第14章 絶望的な初恋ー2(ゾイ視点)
父親の体調が戻った頃、カナディーク王子殿下がこれからはコーヒーが流行るだろうと言った。
それを聞いた俺は、王都へ出かける度にあちらこちらのカフェに入店して、コーヒーやカフェのことを調査しまくった。
コーヒーは以前は酔い醒ましの薬として飲まれていたが、王弟殿下が嗜好品として飲まれているという情報が市井にまで拡散すると、街中にはすぐにカフェなるものができていった。
俺はそんなカフェをいくつか回っているうちに、あるカフェのオーナーと親しくなって、コーヒーの飲み方についていくつか提案してみた。
たとえばコーヒーにミルクや砂糖を加えれば女性にも飲まれるようになるのでは?とか、酔い醒まし以外にも朝頭がスッキリするように、出勤前に立ち寄れるように、オープンを少し早めにしてみたらどうかとか。
朝っぱらから値のはるコーヒーを飲むためにわざわざ店に立ち寄らないだろうと、最初のうちオーナーは笑って相手にしなかった。
しかし、コーヒー以外にトーストや玉子料理でも付ければ、独身者が手軽に朝食を食べられるからときっと来てくれるよ、とオーナーに提言した。
コーヒーはまだまだ高価な飲み物だったので、わざわざ忙しい朝に飲もうとは思わない。
しかしコーヒーだけの値段で朝食代わりになる物がつくなら、かなりお得感が出る。
それでコーヒーの味を覚えてもらえば、普通の時間帯でもコーヒーを飲んでもらえるのではないか。
おれがこう説明してやると、オーナーの気持ちがようやく揺れ始めた。
「手伝ってくれるか?」
「もちろんいいですよ。こっちが言い出したんですからね。
ただし、お客が増えたらうちの領地でできた農産物を使って下さいね。小麦粉、玉子、バター、ミルクなんかをね」
俺の提案にオーナーは乗ってきた。そして俺は客を呼ぶために、自ら宣伝活動にも励んだ。
俺は子供の頃から王都の教会に通っていたから知人や友人は多かったんだ。それは平民だけではなく貴族の家のご令息もいた。
自分ではよくわからないのだが、俺はやたら年下の奴らに慕われるんだ。
俺が頼むと仲間達はカフェの宣伝を積極的にしてくれた。
それに絵の上手い奴がいたので、店の前に置く立て看板に、モーニングセットのイラストを描いてもらった。
最初のうちは城に勤める独身の若い役人や、二日酔いを直したい騎士達が客としてやって来た。
しかしカフェのモーニングサービスが評判になってくると、次第に若者だけではなく、連れ合いを無くしたやもめの男性や、早起きの年配者も軽食を目当てにやってくるようになった。
新聞や雑誌を置くように俺がアドバイスをすると、それも紳士達に人気になった。
やがて仕事をリタイアしたご主人達が、奥さん連れで来店するようにもなった。
以前この国では、ご婦人達が好む飲み物といえば紅茶が主流だった。そして薬のように苦いというイメージがあったコーヒーは、どちらかといえば避けられる傾向だった。
しかしミルクたっぷりのカフェ・オ・レや甘味料を加えて甘くしたコーヒーを勧めてみると、その味を気に入ってくれる女性も増えてきた。
そしてその奥さん達の口コミで女性客も次第に増えていった。
店は思ったより早く繁盛をしたので、農産物の取引はすぐに本契約してもらうことができた。
カフェが儲かれば儲かるほど、こちらも農産物が捌けて万々歳だ。
しかし、すぐに真似をする奴は出てくるものだ。
だから俺は、今度は本来のコーヒーの愛好家を増やすことに力を入れた方がいいよ、とオーナーに提案した。
「俺が宣伝してやってもいいよ。ただし、俺の口コミで来店した客に対してマージンをくれるならね」
するとオーナーはどうやってお前の宣伝で来た客だと判断するんだい?と笑うので、その証明方法を教えてやったら、彼は目を丸くした。
どうやって俺から聞いた客かどうかがわかるのかというと、客自身が『ピーゼット』から聞いたと店で告げるようにしたからだ。
何故客達がその名前を言うのかというと、それを告げるとちょっとしたおまけが付くサービスをしたのだ。たとえば果物とかナッツとか、チーズとか……
もちろんそれらはうちの領地の特産品なので宣伝にもなる。
オーナーも客に尋ねられれば、うちの領地の農産物だと伝えてくれたので、問い合わせもかなりあり、それが結構商売に繋がった。
客も自分だけにサービスが付くという優越感が持てるわけだから、大っぴらにはそれを口にはしない。
それだと客が増えなくて店が困るのではないか……とか思われるかもしれないが、優越感を持った者が馴染み客になっていくことか多かったので、オーナーも満足していた。
それに一見の客より常連客が増えた方が、長い目で見れば店としては嬉しいことだから。
そして俺の懐に入ったそのマージンはそこそこの金になったので、俺はそれらを協力してくれた友人達に還元した。そしてそれによって彼らとの絆はさらに強まっていったのだ。
そしてそんなある日、カスタリア様とカナディーク王子殿下から重要な話があると言われた。
何だろと思っていると、麻袋に入った大金を手渡されて、これを元手にして好きなことをしてみて欲しいと告げられた。
意味がわからずキョトンとしていると、お嬢様は言った。
「本当に何に使ってもいいの。投資でも、賭け事でも、買い物でも、もちろん誰かにあげてもいいし。
ただし、三年後にその元手で何をしたかを私達に教えて欲しいの」
元金を使い果たして、三年待たずにすっからかんになってもそれは構わないとお嬢様は言った。
「だって、そのお金は元々あなたの稼いだお金の一部なのよ。あなたのお金と言ってもいいくらいよね。だから自由に使って下さい」
そう笑いながらお嬢様は言ったが、正直俺はわけがわからなかった。
俺はその後こっそり殿下に会って、本当にこの金を受け取っていいのかと尋ねた。
すると殿下は、いつもの不機嫌そうな顔でこう言った。
「僕は反対したんだよ。持ち慣れない金を持つと人はおかしくなる。
もし道を踏み外したらどうするんだ。悪い仲間に悪の道に誘われたり利用されたらどうするんだと。
でも彼女は君を信じていると言うんだよ。絶対に大丈夫だって。この二年間の君の働きを見ていればわかると。
そもそも君の周りにいる者達は、悪の道に誘ってくるような連中じゃないだろうって。
彼女が何に使っても構わないと言ったのだから自由に使ってくれ。
ただ僕の希望を言わせてもらえるならば、もし利益が出たら、少しでいいから困っている人のために役立てて欲しいとは思うけど」
殿下は俺のことをずっと嫌っているんだと思っていた。それなのに、少しは俺のことを心配してくれているのだと知って、何だかむず痒くなった。
そしてカスタリア様が俺を信じてくれた事が何より嬉しくてたまらなかった。
結局俺はその金を元手にして、仲間達と共に王都にベルギル領地の農産物を散り扱う直営店と、その隣にその農産物を使った料理を出すレストランの経営を始めたのだった。
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