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6 商業ギルド・ロウリィトン支部2

 商業ギルドの窓口に木の板を渡し、この依頼を受けると伝える。すぐに商人宛に伝令が走り、返答があるまでは商業ギルドにいるようにと指示を受けた。


「では、待っている間に魔物の素材を売却したいのですが」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 グリフィンの申し出に、窓口の男性は商業ギルドの奥の小部屋を案内する。グリフィンはどうせならとシャクラを伴い、シャクラの持ち込みも売ってしまおうという算段だ。

 部屋までの道中、グリフィンは男性に銅貨を渡して話を聞く。


「この街の冒険者ギルド、素材買取の質が悪くありませんか?」

「仰る通りです。あのアラクネは鑑定スキルではなく観察スキルを持っているようでして、ロウリィトンの冒険者ギルドを閉じるのはあのアラクネのせいではと言われているほどです」


 同業者の悪口はよくありませんね、と男性は営業スマイルを浮かべる。

 案内された小部屋で、間に作りつけのテーブルを挟み、男性は扉側に、グリフィンたちは奥側に座る。どうやらこの男性が鑑定をしてくれるようで、手袋を装着して金属トレーを卓上に取り出した。


「それでは、売却したいものを見せていただいても?」


 グリフィンは空間魔術(ストレージ)から魔物の素材を取り出す。どれも鉄級冒険者だけでは倒せない強さと言われているが、元々はグリフィンが勇者一行に所属していた時に倒し、空間魔術(ストレージ)に放り込んでほったらかしにしていただけだ。


「それぞれ、カースツリーの樹皮、ツリーウルフの毛皮、それとワイバーンの牙です」

「触らせていただいても?」

「どうぞ」


 緊張しながら鑑定の結果を待つ。


「これでしたら、合計で銀貨十枚ですね。こちらすべて買い取りでよろしいですか?」

「お願いします」


 しばしののち、申し渡されたのはグリフィンの予想よりいくらか高い額だった。すぐに買取代金を取りに行こうとする男性を、シャクラが止める。


「わしも買取をしてほしいのじゃが、見てもらうことはできるかのう?」

「もちろんです。今別のトレーをお出ししますね」


 取り出されたトレーに、シャクラは冒険者ギルドで出したものと同じ蠍の脚を出す。


「これは……手に取っても?」

「もちろんよいぞ」


 おそるおそると言った様子で男性は蠍の脚を手に取る。持っている指と大して大きさ太さの変わらないそれは、どれほど大きな蠍から取れた素材なのだろうかとグリフィンはぼんやりと考えていた。

 男性は震える声でシャクラに質問する。


「お客様、こちらはどこで入手されたのですか」

「どこ、と言われてものう。わしの遠い遠いご先祖様が、かつての勇者殿とともにどこだかのダンジョンでボスを倒した時に手に入れたと聞いておる」


 嘘だな、とグリフィンは直感した。その理由は分からないが、グリフィンはこの手の直感を大切にしている。

 男性はシャクラの言葉を疑うそぶりは見せず、買取価格を伝えた。


「こちらは、銀貨……いえ、金貨1枚でいかがですか」

「まあ、それならご先祖様も文句は無かろう。よろしく頼むぞ」


 二人分の売買契約書と代金を、と慌てる男性。と、視線を上げた拍子にグリフィンと目が合い、どこか安心したような様子でほほ笑む。


「お見苦しいところをお見せしてすみません。差し支えなければ、お二人の冒険者ランクをお伺いしても?」

「銅二級です」

「あいにく、ギルドカードの再発行申請を断られたところでの。特に覚えてもおらんわ」


 グリフィンはギルドカードを取り出し、材質だけ分かるよう内容を手で隠しながらテーブルに出す。男性は鷹揚に頷き、カードを仕舞うように促した。


「では、討伐推奨ランクが銅二級より高いワイバーン分は買取代金を上乗せをさせていただきます。税は買取代金から引いてもよろしいですか?」

「お願いします」

「わしもそれで頼む」


 売買契約書の作成と代金の用意のため、男性は退室する。


「思いのほか安いが、勉強代かのぅ」


 グリフィンはこの部屋までにすれ違った人の数を思い返し、誰も聞かないだろうとシャクラに問う。


「シャクラって、何かおれに隠してない? 本当にトレイの解毒が出来るの?」

「それは、まあ、わしにもいろいろあるからのう」


 思いのほか早く男性が戻ってきたため、グリフィンたちの会話は中断される。

 銀貨と大量の銅貨で支払われた代金に、両替の手間が省けたとグリフィンは安心する。


「そうだ、先ほどご依頼いただいた方がいらっしゃったそうです。今は別の部屋でお待ちいただいていますので、そちらへご案内させていただいても?」

「あ、お願いします」


 どうやら男性が早く戻ってきたのは、後ろに別の要件が詰まっていたかららしい。グリフィンは斜めがけの鞄に代金を収納しながら、男性の話を了承する。

 男性を先頭に廊下を戻り、応接室らしい部屋に案内される。入り口に向いたソファにどっかりと座っているのは、顔に大きな傷のある女性だった。


「冒険者の方をお連れしました」

「応。給仕に人数分の茶を用意するよう頼んでもらっても?」

「かしこまりました」


 男性は退室し、グリフィンたちは女性に促されて向かいのソファに座る。


「はじめまして。私は“竜の首”という屋号でやらせてもらっている商人の一人、トリサという」

「おれはグリフィン、彼女はシャクラです」

「グリフィン……ああ、あの」


 トリサは何か納得したような様子で、グリフィンたちの上から下までを何度か眺める。


「ラインカーディンまで馬車二台で予備日含めて十日、一人一台についてもらい日当銀貨二枚。夜間は魔術符を使用して三時間交代で夜警を二名、ただしきみたち二人を一度に夜警に回しはしない。何か聞きたいことは?」


 運ばれてきた紅茶とクッキーを前に、シャクラは焼き色の悪いものから手を出す。


「馬車を二台使うのは荷物が多いからですか?」

「そうだ」

「馬車を一台に圧縮できる方法があれば、日程は減りますか?」

「なにか考えが?」


 グリフィンはシャクラへ視線を寄せる。シャクラは四枚目のクッキーを口に押し込むと、仕方なさそうな表情で「空間魔術(ストレージ)はどうかの」と言った。


空間魔術(ストレージ)が使えるならありがたい、荷のいくらかはヒトだからな。それで、どれくらい入る」

「馬車の大きさにもよるが、そこらの辻馬車なら二台入れても余りが出るのう」

「それなら、別の便に分けていた分をまとめて運びたい。予定の日程はそのまま、明日の昼出発でどうだ?」

「かまわんが、いくらか手当をもらっても?」

「それは後払いとさせてくれ。初めて仕事をする相手に荷を任せて飛ばれたら損ばかりになる」

「それもそうさな」


 内容が詰まったところで、トリサは契約書を取り出しグリフィンたちに確認とサインを求める。グリフィンは商業ギルドの内容証明と契約遵守の魔術が刻まれていることを確認し、契約書三枚にサインをして一部はトリサが、一部は商業ギルドへの届け出に使用し、一部はグリフィンが代表して受け取った。


「明日、今くらいの時間にこの建物の前に来てくれ。迎えを寄こす」

「よろしくお願いします」

「ただまあ、世話になる身で悪いが特技(・・)のことはあまり言いふらさない方がいい」

「だ、そうだぞグリフィン」


 シャクラに肘で小突かれ、グリフィンは乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。

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