12 頼れる統帥閣下と因縁の相手
誤字脱字報告、ありがとうございます。本当に助かります!
私達が二度目のやり直しを始めて四年が経った。私とカナディーク王子は十四歳になった。
以前の二回の人生では、私は婚約した後、カナディーク王子と共に王宮で一緒に過ごしていた。そして勉強やマナーや剣技をそこで学んでいた。
しかし今回は、本来のあるべき姿に正すことができた。
つまり、勉強は王都の我が侯爵家の屋に、教師を招いて指導を受けられるようにしたのだ。
最初のうちあの両親は、王家の命令で婚約することになったのだから、王子の教育は王家でしろと、以前と同様に高飛車で言っていた。
しかしそんな両親に対し、国王は至極真っ当なことを言った。
「教育費は王宮で出すから、そちらで学ばせろ。いずれ侯爵領を治めるのなら、領地のことを学ばなければ意味がない」
と。
両親に反論の余地などあるわけもなく、今回、彼らはそれを了承せざるを得なくなった。
ところが、両親は何故か私達が領地を見回りに行くことに反対した。そこで私達は、カナディーク王子の叔父上であるオーガス総帥閣下に助言をお願いした。
すると総帥閣下はベルギル侯爵家にやって来ると、うちの両親を見下ろしてこう言った。
「次期後継者が自分の領地のことを学ぶことは当たり前だ。いや、寧ろ現当主は跡継ぎに積極的にそれらを学ばせるべきだ。
それなのに意図的に学ばせないとしたら、それは貴族としての義務違反だ。
もしや貴殿達は、何か疚しいことをしているわけではないだろうな?」
「御冗談はお止め下さい。私はただ殿下と娘にはまだ早いと思っているだけです。何せ二人はまだ今十歳ですから」
巨人のような体格の総帥閣下に厳しい目で睨み付けられて、両親は冷や汗をかきながら言い訳をした。
しかしそれに対して、閣下はフンと鼻を鳴らした。
「早過ぎるだと?
貴様は、第三王子であり我が甥でもあるカナディークを、愚弄しておるのか!
不敬罪で逮捕するぞ!」
「ひぇ~! お許し下さい。愚弄だなんて滅相もない。そんなつもりは全くありません」
以前は王家に対して高慢で不遜な態度を取り続けていた両親も、さすがに総帥閣下を目の当たりにしてまで、それを貫き通すほどの胆力はなかったようだ。情けない。
王家に対しても、教会に対しても、社会道徳に対しても、畏敬の念を抱かないこの両親には、怖いものなどないのではないか……
以前の私は、両親に抵抗することを始めから諦めていた。
しかし彼らは、権威などの直接目に見えないものに対しては平気だが、実際に目にした脅威に対しては恐怖を感じるらしい。
私は彼らがむしろ、御し易い人間だということがわかった。
偉そうに権力を振り回し、ご立派な計画書を作成することができても、実際に戦場に出たら一目散に逃げ出すタイプなんだわ、きっと彼らは。
しかも例え不名誉除隊になろうが、その後も厚顔無恥を晒して平気でいられる図々しい人間。
ああそう言えば、私を殺した犯人の裁判所での態度で、冷酷非情な両親として避難の目を向けられても平然としてたわ……
ところが実際に目の前に刃物を見せつけられたら、即座に敵に尾を振るんだわ。
何故私はこんな小者達に怯えていたのだろう…
私はカナディーク王子にお願いして、彼の護衛や従者を体格が良くて強面の威圧感のある方々に替えてもらった。両親にできるだけ威圧を与えるために。
そして経営に詳しい方に、従者の振りをして領地に同行してもらい、一緒に視察をしてもらうことにした。
それらの要望は、私の両親の態度に不審を抱いたらしい総帥閣下の口添えもあって、すぐに聞き届けてもらえた。
そしてその結果、不正が出てくるわ出てくるわ……
さすがに総帥閣下もここまでか、と驚きを隠せない様子だった。
脱税、領民からの法外の税の徴収、違法労働の強制、禁止農作物の耕作……
規模は大きくなかったが、間違いなく違法行為であり、処罰対象になる。
私と妹はどうか両親を摘発して、正当な処分をして下さいとお願いした。もちろん自分達もその罪を謹んで受け入れますと言った。
ここで彼らの犯罪が見逃されてしまったら、領民達に大きな苦痛を与え、それが王都及び国全体に大きな影響を与えてしまうことを私達は知っていたからだ。
もちろんそれは、我が家だけが原因ではないけれど。
しかしいつでも摘発できるだけの証拠を揃えたにもかかわらず、今すぐには逮捕はしない、そう総帥閣下はおっしゃった。
それは第三王子の婿入り先が消滅するのを防ぐためと、不正している他の貴族達を油断させるためだそうた。
ベルギル侯爵家だけを槍玉に挙げてしまうと、査察前に他家が証拠隠滅を図ってしまうというのだ。
「そなた達はこの方法をずるいとか卑怯だと思うかも知れないが、物事は俯瞰的に見ないといけない。
処罰するのは簡単なことだ。この家を潰すこともだ。
しかしその後はどうする? 代わりになる領主が現当主よりましになるという保証はどこにあるのだ?
私は騎士で、外敵から国や国民を守るために戦ってきたが、それだけで満足していたわけではない。
私の最終目的は、国民の安心安全な暮らしを維持することだ。
破壊よりもそれを修復する方が何倍も労力がいる。それらを施策するのが文官だ。
つまり武官と文官は一見すると相反するようで、その実国を守る一枚岩なのだよ。
周りからは脳筋に思われているかも知らないが、我々は無計画に争いごとを起こしているわけではないんだよ。
ちゃんとそちらの専門家と協議した上でやっているのだ。
現侯爵の問題点が何なのか、それを確認して改善策を練って実行することの方が、侯爵にただ罰を与えるよりも有益ではないかね?」
総帥のわかりやすい説明に、私達はようやく納得して大きく頷いたのだった。
その後、私達は勉強の合い間に領地を周り、領民達とも触れ合って、現状と問題点を確認して対策を講じ合った。
もちろん総帥閣下が手配して下さった経営の専門家の援助を受けながらだったけれど。
そしてあのゾイ=パロットとも、四年前に教会で出会ってからずっと交流を続けている。
ゾイの父親は元々領民のまとめ役をしてくれる優秀な人物だったので、領地の改革を進める際には、彼に色々お世話になった。
二年前にパロットさんが体調を崩した時も、すぐに医者を手配して治療し、休養を取らせ、無理をしないように厳命した。
やり直し前の過去二回は、パロットさんはろくな治療を受けられず寝たきりになってしまった。
そしてそのせいで彼ら一家は、私の父親であるベルギル侯爵から、領地から追い払われてしまった。
そのせいでパロット一家は王都へ向かい、やがて貧しさから長男であるゾイが、家族を養うために盗賊団を作ることになったのだ。
そしてその結果、私はゾイの恨みを買って殺されたのだ。
「何故父のためにそこまでしてくれるんですか?」
感謝されつつも訝しげにゾイに尋ねられた私は、正直な気持ちでこう答えた。
「パロットさんはこの領地にはなくてはならない方だからですわ。
両親が体調が悪くして表に出られなくなった今、あなたのお父様の力が私達にとっては絶対に必要なんです。
もちろんあなたのお力もです、ゾイさん。あなたは若い方達のリーダーですから」
私達よりも四つ年上のゾイはとても頭が良く、しかも面倒見が良い兄貴分で、仲間達からとても信頼され、頼られていた。
やり直し前の人生において、彼が王都一と悪名高い窃盗団の若きリーダーとして暗躍していたのは、彼を取り巻く環境が極悪だったせいだ。
もしまともな環境に置かれていれば、元々ゾイは一角の人物になっていたはずなのだ。
私の心からの褒め言葉に、ゾイは照れたように笑った。
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そしてあれからさらに二年経った今、ゾイは私達の期待に応えてくれていた。
「これからは嗜好品としてコーヒーが流行ると思う」
そうカナディーク王子から聞いたゾイは、自らカフェのオーナーと接触し、コーヒーの宣伝を請け負った。
そしてその見返りとして、コーヒーやデザート用の乳製品、小麦粉の取引を要求した。
彼の独特の口コミは思ったより効果があり、オーナーは大喜びだった。
何故彼のおかげだとわかるのかというと、ゾイからカフェの話しを聞いたお客が『ピーゼット』から聞いたと店で告げるからだ。
何故客達がその合言葉を言うのかというと、それを告げると、ちょっとしたおまけが付くというサービスがあったからだ。
たとえば果物とかナッツとか、チーズとか……
もちろんそれらのおまけは私の領地の特産品で、こちらの宣伝にもなる。
オーナーも客に尋ねられれば、うちの領地の農産物だと伝えてくれたので、問い合わせもかなりあり、それがこちらの商売にも繋がった。
オーナーも客もベルギル侯爵領もウィンウィンの関係だ。
そして農産物の儲けがそこそこ出てきた頃、私はある程度まとまった資金をゾイに渡して、たとえ元金を無くしても構わないから、好きに使って欲しいと伝えた。
ただしこれを元手にしてもし利益が出たら、その時はその一部を困っている人の、何か役立つことのために用立てくれないかと。
初めて見る大金を手にしたゾイは、瞠目して固まった。
そんな彼を怪しむように、カナディーク王子は少し離れた場所でじっと見つめていた。
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その後ゾイは、仲間達と共に王都にベルギル領地の農産物を取り扱う直営店と、その隣にその農産物を使って美味しい料理を出すレストランの経営を始めた。
我が領地の農産物は、元々カフェで評判が良かったので、二つの店のどちらもすぐに人気が出て繁盛した。
そして人手が足りなくなると、ゾイは積極的に孤児や貧民街の若者を雇い入れた。
もちろん、きちんと衣食住の世話をし、勉強や仕事の指導もきちんとしてやった。他所で勤めることになっても、彼らが困ることがないように。
そんな彼は多くの人々から愛され、尊敬され、若者のリーダーになっていった。
「環境さえ整えば、彼は一角の人物になるって君は言ってたけど、本当にその通りになったね。
凄いね。
僕は彼が真っ当な人生を送れるようになるなんて、全く信じていなかったけれどね」
カナディーク王子が小さな声で呟いた。その言葉に私は申し訳なく思った。
そして王子がそう思ってもそれは仕方無いことだろう。
最初のやり直しの人生の時、王子は私がゾイに刺殺されたところを目の当たりにしていたのだから。
しかも、裁判中ずっとその憎き男を見続けなければいけなかったのだから、正直ゾイの顔を見るだけでも不快だっただろう。
本当は私と接触などさせたくはなかったに違いない。
それなのに私の意思を重んじて、しかも私を守るために、カナディーク王子はずっと私の側にいてくれたのだから、もう感謝しかない。
読んで下さってありがとうございました!




