絵師燃ゆ
内容的には某有名小説やドラマとは関係なく、世にも奇妙ななんちゃら物語風の短編ドラマとなっています。
絵師が燃えた。仏像を殴ったらしい。詳しいことは分からない。が、分からないにも関わらず、そのことは日本中に広がった。
絵師の名前も分からない。ただ、絵師が仏像を殴って燃えた。というそれだけが、道往く人々の口から口を伝わって、瞬く間に広がった。
海に囲まれたこの国の中で、老若男女貴賤の別なくこの話を知らない者はいなくなった。
燃えた原因も分からなかった。ある人は天罰で燃えたと言った。またある人は刑罰で燃えたと言った。またある人は自然に燃えたと言った。
どこの仏像なのかも分からなかった。ある人は絵師が拾ってきた仏像を絵に描いていたと言った。またある人は絵師の家の仏壇の仏像を絵に描いていたと言った。またある人は絵師の檀家寺の仏像を絵に描いていたが、殴ったのは絵師の家の仏壇の仏像だと言った。
絵師が何者かも分からなかった。ある人は町の売れない絵師だと言った。またある人は有名なお抱え絵師だと言った。またある人は外国から旅行に来ていた絵師だと言った。
なぜ、絵師が仏像を殴ったのかも分からなかった。ある人は絵師の絵がうまく描けず、やつあたりに仏像を殴ったと言った。またある人は仏像が絵師を殴ったと言った。またある人は絵師は仏像を殴ってはいないと言った。
どこの誰が言い出したのかも分からない。人々はこぞってその絵師を探し、仏像を探そうとした。
権力者と群集により、国中から絵師と仏像が集められた。
仏像は絵師の前に置かれて、絵師は仏像の前に置かれた。ある人は絵師で仏像を殴り、またある人は仏像で絵師を殴り、またある人は絵師で絵師を殴り、またある人は仏像で仏像を殴った。その光景を皆が眺めて、おもしろがった。
ある人は絵師を燃やした。またある人は仏像を燃やした。またある人は絵師と仏像の両方を燃やした。
やがて、国中の絵師という絵師。仏像という仏像が無くなった。
そして、ある人が言った。
「『絵師が燃えた。仏像を殴ったらしい。』というのは本当の話だったのだろうか。」と。
しかし、実際に、その国では、絵師は仏像を殴り、燃えた。また、仏像は絵師を殴り、燃えた。
何故、絵師が燃えたのだろうか。仏像を殴ったからだろうか。そして、それは本当のことだったのだろうか。
すべてが燃えて焼け野原となってしまった今となっては、それは誰にも分からなかった。




