第11章 明るい未来計画ー護衛騎士
それにしても、生まれ変わる前のロッド卿の秘められた過去には、やはり興味があります。
特に三年後に出逢えるかもしれないご令嬢には。
ミーハーで恥ずかしい行為だとは思いつつ、一応私はまだ十歳の子供なので、感情の赴くまま尋ねてみた。
そんな私にカナディーク王子は意外そうな顔をしながらも、軽蔑することなくそのご令嬢の話をして下さった。
王子の護衛騎士のロッド卿は、私達より五つ年上の兄のような感じの方だ。
そのロッド卿の想い人になる予定の女性の名前はフレーアさんといい、父親が聖騎士をしている伯爵家のご令嬢だという。
金髪碧眼で華やかな実姉とは違い、チョコレート色のフワッとした優しい髪に、同じくチョコレート色少したれ気味の大きな瞳をした、可愛らしい女性だったらしい。
フレーア嬢の家は父親の仕事柄とても信仰深かった。彼女自身も幼い頃から教会に熱心に通い、奉仕活動にも精を出していた。
そしてある女神の感謝祭と呼ばれる王都で一番大きな祭りの日こと。
フレーア嬢が孤児達と、寄付された品をバサーの商品として販売する手伝いをしている時、地方からやって来たと思われる荒くれ者の男達に襲われた。
そしてその場に居合わせて助け出したのが、祭りの見廻りの手伝いに駆り出されていた、騎士団員だったロッド卿だったのだ。
まあ、お決まりの出逢いと言えばそれまでだが、その吊り橋効果で二人は急接近して、お互いに想い合うようになったらしい。
しかし、もしフレーア嬢が社交的で噂好きなご令嬢だったら、単なる好意で終わって、傷付くこともなかったのではないかとカナディーク王子は言った。
元々ロッド卿は代々騎士団団長を務める名門侯爵家の嫡男。細身ながらも美丈夫で、真面目で紳士的だと評判の人気者だった。
ところが、フレーア嬢と知りあった当時のロッド卿は、悪い意味で有名な人物になっていたのだ。
ロッド卿は社交界では悪女だと噂されていたご令嬢に仄かな想いを抱いたせいで、スキャンダルの渦に放り込まれ、その後、いわれのない悪評に悩まされるようになった。
あんな悪女に宝飾品や大金を貢いだ挙げ句、騙されて捨てられた情けない愚か者だと。
滅多に社交場に出られなかったロッド卿は、たまたま参加したパーティーでその女にひとめぼれしたのだ。
確かにまだ少年と呼べる年齢だった彼にとってそれは初恋で、彼女に好意を持っていたのは事実だが、ただ告白しただけで、他の者達とは違って実際に交際したわけでも、貢ぎ物をしたわけでもなかった。
それなのに、その告白現場を他人に見られてしまい、面白おかしく噂を流されてしまったのだ。
恐らく人気者だったロッド卿に嫉妬していた者か、反対勢力派の悪意のある人物に陥れられたのだろう。
その女ももしかしたら関係していたのかも知れない、そうカナディーク王子は言っていた。
正式な社交界デビューをする前に二度とも死んでしまっていた私は、陰謀渦巻く社会の闇を初めて知って、思わず身震いした。
もっとも、ロッド卿は私生活やスキャンダルなど関係無しに順調に出世を続けて、最終的には騎士団長になっていたのだから、王族や上の方々はちゃんと人を見ていたのだろう。
それだけは救いだと私は思った。陥れた連中も臍を噛んだことだろう。
とはいえ、たとえ公的には問題がなかったとはいえ、私的な面ではかなりのダメージを受けたことは想像に難くない。
スキャンダルの渦中にいたロッド卿が、フレーア嬢に想いを伝えられなかったに違いない。
しかもフレーア嬢の父親は堅物だと評判で、悪女と関係を持っていた男との接触など認めなかったらしい。
いくら名門侯爵の嫡男だろうと、上司であるニコル=ヘンドリックス女史の弟であろうと。
権威や地位にへつらわない態度は一見立派だが、人の噂を簡単に信じて、正しく人を判断できず、真実を見破れなかったのは愚かな行為だと思う。
頑固な人間というのは、己の考えだけが正しいと一途に思い込み、それ以外は認めようとしない。
世間一般的には善人に見えるが、こういうタイプはむしろ害悪だとカナディーク王子は言い捨てた。
思い込みやすい人間は本当に人迷惑だと、生まれ変わる前の自分を振り返って、私もそう自戒したのだった。
結局二人は結ばれることなく、お互いに政略結婚をさせられたが、どちらもあまり幸せな結婚生活ではなかったらしい。
ここまで話をして、カナディークは深いため息をついた。そしてこう続けた。
「そしてね、あのスキャンダルの後、騎士団の中で大きな問題が起きたんだ。
若い騎士達に女性に対するトラウマができてしまってね、未婚者が増えてしまったんだ。
元々騎士団に入っている貴族出身の騎士達は、遠征先のプロの女性達との関係があったとしても、忙しくて社交界にはあまり参加していない。だから、貴族の令嬢との駆け引きには不慣れで騙されやすい。
それに多くの騎士達はロッドの実直で真面目な人柄を知っている。
あんな立派な人間でさえ恋に溺れるとあんな悪女に騙されてしまうんだとビビって、女性不信になってしまう者がかなり出たんだ」
このまま息子達が結婚しなかったら後継者が生まれず、家の存続が危うい。
娘達の嫁ぎ先がない。
親達が大騒ぎするようになり、結局強制的に政略結婚を進める家が増えた。
しかしいくら貴族の結婚が義務で、政略結婚が当たり前だとはいえ、本人達の意志をまるで無視したやり方が上手くいくわけがない。
その結果、ギスギスした家庭生活のために、騎士団の仕事にも影響を及ぼしたらしい。
まあ、円満な家庭があればこそ、仕事に集中できると言えるだろう。特に騎士は危険と隣り合わせの過酷な仕事をしているのだから。
「だから今回はそんなことにならないように、せめてあのスキャンダルにロッドが巻き込まれないようにしたいんだよね
まあ、これはたった一人の悪女が起こしたスキャンダルのせいだけではなく、この国の結婚制度そのものに、原因があるんだとはわかってるんだけど」
カナディーク王子が意気消沈しながら言った。でもそこで疑問が湧いたので、私はこう王子に尋ねてみた。
「ロッド卿以外の方々は助けなくて良いのですか?」
と。すると王子は諦観したようにこう答えてくれた。
他の連中は元々女癖の悪い遊び人だから、どうせいつかは女性関係で問題を起こすことはわかっている。だから助けても意味がないと……
「まあ、いずれにせよ、僕達がそれに関与するのはまだまだ先の話だよ。
今はまだロッドにあの悪女の正体を教えて、淡い恋心を消せれば十分だ。
それにアダムズの方は想い人と結ばれるのがわかっているんだ。
そしてその彼女っていうのが、僕らにとってもとても頼りになる人だと思うんだ」
王子はニヤリと意味深に笑った。そして何故か、そのアダムズ様の想い人については教えてくれなかったのだった。
まあ、カナディーク王子にも色々とお考えあるのでしょう。物事には順番というものがありますからね。きっと今私が知っても仕方がないのでしょう。
ええ、ええ私の見かけはまだ十歳ですが、中身は相当年がいった大人ですから、グッと知りたいのを我慢しましょうとも。
こんなに間近で優秀な王子の手腕を見せられると、逆らう気が全く起きません。
こんなに素晴らしいカナディーク王子の本質を見抜けなかった以前の私は、本当に見る目がありませんでしたね。
ミーハーでお馬鹿だった自分が恥ずかしくて居たたまれなくなります。
こうしてカナディーク王子の掌で踊らされながら、私と妹のへラリーの三人は、明るい未来計画に向かって着々と進めて行ったのだった。
読んで下さってありがとうございました!
睡魔に襲われながら投稿してしまい、文章の最後が切れていました。訂正しました。✧\(>o<)ノ✧




