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三度目の正直のはずだったのに、ループしたヒロイン(自称)は墓穴を掘る!  作者: 悠木 源基


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第21章 卒業式後の予定

 

 今私とカナディーク王子は最終学年で、間もなく卒業を迎える。

 三度目の学園生活がどうだったのかと言えば、本当に充実して幸せな時間だった。

 

 

 元々の人生での私の学園生活も、それはもう楽しいものだったわ。何せ本当に何も考えていなかったしね。

 

 カナディーク王子との仲も順調だったし、王子の側近のロッド様やモールス様、その他のご令嬢達とも仲良くやっていた。

 あの頭のおかしなスピア=コールドマン男爵令嬢以外のことは、何の憂慮もなかったわね。

 

 でもそれは私が何も見ず、いえ何も見ようとしていなかったただけ。

 たとえ卒業したあの日に殺されずに済んでいたとしても、ろくな人生は送れなかったでしょうね。

 ベルギル侯爵家は色々とやらかしていたし、領民からの信頼関係も破綻していたので。

 

 その上王都だけでなく地方もかなり治安が悪くなっていた。だから領地に滞在していても、いつ犯罪に巻き込まれてもおかしくなかったと思うし。

 

 最初のやり直しの時、そんな社会情勢だったのに、多少護身術を習ったくらいで、女一人で修道院まで辿り着けると考えていたのだから、我ながら呆れる。

 

 そう言えば最初のやり直しの時、同じ失敗をしないようにと、立派な淑女になろうと無理をし過ぎたのが、そもそもの失敗の原因だった。

 友人を作らず、ただ頑なに勉強だけをしていた。

 そして己の身を守るために、陰で必死に防衛術の訓練をしていた。

 

 見事に頑張るところを間違っていて、今振り返ればとても()()()令嬢だ。私はどうも極端に走る性格だったようだ。

 今回は妹やミクティナ様のおかげで中庸な物の考え方ができるようになったと思う。

 それに、カナディーク王子も辛抱強く、そしてさり気なく私の性格を軌道修正してくれていたし。

 

 何故一度目のやり直しの時、あれほど頑なにカナディーク王子と一線を画し、心を通わすことを拒否したのか。

 それでいて妹とのことを邪推して、悲劇のヒロイン気取りをしていたのですから、かなり()()()

 カナディーク王子と妹こそが私の被害者だったわ。だから二人は、私に対して罪悪感など抱く必要など一切なかった。

 

 それなのに……

 

 フワフワと魂となって彷徨っていた時に見た、二人の苦渋に満ちた顔を思い出す度に、今までも私は申し訳なくて涙が溢れる。

 

 

 そしてそれらの失敗を踏まえた三度目の学園生活は、今日で終わり。

 

 今回はカナディーク王子との関係を確実に深めつつ、妹や王子の側近、それから将来お付き合いするであろう貴族の子弟の皆様とも友好を結んできた。

 

 それにベルギル侯爵家に恨みを持つ者を無くす努力もしてきた。まあ、恨みなんてどこで買うかわからないけれど。

 

 社会不安を広げないように、多くの方々の協力を得て、社会福祉にも力を注いできた。

 しかしこればかりはどんなに頑張っても、この社会やこの国への不満を募らせる者達をなくすことはできないだろう。

 だからそんな者達の刃が、たとえ私が表だった行動をとっていなかったとして、三度(みたび)私に向かってくる可能性は無きにしもあらず。 

 

 そう。この世というのは理不尽だらけなのだから。

 

 

 それがわかった上で卒業パーティーの後、私はベルギル侯爵家に戻ることを決断した。

 王城に留まっているのが一番安全だと、皆様には大反対されたけれど、私の決意は変わらなかった。

 

 だってそうでしょう?

 たとえ王城であの日をなんとか無事にやり過ごしても、その後はどうなるのかわからない。

 あの運命が本当に変わったのか、変えられたのかを確証できずに、いつまでも不安を抱えて生きていかなければならない。

 

 そんなのは絶対に嫌だわ。

 

 やはりあの日あの時をあの場所で、無事に乗り越えなければ意味がない。

 

 怖い……

 二度も殺されたのだから、その恐怖や痛みや絶望感は忘れられない。

 しかしやれることは全てやったのだから、後はもう運命に任せるしかない。

 

 そしてもしまた殺されてやり直しが起きて、しかもまたもやその記憶を私が持っていたとしたら、今度はまず何よりも先にあの教会を取り潰してやる! 

 もう二度とやり直しなどができないように。

 

 そしてあの聖女もどきを絶対に矯正してみせる。もしそれが無理なら、どこかに秘密裏に収容してやる。人々に害をなさないように。人々の暮らしを理不尽に変えないように……

 

 バチが当たってもかまわない。

 

 私の固い決意を聞いた仲間達は、皆驚愕の表情を浮かべて反対をした。

 

 普段飄々としたミクティナ様ですら、私の最後の言葉には慄然としていた。なんだかんだ言っても、彼女は一応教会に身を置く聖女様ですからね。

 

 自分で言うのもこそばゆいのだが、普段楚々とした生真面目な正統派淑女だった私のこの発言に、皆様は度肝を抜かれたようだ。

 

 しかし、やはりカナディーク王子と妹のへラリーは私と三度も人生を共に過ごしているので、驚きはしたが、引いているようには見えなかった。そこは少し安堵した。

 

 カナディーク王子は震えている私の両手を握り、柔和な瞳で見つめながら、こうおっしゃった。

 

「分かった。それなら僕も一緒に行くよ。僕がカーリアの側にいる」

 

「それはできません。殿下を危険な場所にお連れするわけにはいきませんわ」

 

 カナディーク王子から身に余る至福の言葉を貰い、私は歓喜した。

 しかし、だからといってその申し出を受けるわけにはいかない。どうにか上手くお断りをしなければと私は即座に判断した。

 カナディーク王子は、私にとってもっとも大切な方なのです。王子にもしものことがあったら、それこそ自分が生き延びても何の意味もありませんと。

 

 しかし、カナディーク王子も私と同じことをおっしゃったのだ。私が死んだら何の意味もないのだと。

 

「君を失った後の僕が味わった苦しみがわかるかい? 後を追いたくてもそれも許されなず、一人で君を思い続けたあの孤独や喪失感。そしてただ後悔する日々……

 あんな思いをまた僕にさせたいの?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。殿下にそんな辛い思いをさせてしまって、本当にごめんなさい」

 

 二度目のやり直しをしてから、カナディーク王子が私に苦情を言ったことはなかった。

 思い切り責めて欲しいと私は願っていたけれど、王子は私を慮ってずっと堪えてくれていたのだろう。私が死んだ後の話は一切されなかった。

 しかし私はそれをフワフワ魂となって、王子のその苦しみを見て知っていたというのに。

 

 私は、後悔と申し訳なさと、あの時何もしてあげることができなかったもどかしさで居たたまれなくなった。

 そして改めて申し訳なくなった。今私は、あの苦しみを王子にまた与えようとしたのか……と。

 

「ずっと君の側にいるよ。今度こそ」

 

「殿下……」

 

 涙を溢れさせながらも、私がカナディーク王子と見つめ合っていると、空気を読まない妹がこう言った。

 

「お二人の邪魔になるのは気が進まないけれど、私も一緒に屋敷に戻るわ」

 

 するとすかさず妹の婚約者であるケビン様までこう言った。

 

「それなら僕は、屋敷で皆様が卒業パーティーからお戻りになるのを待っていますよ」

 

「あら、ケビン様はいいのよ。元々あの場にはいらっしゃらない設定だったのだから」

 

「そうはいかないよ。

 確かに僕には以前の記憶はないよ。だけど、へラリーがカスタリア嬢の死を悲しみ、一生喪服を着て過ごすほど罪悪感を持ち続けていたというのなら、そんな君を見て僕も苦しんだと思う。君を助けられなくて。

 だから僕も殿下同様、そんな思いをしたくないよ。僕は君と幸せになりたいんだ」

 

 婚約者の言葉にへラリーは瞠目し、それから私と同じく涙をこぼした。

 そんな私達を見て、他の方々は観念したかようにため息を漏らした。

 そしてオーガス元帥閣下が皆さんの代表するかのようにこうおっしゃった。

 

「わかった、わかった。カスタリア嬢の言う通りにしよう。ただし目立たないようにやるから、我々にしっかり守らせてくれ。

 王都の現状は、君達から聞いたような酷い社会情勢ではないし、悪人どもが徒党を組んで悪さをしているという話も聞いてはいない。

 しかし、何が起こるかわからないのが世の常だから、油断せず準備を整えておこう。今まで通りに……な」

 

 

 そう。半年ほど前に私達は今まで助けてきて頂いた方々に、正直に私達の目的を話したのだ。

 信じてくれるかどうかはわからなかったが、どんな結果になっても彼らに感謝の気持ちを伝えておきたかった。

 そしてただ利用したのではなく、皆様の幸せをも祈って頑張ってきたことを知って欲しかった。

 

 それに、もし今回も失敗してやり直すことになった時、その時は誰が記憶を持っているのか正直わからない。

 だから、やり直しの時に記憶を持つことになった者が予備知識を持っていた方が、かつての私達のような同じ失敗をしなくて済むのではないか、そう考えたのだ。

 

 

 オーガス元帥閣下。

 

 閣下の奥様になられたヘンドリックス侯爵家のニコルお姉様。

 

 ニコルお姉様の弟君であり、現在は騎士団の副団長になったロッド=ヘンドリックス侯爵と、カナディーク王子の同級生で側近のオッド様。

 

 城の高官になった、カナディーク王子の元側近のアダムズ卿と、弟でカナディーク王子の同級生で側近のモールス様。

 

 アダムズ卿の婚約者となった聖女のミクティナ様。

 

 そして、ゾイ=パロット……

 

 彼ら皆、私達三人の話を信じてくれた。

 やはり私達の言動が子供にしては尋常ではなかったようで、納得せざるを得なかったようだ。

 

 それに皆様自分のこれまでことを振り返った時、私達三人の助言がなかったら、自分はどう行動したのかを思い返したらしい。

 恐らく、好きな相手とは婚約や結婚はできなかっただろう、と。

 

 その上仕事に対する姿勢も変わっていただろう。自ら積極的に行動をすることもなく、恐らく惰性で何となく適当に仕事をしていたに違いない。

 

 そして王都が廃退していく様を手をこまねいて、ただ諦めの境地で眺めていたことだろう。

 

 だから、彼らは異口同音にこう言ったのだ。

 

「私の運命を変えてくれてありがとう」

 

 と。そして一致団結してラストスパートに向けて準備をしてきたのだ。

 だからこそ一月前に私が先程の提案をした時、皆様は私の身を案じて反対したのだ。

 

 しかし、カナディーク殿下やケビン様の後押しを受けて、オーガス元帥閣下が新たな防衛計画を立てて下さることになった。

 

 予定は未定。

 

 未来はどうなるかわからない。けれども今回は一人きりではないのです。 

 皆様を信じて、頼って、こうして私は、あの卒業の日を迎えることになったのだった。

 

 読んで下さってありがとうございました!

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