57 いざ会都(2)
遡ること、2日前。グリューネ教会のそばで馬車から降りてすぐのころ。
「シャクラ、ギルドでやりたい手続きがあるんだけど」
「うむ、構わんぞ」
2人はそろってグリューネ教会の建物に入る。中は天井が高く作られており、入って正面は種族ないし職業別の受付が、右手には店舗らしき区画への扉がある。グリフィンたちが馬車を降りたのは建物の向かって左手、
グリフィンは受付のうち冒険者向けのものに向かい、数人いる順番待ちの後ろに並ぶ。
「で、グリフィンは何をしたいんじゃ?」
「パーティの脱退届と、シャクラさえよければおれとパーティ結成の届出をしてほしいな、と思って」
「ふむ。ぱーてーというものの今の制度がよくわからん。簡単に説明をしてもらってもよいかのう?」
シャクラの視線は前に並んでいるあと2人に向かう。グリフィンも自身の順番までの人数を確認し、「簡単にだよ」と返した。
「先にパーティ結成の届出について。冒険者2人以上でひとまとまりのチームを組むことをパーティというのだけど、これをギルドに届け出るとパーティが結成されて共有の口座ができるんだ。ギルドで依頼を受けるときにパーティで受けると、報酬がこの共有口座に振り込まれるから相談して分けてね、って言われるよ。あと、国や街ごとの税金はパーティの口座から引き落とされるね」
「企業の総合口座みたいなものかのう?」
「確かにエドは冒険者登録して商会資金をいくらか口座に入れてるっていうし、そうかもね」
商業ギルドや職業ごとのギルドは別途存在するものの、母体組織が同じグリューネ教会のため、他のギルドにも口座を持っている旨届け出をすれば重複して税金を引き去られることはない、とグリフィンはエドから聞いている。
ただ、大手の金融機関が元をたどれば同じ宗教団体になることから、陰謀論を唱える者たちは「グリューネ教会は世界中の政府や機関を金の力で裏から操り、信仰の強制や異教徒への弾圧をしている」「金融市場から世界の支配を企んでいる、実際にグリューネ教会が政策に関与している」などと言っているらしい。
「次に、パーティの脱退について。結成したパーティがなくなる場合は“解散”なんだけど、結成したパーティは残したままメンバーが出ていくのは“脱退”って分けてるんだって。なんでも、『パーティメンバーが家族なら、結成で家を建て、加入で家族が増え、脱退で家族が出ていき、解散で家が取り壊し』と例えるんだって」
「ぱーていは家という訳かの。うむ、理解したぞ」
話している間にちょうどグリフィンたちの順番が回ってくる。受付で待つ、真面目そうな曇り空色の猫人の男性は、グリフィンよりいくらか高い位置にある耳を素早く動かし、先端に乗ろうとしていた埃を追い払った。
「お待たせしてすみません。今加入しているパーティからの脱退と新しいパーティの結成をお願いします」
「はい。では、ギルドカードの提示をお願いします」
ぶっきらぼうながらもきちんと仕事をする男性に、グリフィンはギルドカードを提示する。受付カウンターの中にある機材にギルドカードをしばらくかざし、猫人の男性は大きな目をすっと細めた。
「ミンター様、セオドア・マッキンタイア様から所在の問合せが行われています。回答いたしますか?」
「ええと、答えないことはできますか?」
「可能です。ただし、パーティの脱退自体は元パーティメンバーが調べれば確認できますのでご注意ください。また、再度の問合せがあった際は、お手数ですが改めて回答いただく必要がありますのでご注意ください」
シャクラは所在確認について聞きたそうに、グリフィンの袖を引く。猫人の男性はしぱぱ、と瞬きをしてカウンターの中から古びた案内冊子を取り出した。
「パーティを結成すると、先ほど話されていた口座や税の制度のほか、結成1度につき1度のみ“所在確認”ができます。所在確認は同じパーティのメンバーであれば、調査対象の同意なく最後に利用した教会の支部・窓口をお教えします。ダンジョン等ではぐれた後に連絡を取るときなどに使います」
冊子には小さく、“パーティ結成費用は再度発生しますが、1度パーティを解散し、改めて結成すれば再度利用できるようになります。ただし、解散から1時間以内に改めて結成されない場合、解散前パーティの評価、口座、その他すべてが凍結されるためご注意ください。”と書かれている。
「所在の問合せは、グリューネ教会の名簿に記載のある冒険者を探す際に、有料で問合せを行う制度です。これはお探しされている方がパーティメンバー以外でも探すことができること、原則お探しされている方の自由意志に基づき回答されることが特徴です。例としましては、いつも依頼をしている冒険者の所在を確認したい裕福な方や、兄弟姉妹で別のパーティに所属している冒険者の方が合図として利用されているようです」
「ふむ。便利な制度じゃの」
「グリューネ教会はいつでも御寄進を受け付けておりますからね」
話しながら手元の作業を行い、猫人は断りを入れて窓口奥にある事務スペースへ何かしらの書類を渡す。
「では、これで所在の問合せ及びパーティ脱退手続きは完了となります。パーティの結成について、パーティメンバーのギルドカードをご提示ください」
「ありがとうございます。シャクラ、ギルドカード出して」
「うむ」
何も言わずに提示されるコイントレーに、グリフィンは手続き費用として手持ちのポーラ王国連邦硬貨をすべて―といっても2,000トーカにいくらか足りないくらいの額を―コイントレーに出す。
シャクラは空間魔術の出口を猫人の手元に開き、ギルドカードを落下させる。すかさず受け取った猫人はわずかに目を見開いたが、すぐにパーティ結成に必要な作業を再開した。
「お預かりします。パーティ名はお決まりですか?」
「保留でお願いしま「わし“霹靂”がいいー」じゃあそれで」
「“霹靂”ですね。では、現時点を持ってパーティ結成となります。口座手続きのため、後日鍵をご用意のうえ改めて窓口をお尋ねください」
「後日の手続きになるのかの?」
「ええ。パーティは結成当日が最も解散しやすい日ですので」
かけらも笑えないことだが、方向性の違いや物理的にパーティメンバーが欠けるなど、結成当日に解散せざるを得ないパーティは確かに存在するのだった。
手続きが終わったところでグリフィンたちのギルドカードは返却される。ふと、周囲からの視線に気づいたグリフィンはさり気なく心づけを渡したうえで商業ギルドの場所と宿の確保についてを猫人に相談した。
「商業ギルドまでの地図と、この時間からでも宿泊可能な宿を教えていただけると幸いなのですが」
「商業ギルドはこの建物から徒歩10分程度です。街の案内図が階段傍にありますので、そちらをご確認ください。ただ、これからですと金融窓口は終了している可能性が高いので、明日以降がよろしいかと。宿のおすすめはありませんが、よろしければ当ギルドの3階が銅級までの冒険者に向けた宿泊施設となっております。いくらか御寄進をいただければご利用できますよ」
「いいんですか?」
「ええ。それに、」
猫人はすっと顔をグリフィンに近づけ、グリフィンも風の魔術で簡易な防音を施して猫人に顔を寄せる。
「所在の問合せをされた方はクロスランド出身の方かと思いますが、おそらくはそのためによい宿ほどお客様を門前払いする可能性が高いかと」
「まあ、開示は窓口でしかできないんですもんね」
「よくご存じで。お連れ様のこともありますので、御寄進は後日まとめてでも構いません」
顔が離れたのを感じて風の魔術を解除し、営業スマイルと言うには狂信的な笑顔の猫人の誘いに乗り、グリフィンは「宿泊施設を借りたいです」と伝えた。




