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53 情報交換はのんびりと

 朝食を終えたグリフィンたちが部屋に戻ると、部屋は清掃が完了しており新聞も持ち込まれていた。ついでに、洗濯物用の衣類袋と使い方の冊子も。


「何々、洗うものをこれに入れて、きちんと口を閉めてから廊下に出せばよいのか。水洗いできない物は入れるでない、と書かれておる」

「そんな面倒くさい衣類は持ってないから大丈夫だよ。シャクラも、洗いたいものがあったら入れれば?」


 そう言いながら、グリフィンはルパギンティニアにて使った礼服をはじめとした服を衣類袋へ入れていく。

 複数の洗濯物を入れた袋を回されて、シャクラはグリフィンの入れた礼服を取り出し、代わりに自身の替えの服を入れていった。

 使い方に従い衣類袋を廊下へ出し、グリフィンたちは新聞をざっと眺める。


「新聞の種類もあるね。シャクラは何から読む?」

「当然、『日刊おもてなし』じゃな。わしが頼んだんじゃから、グリフィンは読まんじゃろ?」

「実はちょっと興味がある……かも」

「では床に広げて二人で読むかの」


 四つ折りにされている新聞を床に広げ、グリフィンはシャクラと並んで『日刊おもてなし』に目を通す。

 本日の発行となっている『日刊おもてなし』はその表題を除き、おおよそ同じ大きさに区切られた升目が並んでいる。ひとつひとつ見ていくと、情報量と内容に偏りがあるのはすぐに分かった。


『八神暦4620年7月1日 晴れ ボウショクの飛来確認できず。魔物の数は若干の増加がみられる。野兎2鹿1。観察対象1は動物解体を習得。観察対象2は罠猟を習得。続く』『シレーネシア飛来なし』『ヘイゼル商会極東支部開店セール開催中。本広告掲載紙を持ち込むと会計時に携帯食料1点プレゼント』『只人以外の人種はすべて魔物と交わった姦婦より生まれしものである。魔物と同様に討伐が推奨される』『城解体技術者募集中 詳しくは冒険者ギルドにて、広域13号と伝えられたし』『600年程度経過したエルフの集落遺構を発見 研究者来られたし』『ポーラ王国連邦政府の宝は預かった 北ガルヴィニアとクロスランド国境で待つ』『金魚どもの提示する川下り料金が値上がりしている』『温泉饅頭おすすめレポート2 今日は極東の温泉街のひとつ、ハコベよりお送りしています! ハコベは港町としても栄えており、都バジャノからも近くいわゆる副都心的存在です。こちらで販売されている温泉饅頭は温泉の熱で蒸しており、冒険者の皆さん曰く防御力に多少の上方補正がもらえるとか! 味☆☆☆☆ 値段☆☆☆☆☆』『ポーラ王国連邦は擁する魔王を討伐するべきだ! 言論の自由を!』『ねこかわいい』『いぬかわいい』『吸血鬼にならないために聖水を持ち歩きましょう』『トリちゃんが言葉を覚えたよ! なんて意味だろうね、かわいいな!』『ついに100年間保管された魔道具がお披露目を迎えた。見に行ってみたが、どう見ても眼鏡』『カナレットより番号持ちへ 10番を保護』『北の地活発化か 各地越冬は注意されたし』『魔物も命を持っています 共存の道を探しましょう』……


「……なんかちょこちょこ怪しい内容ない?」

「本当に危険な内容は掲載されておらんからの。問題なかろうよ」

「というか、たぶんこれおれのことだし」


 そういってグリフィンが指さしたのは『ねこかわいい』と書かれた記事だった。シャクラが読み上げると、グリフィンは「間違えた」と若干上ずった声で訂正して近くの『カナレットより番号持ちへ 10番を保護』を指しなおした。


「カナレット、とはこの宿の名であったか」

「それと、番号持ちっていうのはヘイゼル商会の中で、おれのおじさんやおじいを指すんだ。10番、って直接言われたことはないけどたぶんおれのことだし。後でだれか訪ねてきても断ってもらえるように頼まなきゃ」

「わしも今日ばっかりは新聞を読みたいし、のう」


 グリフィンはシャクラの隣に座ったまま別の新聞を広げる。『週刊クロスランド』と書かれた新聞には、次号から当面休刊する旨が書かれていた。


『休刊のお知らせ 本新聞編集部のあるクロスランド王都が壊滅状態となったため、本号を持ちまして当面の間発行を停止します。読者の皆様におかれましては、避難と安全確保を最優先としてお過ごしください。 編集長 記』


 読み進めると、どうやらクロスランドの王都でこれまでに確認されたことのない魔物が王城から出現したようだ。兵士や近衛が討伐しそうなものだが、統率の取れていない彼ら彼女らは混乱を極めたまま魔物に蹴り飛ばされてしまったとか。

 記者はどうやら冒険者ギルドへ助けを求めたようだが、冒険者ギルドがあった建物はすっかり空になっており、冒険者も別の町に移動していたようだった。


『外見は水が牡鹿のような形をとっており、時折いななくような動きをして周囲に雷撃を振りまいていたという。この魔物の情報はクロスランド王国ブリューワー侯爵が買い取るとのこと。読者の皆様におかれましては、ぜひご協力をお願いしたい。』


「こわー」


『ミンター領に謎の濃霧発生中 当社記者行方不明』『魔物の減少・ダンジョンの不活性化が発生 魔王討伐の影響か』『勇者に毒を盛った容疑 グリフィン・ミンターを指名手配』『今年の夏野菜は収量が減少の見込み』


 ほかの記事も見出しだけ目を通す。

 碌な内容がないことはわかったので、そっと畳んで床の開いているところに置いておくことにした。


「グリフィン、ほかの新聞を読みたいのじゃが」

「好きなのを読みなよ」


 そうして、読んでいない新聞を読み、読み終わった分の山に移す作業を続ける。

 シャクラはグリフィンの読んでいない新聞を読み、グリフィンの読み終わった新聞を読み、暇になって足をばたつかせながらグリフィンを待つ。

 グリフィンは隣から送られるちくちくした視線を感じ、シャクラに話しかける言い訳に昼食を使った。


「……そろそろ中断して、お昼にしよっか。宿の外で食べるでいい?」

「そうじゃの。ついでじゃから、情報収集の所感でも話すとしようかの」


 昼と言うにはゆっくりの時間に街に出る。道のわきからは湯気が登っていて、シャクラは何が楽しいのか時折湯気に手を入れてきゃっきゃと笑っている。

 カナレット(宿)から通りを挟んですぐにある店に入り、グリフィンたちは入口から近い席に案内される。テーブルに置かれたメニューをさっと見て、案内をしてくれた店員にグリフィンはサラダを、シャクラは胃もたれしそうな大きさのハンバーグのセットを頼む。

 ハンバーグの用意に時間がかかると店員に言われ、グリフィンはサラダの配膳をハンバーグと合わせてほしいと頼む。かなり待たせてしまうという店員に、グリフィンは少額のチップを握らせて「これからちょっと打ち合わせをするから多めに見てよ」と納得させる。


「しっかし、相変わらずじゃな。食わんと大きくなれんぞ?」

「もう成人してるんだから、これ以上大きくならないよ」

「そんなことあるまい。大きくなるのは体だけでないぞ、心も頭も、いつまでも成長できる。成長する気があれば、じゃがな」

「……そっかあ。じゃあ、できるだけ頑張るよ」


 グリフィンの口元がへにゃ、と笑う。

 シャクラはその表情に、グリフィンが楽しそうに笑うのは初めて見るかもしれないと自分も嬉しくなった。


「それで、シャクラの方は何かいい内容あった?」


 遮音と防壁の魔術を使い、グリフィンはシャクラに新聞の内容を確認する。


「そうじゃのう。あちこちの勢力が動いておることはわかったが、どうもまとまりがない」

「じゃあ、いちばん気になったのは?」

「ミンターの地域一帯に発生したという霧かの。少なくとも週刊クロスランド、サパ日報と、日日新星(ザルバニトゥの新聞)では書かれていた故真実とみてよかろう」


 3つの新聞に書かれていた共通点は、ミンターの森を含む広範囲が5日以上濃霧に覆われていることだ。日刊クロスランドは記者が濃霧に突撃して行方不明となった記事を、サパ日報では過去の長期間濃霧の記録を、日日新星は霧の発生条件をもとに何日間継続するかの予測を掲載していた。


「と言われても、おじいの家の辺りとかはおれが小さいころから時々霧が出てたからなあ」

「霧は普通、発生し続けるということはないからの? 発生方法として多いのは、温泉のうえに冷えた空気が来ると湯気が雲のように白くなる原理じゃからな」

「じゃあ、あったかくて湿っているのが冷やされることでできるの?」

「多いのは、そういう原理じゃな」


 ふとシャクラが視線を上げると、店員が配膳をしたそうにこちらを伺っていた。シャクラは慌ててグリフィンに遮音と防壁の魔術を解除させ、テーブルに配膳されえるのをそろって眺める。

 配膳されたハンバーグは併せて運ばれてきたコーヒーカップが小さく見えるほどの大きさで、用意に時間がかかるのも当然だと思えた。


「……腹が減ってはなんとやらじゃ、冷める前に食べるとするかの」

「おれのはこれ以上冷えないけどねえ」


 グリフィンの言葉に文句を返しながら、シャクラはハンバーグにナイフを入れた。

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