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7 シャクラのひみつ

 商業ギルドを出て、グリフィンたちはロウリィトンの町中を歩く。


「明日の昼までまだ時間はあるし、よければシャクラの分の毛布を買いに行かない?」

「それもいいが、ちぃと外まで狩りに出んか?」

「そうだね。お互いがどう立ち回るかわからないと、明日からの仕事もやりにくいしね」


 進路を変え、現在地から一番近い門へと歩いていく。

 ロウリィトンにある四つの門の一つ、林側の門。グリフィンたちがロウリィトンに入ったのもこの門であり、今の時間は冒険者が頻繁に出入りしているようだ。


「人が多いのう。グリフィン、手を」

「はい」


 シャクラと手をつなぎ、グリフィンは外に向かう人々の列に混ざる。列の進みは早く、自警団らしき鎧の男に名前と行き先、予定している戻りの時間を聞かれるだけで外に出ることが出来た。


「なんというか、警備が甘すぎはせんか?」

「この道を進んでも、国を出ることはないからじゃないかな。逆に、ラインカーディン(国境)に近い方の門はかなり警備が厳しいって聞くよ」


 簡易救護所のわきを抜けて、林へ向かって道を歩く。林にいくらか入ったところで、道を逸れて木々の合間を進んでいく。


「ところでグリフィン、わしになんぞ話しておらんことはないか? 例えば──」


 繋いでいた手を放し、シャクラは周囲を警戒する。


「おまえの空間魔術(ストレージ)、人間が入っているな?」

「っ」

「と、そこか」


 飛び出したツリーウルフがグリフィンめがけて襲い掛かる。シャクラは指先から雷撃の矢を放って焼き殺し、グリフィンの手を引いて落ちてくる死骸を避けさせる。


「シャクラは、何がしたいの」

「わしはわしの体を取り戻したいだけじゃ。そのためなら、指名手配犯だろうと自分をこんなにした相手でも利用するまで」


 にい、と老獪な笑みを浮かべ、シャクラは遠心力のままにグリフィンを放り、襲い来るツリーウルフの群れに雷撃の矢を連射する。


「弱いのう、弱いのう!」


 地面に落ちるいくつもの死骸。グリフィンはとっさにしゃがみ込み、閃光が収まるまで耐えた。途中で死骸の一つが覆いかぶさってきたときは、驚いて悲鳴を上げてしまった。

 どれくらい耐えただろうか。シャクラはグリフィンに声をかける。


「済んだぞ。悪いのう、囮にする気はなかったんじゃが」


 ツリーウルフの死骸を空間魔術(ストレージ)に放り込みながら、シャクラはグリフィンとの距離を測る。


「おまえが、わしをどれくらい信用してくれるのかわからんが、わしはおまえのことを勝手に知っている。信用している。じゃが、おまえはどうかわしにはわからん」


 ほぼ完全に炭化してしまった死骸を蹴飛ばし、シャクラは回収できそうな死骸を拾いこんだと判断してグリフィンの顔を覗き込む。


「どうした、もう大丈夫じゃぞ?」


 固まって動けないらしいグリフィンに、シャクラは「仕方ないのう」とグリフィンの顔を持ち上げ視線を合わせる。


「わしの秘密を見せてやろう。誰かに見られる心配はと思うからの」


 呆けた顔のグリフィンを前に、シャクラは耳飾りを投げ渡し、ブーツを脱ぐ。ワンピースの胸元のボタンに手がかかったところで、グリフィンがシャクラの手を止める。


「こ、こんなところで脱ぎだすなんて!」

「しかし、町中で見せるのもちょっとのう」

「普通に説明してくれればいいから!」


 妙に頑固なグリフィンに、シャクラは頬を膨らませて不満を表す。が、一応はグリフィンの意思を尊重する気らしく、ブーツを履き直した。


「なんじゃ、もちもちの肌を見るチャンスだというのに」

「おれはそういうのよりも説明が欲しい。でも、まずは人の来ない場所に行こう」


 シャクラに手を引かれ、グリフィンは立ち上がる。周囲に魔物の気配はないが、日が暮れるまであまり時間がないようだ。

 急いで簡易救護所を通り、テントに戻る。日も暮れて灯りのない場所は暗く、周囲でテントを利用しているものはたいてい眠っているようだった。


「他はみんな寝ているようだし、これなら」


 テントの中にカンテラを置き、向かい合って座る。

 シャクラはカンテラに興味津々らしく手を伸ばし、グリフィンに諫められたため何度か撫でるだけにとどめた。


「どうして、シャクラはおれのことをどうして知っているの。どうしてそんなに信用してくれるの」

「わしとしては、秘密はとうにしっておるのじゃからもっと信用がほしいくらいじゃ」

「秘密は、むしろ何を知っているのか……小声で言ってほしい」


 グリフィンはシャクラに顔を寄せようと身じろぎする。しかし、シャクラは怪訝な顔で「わしの正体の話をする時点で、このテントに遮光と遮音のまじないをかけたわ」とグリフォンを小突いた。


「わしの知っておるおまえの秘密なんぞ、お前の空間魔術(ストレージ)に勇者トレイが放り込まれておることだけじゃ。ほかに知られたら困る秘密でもあるか? ん?」

「どうして知っているかは気になるけれど、それがシャクラの正体と関係あるの?」

「あるとも」


 シャクラは芝居がかった様子で話し出す。


「わしは先に言った通り、おまえたちにこの体にされた。おまえたちとは勇者トレイであり、グリフィンでもある」

「どうしよう、全く思い当たるものがない」

「いまの姿で思い当たるならとうに切り捨てられておるじゃろ。ちと後ろを向いておれ、服を無駄にしたくないからの」


 不審に思いつつ、グリフィンはシャクラに背を向ける。布の擦れる音がして、グリフィンの背にものが当たる感触があった。


「もうよいぞ」


 いくらか低くなったシャクラの声に、グリフィンは恐る恐る振り返る。

 カンテラをはさんで向かい側、そこには失くしたと思っていた魔王の首が鎮座していた。


「……シャクラ?」

「わしこそが、黄の魔王・シャクラ。といっても、無事に残っているのはこの首のみじゃが」


 構造は分からないが、魔王の首はいくらか開けた口からシャクラの声を発している。ワニやトカゲのような鱗に覆われた構造に、グリフィンは思わず手を伸ばして感触を確かめた。


「硬い」

「それも今のうちじゃな。わしは魔物の肉が主食じゃから、食わずにおれば柔くもなるし壊れもする」

「だから狩りに?」

「そうとも。今日の分が空間魔術(ストレージ)にあれば、当面はくいっぱぐれることはなかろう」


 ぺたぺたと触っていたからか、シャクラはそよ風の魔術を使ってグリフィンの手を押し返す。


「そろそろ、ヒトのかたちになおりたいのじゃが」

「ごめん、今向こう向く」


 シャクラに背を向け、再び声がかかるのを待つ。その間、シャクラの言っていた秘密についてを考える。

 シャクラは魔王であり、グリフィンが空間魔術(ストレージ)に入れていた魔王の首だ。なら、空間魔術(ストレージ)の中について知っていることは不自然ではない……かもしれない。

 シャクラがグリフィンの空間魔術(ストレージ)(勇者)が入っているとが知っていたのも、両方が同時に空間魔術(ストレージ)に入っていたからだろう。


「もうよいぞ」


 改めて、グリフィンとシャクラは向かい合う。


「さて。わしは秘密を明かし、おまえの秘密を暴いた。依頼は、これでも継続してくれるか?」

「もちろん。というか、続けないと当座のお金も怪しいからね」

「そうじゃったのう。なら、依頼の代金を支払おう」

「ならええと、銅貨……203枚。銀貨を混ぜるなら銀貨2枚と銅貨3枚。内訳の説明はいる?」

「や、かまわんよ。」


 請求された金額に、シャクラは言われたとおりの額を渡した。

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