1-1 オリジナルがいるなら私は用済みですね
「こちらは黄唐さんと銀朱さんのお宅ですか?」
「は~い、どちら様?」
長閑な休日の朝、どこか聞き覚えのある少女の声に私が応えたのは本当に偶然だった。母親から食卓に飾る花を摘んでくるように言われて庭にでていたから、ただそれだけ。丁度珍しい紫色のクロッカスを見つけた私は、中腰で首だけ振り返ったままの姿勢で凍り付いた。
声に聞き覚えがあるはずだ。だって目の前にいたのは『私自身』だったから。
庭の入り口に立つ少女も私と同じように凍り付いていた。私そっくりの真っ赤な目を大きく見開いて。
どのくらいそうしていただろう?
「紅緋、どうしたの?」
なかなか戻らない私を呼びきた母親の声で我に返った私は、目の前の状況を伝えようと口を開きかけた。
「紅緋? 紅緋なの?」
でも私が何か言うよりも先に、母親が庭の入り口に立つ少女を見つめて私の名前を呟く。そして信じられないといった顔でその場に立ち尽くした。
「お~い、二人ともどうしたの? ……って、紅緋? 紅緋なのか?」
同じように私と母親を呼びにきた父親もその場に立ち尽くす。
「お父さん! お母さん! 会いたかったです!」
そんな両親に場違いなくらい満面の笑みで声をかける少女。今にもこちらに駆け出してきそうな少女と驚愕の表情で立ち尽くす両親。そんな三人の間で茫然と立っている私。傍から見れば随分と滑稽な光景だっただろう。
いまいち理解の追い付かない頭で、でも、ただ一つだけわかってしまったこと。それは、自分が十四歳の誕生日の三日前に存在意義を失ったということだった。
大袈裟な、なんて呆れないで欲しい。だって、私は亡くなった二人の娘、紅緋、の代わりに造られたアンドロイドなのだから。
身代わりのアンドロイドと死んだはずの娘が、今、向かい合って立っている。
足元が崩れていくような感覚、なんてものを私は初めて実感していた。
読んでいただきありがとうございます!
用済みと言われたアンドロイドがハッピーエンドを迎えるまでの物語です。
毎日更新を目指して頑張っていきたいと思いますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。