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4 カナディーク王子との二度目の再会  

 

 二度目の人生で私が死んだ後、カナディーク王子は臣下に下り、一代限りの侯爵として騎士団に入った。

 彼は生涯誰とも結婚しなかった。婚約者を捨てて、その婚約者の妹(しかも婚約者持ち)と浮気をした屑王子……と噂が立ったからだ。

 

 しかも、その元婚約者は自分を裏切った妹を庇って亡くなった悲劇のヒロインなのだ。

 そんな男に嫁いだら呪われるという都市伝説までできたせいで、カナディーク侯爵は女性に避けられているという噂まで流れた。

 

 しかし、侯爵が結婚しなかったのは、実際は女性達が彼との結婚を嫌がったからではなく、本人がそれを望んでいなかったからだ。

 その証拠に、周りの者達がせめて愛人くらいは持つようにといくら勧めても、彼自身がそれを断っていた。

 

「私の愛する人はただ一人だ」

 

 と言って。

 人の妻になった女性を未だに忘れられないのかと、元側近の友人達は彼に同情した。

 

 しかし・・・

 

 

 ✽✽✽✽✽

 

 

「勘違いしないでくれ、カスタリア!

 僕の愛する人は君だけだ。何度生まれ変わろうと君だけなんだ。信じてくれ!」

 

 三度目の人生が始まって最初に顔を合わせた時、カナディーク王子が私にこう言った。十歳のまだソプラノの高い声で……

 

 前回生まれ変わった時は赤ん坊の時から前世の記憶があったが、今回は十歳の時に突如二つの人生の記憶が蘇った。

 かなり頭が混乱して、整理をするのに数日かかった。

 

 過去二回の人生では、十歳の時に王妃様が催されたガーデンパーティーで私は王子に見初められた。

 だから今回はそのガーデンパーティーに、私は仮病を使って欠席した。

 私と婚約したばかりに、カナディーク王子は辛い想いをされたのだ。だから今回は絶対に殿下の婚約者にはなりたくなかった。

 

 ところが欠席したパーティーの翌日に、王家から先触れがあり、その二日後、なんとカナディーク王子自らが見舞いと称してベルギル侯爵家にやって来たのである。

 

 私は殿下に会いたくなかった。そのためにパーティーを欠席したのだから。

 しかし殿下自ら見舞いに訪れてくれたのに、会わずに追い返すわけにはいかない。

 しかも、長期間寝込んでいたら、私の病気が悪いものだと噂をされるのも困ると父は判断し、私にカナディーク王子に会うように命じた。

 私の調子がもうすっかり良くなっていることは見え見えだったので。そう。仮病だったのだから当然である。

 

 そして私の部屋に入って来たカナディーク王子は、人払いをした後で、突然さっきの台詞を吐いたのだった。

 

 私は驚いて目を剝いた。

 生まれ変わっても?

 それは比喩表現?

 それとも真にそのままの意味?

 

「殿下は何をおっしゃっているのですか?」

 

「カーリア、僕を覚えていないの?」

 

 カナディーク王子が泣きそうな顔をしてこう尋ねた。

 カーリアとは最初の人生の時に彼が付けてくれた私の愛称だった。

 二度目の人生の時には、他人行儀の付き合いだったので、愛称どころか君とか貴女としか呼ばれなかった。

 

 カーリアと呼んだということは、最初の人生のことを覚えているということだろうか? いや、まだそれはわからない。

 もし違っていたら、ループ? やり直し? 何を言ってる? 頭がおかしいと思われても困る。

 私は頭を傾げて、何をおっしゃっていますの?と疑問に思っている振りをした。すると、王子はとても悲しそうな顔をした。そして……

 

「そうか、覚えていないのか。そりゃあそうだよな。両親も兄達も側近達も誰も何も覚えていないんだから。

 むしろ何でカーリアだけは覚えているに違いないと思ったのだろう。

 ループしたことに気付いた時、とにかくカーリアに誤解されたくない、謝りたいとそう思ってしまった。

 だからガーデンパーティーでカーリアに会えるのを一日千秋の思いで待っていた。

 それなのに君が現れなかったから僕は焦ってしまった。

 だって、ガーデンパーティーの日までは、前の二回の時と全く同じ日常を送っていたのに、今回は予想外の事が起きたから。

 今回はカーリアに会えないのか? 婚約者になれないかも知れないと思ったら、居ても立っても居られなかったんだ。

 君はかわいい。愛らしい。そして優しくて賢い。その上名門侯爵家の令嬢だ。いつ婚約者が決まってしまってもおかしくない。

 ああ……君を失ったらと思うと耐えられない……」

 

 カナディーク王子は私に聞かせるというより、ただ呆然と自分の感情を吐露しているだけのようだった。

 どうやら本当に王子は最初とやり直しの、二つの人生の記憶を持っているらしい。前回は最初の記憶を覚えていなかったのに。

 

 しかしもし本当に二つの記憶があるとしても、そこには齟齬も生じている。

 何故なら最初の時はともかく、やり直しをした人生において、カナディーク王子が私を愛したことはなかったのだから。

 彼はいつも冷たい目で私を見ていた。そして最初の人生の時に私に向けてくれていた優しい目で、彼は妹のへラリーを見つめていた。

 

 そして孤立無援の衆人環視の中で、私は彼から冷酷非情にも婚約破棄を告げられたのだ。

 しかも、彼は私が死んだ後も誰とも結婚せず、死ぬまで妹だけを思い続けていた。

 それを思い出したら胸が苦しくなって動悸が起きてしまった。何故再びこんな辛い思いをしなければならないのか。

 

 二度目の人生の時には、最初の人生の最後だけを変えようとして失敗した。

 最初の人生では私はカナディーク王子と愛し合って幸せだったから、次こそ彼とそのまま結婚して幸せであり続けたかったのだ。殺されたりせずに。

 

 しかしそのやり直しの結果は悲惨だった。

 あんな努力して頑張って淑女の鑑と呼ばれるような女性になったのに、愛する王子には嫌われ、友人はできず、妹には裏切られ、しかもその妹を庇った挙げ句に殺された。

 確かに両親や国王陛下や王妃様には認めてもらえたけれど、それがなんだったというの。

 

 死ぬ時に王子と妹の幸せを祈ったのは、噓じゃなくて私の本心だったけれど、再びループしたのなら同じ思いはしたくない。

 今度こそ私は私らしく、私自身のために生きて行きたい。改めてそう思った。だから王子に向かってこう言った。

 

「すみません。殿下のおっしゃっている意味がわかりません。

 それに気分が悪いので、大変失礼なことですが横になってもよろしいでしょうか?」

 

 私の苦しげな顔を見て王子はハッとしたようで、再び謝罪を口にした。具合が悪いのに無理矢理押しかけて申し訳なかった。改めて出直すと。

 

 しかし、私は王子にその出直しのチャンスを与えるつもりなんてなかった。

 

 私は父に言った。

 私は次期女侯爵になるのですから、早く伴侶を決めて欲しいと。そして、その方と立派に侯爵家を守るための教育を受けたいと。

 

 両親はまだ十歳の娘のこの言葉に驚き、そんなに慌てて婚約者を決める必要はないと言った。

 三度目の人生での私は、記憶が戻る前から、何故か最初と二度目の性格を足して二で割ったような程よい性格だった。

 それ故に二度目の時と同様に、両親は私に侯爵家を継がせようとしていたので、婚約をそれほど急いでいなかった。

 

 そこで私は父親にこう言った。

 

「お父様、私の年代にはあまり高位貴族の令嬢がいないというお話は本当ですか?」

 

「ああ、そう言えばそうだな。筆頭公爵家に一人、それから我が家と同じ二つの侯爵家にやはり一人ずついるくらいかな。それがどうした?」

 

「その三人のご令嬢は皆様嫁がれるご予定ですよね?」

 

「そうだな。皆他にご嫡男がいるからな」

 

「それでは第三王子殿下はどちらへ婿入りされるのでしょうか?」

 

 私のこの言葉に、ようやく父は私の言おうとした意図を察したようだった。

 もし父のベルギル侯爵が王家の繋がりを欲している人間ならば、第三王子との婚約を手放しで喜ぶことだろう。

 しかし過去の二度とも父はカナディーク王子との婚約を喜んではいなかった。

 父には王族に対する忠誠心など持ち合わせてはいない。そして王族から婿を取ってペコペコと頭を下げるつもりなどさらさらない。

 つまりその気がないならば、早いうちに我が家から対策を取るべきだろう、と暗示したのだ。

 

 元々両陛下が私との婚約に拘ったのは、溺愛しているかわいい末っ子王子を他国へ出したくなかったからだ。

 しかし国内に釣り合う令嬢がいなければ、さすがにお二人も諦めるだろう。

 カナディーク王子は眉目秀麗で、王宮のパーティーの時も他国の王女様の熱い視線にいつも晒されていた。婿入り先に困ることはないだろう。

 

 父はすぐに私の婿探しを始めた。そして遠縁の伯爵家の三男で一才年上の利発そうな少年を選定して顔合わせをした。

 一族の集まりでチラッと見た顔だった。そう、かつての妹の婚約者だった少年だ。

 その茶髪に茶色の瞳の少年は色合いは地味だったが整った顔立ちで真面目そうに見えた。

 

 もしやと思っていたが、これは予定調和? 既定路線? 予めこうなるというシナリオができていて、どんなに抗っても変えられないということなのだろうか?

 

 過去の二度の人生において、私は伯爵家の三男との縁談が持ち上がっては、それはいつの間にか消滅して、何故か私の婚約者はカナディーク王子になっていた。

 そして彼の相手が妹にすり替わっていた。そしてこの男は妹を最終的に酷い目に遭わすのだ。

 

 過去二度の人生では何故か、私と妹は触れ合う機会が少なかった。しかし今客観的に鑑みると、恐らく妹は彼を好きではなかったのだろうと思う。だって、彼は両親と同じタイプの人間だったもの。 

読んで下さってありがとうございました!

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