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第11話 奇妙な贈り物

 俺――六原隼と、家主――梨川御伽の奇妙な同居生活が始まってから、一週間が経った。


 同居生活と言っても、俺が彼女の家に居候をしている状態だ。それも居候と言っても、俺は朝にご飯を作り、たまに掃除をしてたまに夜ご飯を作るくらいで、ほぼ寄生していると言っても過言ではなかった。

 もちろんうちの家主は常識が抜けている上に、他人に利用されているなどということは考えない性格なので、寄生と言っても否定するだろうが。それでも俺にとっては一方的に恩恵を得ているような感覚だ。


 そんな寄生虫こと俺の普段の生活スペースは大きなリビング。この家には他に物置とされている部屋(ただし中には何もない)が2つあるが、俺は家にいるときはゲームをするか勉強をするか料理をするかくらいしかやることがないため、いちいち個室にこもる必要もない。

 ゲームをするときに家主の部屋に入るくらいだ。

 

 ちなみになぜゲームをするために家主の部屋に入る必要があるのかと言えば、そこにはゲームをするには欠かせないパソコンがあるからだ。もちろんパソコンは彼女が仕事に使うためのものだが、それを利用させてもらっているという形である。



 ――さて、なぜ俺がこんな説明をいきなり始めたのかというと。理由は一つだった。


 この生活の仕組みが、少しだけ変化を見せたからだった。





 ――ピンポーン、という音が土曜の昼下がりに鳴り響く。


 一瞬腰を浮かせたが、待て。また工藤と同じようにうちの家主宛ての客かもしれない。


『宅配でーす!』

「……まあそうだよな」


 杞憂だったことに安心し、「玄関の前に置いといてください」と言っておく。

 一応姿は見られないほうが良い。


『わかりましたー! 荷物が多いですので、お早めに家に上げて下さい‼』


 また工藤が追加で料理道具を注文したのだとそう思いこの時は深く考えなかった。


 玄関先で音がなくなったのを確認し、俺はジャージ姿で荷物を運ぶ。


「うわ、ほんとにめちゃくちゃあるな……」


 そこに置かれていたのは大小さまざまな複数の段ボール。大体10個くらいあるか……?


 一応宛先確認して、うちのだったらさっさとしまってしまおう。家主もまだまだ帰ってこないしな。

 そう思って宛先の部分をチェックしたところで――――俺の肝は一瞬にして絶対零度まで冷え込んだ。


『宛先 siX_sense(シックスセンス) 様』

「――――っ⁉」


 単なる宛名のひとつ。だが、それは決して無視することはできなかった。


 siX_senseとは、()がFPSをやるときに使う名前である。つまりこれを送ってきた人間は、俺に対してこの家にものを送ってきたのだということ。

 つまり、俺が梨川御伽の家に居候をしていることを知っていることになる……。


 工藤が俺のFPSで使っている名前を知っているはずがないし、もちろん家主がこんなことをするわけもない。

 唯一考えられるとすれば高校の友達の長谷川だが、あいつがわざわざ宛先を「六原隼」ではなく「siX_sense」にして送ってくる必要性は見つからない。


「じゃあ、誰が……?」


 これは、「お前が梨川御伽の家に住んでいることは分かっているぞ」という脅迫文の代わりなのだろうか。そんな最悪の妄想までしてしまう。


 ……とにかく、荷物をこのままにしておくことはできない。俺は思わず立ちすくんでしまいそうな自分を奮い立たせて、一番大きな段ボールに手を付けた。





 やがて程なくして段ボールが全て、使われていない物置部屋に片付いた。


「……さて、このまま放置しても仕方ないし、開けるか」


 何が送られてきたのか分からないと、こちらとしても犯人の狙いが分からない。

 とりあえず、大きな段ボールから順に開け始めた。


「…………?」

「……………………?」

「…………まじ?」

「…………ウヒョッ」

「………………アーメン」

「……うっわ、まじかよ‼」


 開けていった時の反応はこんな感じ。

 見て分かる通り、興奮している。


 …………いや、見知らぬ人間からの荷物に興奮するのかよ。


 とそんな一人ツッコミをしていたが、やっぱりモノがモノだけに興奮せざるを得なかった。


「ハイスペックパソコンに、マウス、キーボード、モニター、ヘッドホン、ミックスアンプ(※簡単に言えば音質がよくなるやつ)、マイク、マイクスタンド、その他諸々……」


 つまり、PCとPCの周辺機器一式だった。


 しかも、どれもスペックが高い。PCはもちろんのこと、マウスもプロが使うような奴だし、モニターは3万円以上もするようなやつだ。総額を考えたら、平気で40~50万円する。

 これだけのゲーム環境は家でも、うちの家主のところでもなかったものだ。恐ろしいくらいに金がかかっている。


 それだけに、これを送ってきた人間の意図が読めない。

 新品の状態で送られてきたから、何か細工をしているということもなさそうだ。


「まああいつが帰ってきたら、今日あったことを話すか……」


 深刻な問題だとそう捉え、俺は夜の8時過ぎに帰ってきた家主に今日のことを伝えた。


 だが、家主の反応はお気楽なもので――と言っても今更感があるが――「もらったんなら使っちゃお! 必要なのは机と椅子だね!」などと楽しそうに笑顔を見せていた。

「これで隼くんも好きな時に好きなだけゲームができるね~」と見当違いなことも言っていたが。


 そしてこういった経緯いきさつにより、俺は物置部屋だったうちの1つが俺の部屋になるのだった。

 俺は釈然としないまま、結局与えられたPCでゲームをすることになった。……俺も大概バカなのかもしれないな…………。


 だが、この犯人からの犯行声明は、意外にもすぐに訪れたのだった。


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