うのかい。自分でも人妻の色気ってもんがでてきたと」

「いい加減にしなさいよ!」


 満更でも顔をしてみせる桃さんを紅緋が怒鳴りつける。


「なんだい? あんた達こそ、さっさと娘を離してもらおうか」

「おばさん! そんな見え透いた嘘が通用するとでも思ってんの!」

「言うじゃないか! だったらあたしらの娘じゃないって証拠を持ってきな!」

「やめなさい」


 負けじと言い返す桃さんと紅緋を男性が静かな声で止める。

 

「下手な抵抗はやめてください。お二人まで魔女の親として連れて行くことはしたくない」


 そこで言葉を切ると男性は私を見た。そして。


「この言葉の意味がわかりますね?」


 穏やかな口調のまま静かに言い切った。形だけは疑問形をとってはいるが、要は巻き込みたくないなら大人しく連行されろという訳だ。


「その二人はただの宿屋のご主人とおかみさんです。無関係です」


 心の中で二人に謝りながら私は男性に答える。その言葉に男性が静かにうなずく。


「わかりました。行きましょう」

「月白!」

「月白ちゃん!」

「お世話になりました」


 頭を下げる私に松葉さんと桃さんが言葉を失う。


「部屋はこっちです」


 それ以上何も言わずに私は部屋に向かう。紅緋たちが監視する中、荷物をまとめる。といっても元から大した荷物はない。

 天からの髪飾りは抽斗へ残したままにした。どちらにしろ返すつもりだった。こんな形で返すことになるとは思わなかったけれど。

 ごめんね、とまた心の中で呟く。

 こうして私はタイム村を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんて言うか、この思い切った展開が無理なく突然に襲って来る感じが読者として主人公とリンクするのが、たまらなく気持ち良い! 蜜蜂作品の真骨頂よね。 (๑•̀ㅂ•́)و✧
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