48 新生するダンジョン
これまでのあらすじ:勇者パーティで荷物持ちをしていた青年・グリフィンは、訳あって勇者パーティが討伐したはずの魔王・シャクラとともに旅をする。シャクラとは別の魔王・シレーネからの依頼で『ポーラいち有名なアルヴィ』の捜索をすることになったふたりは、洞人の集落にほど近いダンジョンを攻略したのだった。
ぺらぺらから復帰したシャクラを見て、セヴェルスは違和感を覚えつつも安心した。
「よくあれで死ななかったな。退路の確保は済んでる、ダンジョンを出るぞ」
「いや、わしはちと安全地帯でやることがある」
「というと、ダンジョン・コアについてか」
「そのとおりじゃ」
シャクラは大きな羽根の根本をつまみ、指でくるくると回転させながら答える。
「必要によってはダンジョン・コアを破壊せんといかんからのう。セヴェルス、お前は足手まといになりかねんし、わしらが逃げ切らんかったときに集落へ伝えるための役割がある」
「……わかった、先にダンジョンを出て待っている。どれくらい様子を見ればいい」
「一時間も様子見すれば十分じゃろ」
安全地帯が見えてくる。すぐそこにダンジョンの出入り口まで続く道があるのはいいもので、セヴェルスを見送ったシャクラはとたん悪い顔になり、グリフィンに「安全地帯に行こうか」と楽しさを隠し切れない様子で言った。
「そう難しい話ではない、よいな」
「わかってる、付き合うよ」
安全地帯に戻り、変わらず設置されているテーブルに大きな羽根を乗せる。とたん、周囲にホログラムの操作パネルが現れ、まぶしいことだけはわかったグリフィンはシャクラと繋いだままの手に力を入れる。
シャクラはなだめるように空いた手でグリフィンを撫で、操作パネルを尾の先でぺちぺちと打って操作する。
「ふむ、このダンジョンは緑のが作ったものか。色気のない名称を付けおって」
「ダンジョンに名前なんてあるの?」
「あるとも。ダンジョンの作り手は自身のダンジョンが攻略されているかどうか知ることができるゆえ、識別のために何かしらの名称を付けることは多い。ま、このダンジョンは“15”じゃがの」
「なんというか、単純でいいね」
「やる気のない時に作ったんじゃろ。構造も単純で、さらに言えば食うことができる魔物しかおらん。大方ここらで野営すべく食糧庫として作って、面倒になったから放置したクチじゃろ」
シャクラは適当にいじり倒し、警告音とともに出現した赤いボタンをびたびたと尾で連打する。
とたん光が消え、安全地帯の外は真っ暗な空間に変わる。それまであった魔物の気配もなくなり、グリフィンは思わず安全地帯の外へ出ようとして、繋いだままの手を引っ張られた。
「まあ待て。いま再設定を行っておる」
シャクラはホログラムを操作し、音声認証に対し適当に返事をする。
「緑の魔王アウロラより、黄の魔王シャクラへダンジョンを移譲せよ。これは勅命である」
キンコーン、と軽やかな音で音声認証が完了する。シャクラは大きな羽根を空間魔術へ入れ、代わりに取り出した石のようなものと入れ替えた。
それからシャクラはダンジョン内部を――少なくとも見かけ上は――元通りにし、ヒト種を除いた生命の出入りを禁止すると設定し、出現する魔物をもと通り設定し、そして新しいダンジョン・コアである石のようなものを移動禁止と設定した。
シャクラがホログラムを操作している間じゅう暇だったグリフィンは、設定で変わるダンジョンを耳で感じながら、手を放してもらえる瞬間をぼんやりと待っていた。
「よし、では名をつけて完了とするか。グリフィン、なんぞ良い案はないかのう」
「……あ、ごめん。ちょっと寝てた。なんだっけ」
「ダンジョンに名をつけたいのじゃが。なにがよいかのう」
「じゃあ、“スキノスの食糧庫”で」
「わかりやすくてよいの。採用じゃ」
シャクラは操作パネルで名前を入力し、最後にダンジョンを操作するためのパスワードを設定する。それを空間魔術から取り出した紙にがりがりと書きつけて、鳥を模した形に折った。
「よし、これで問題あるまい。グリフィン、ここを出るぞ」
「わかった」
安全地帯を離れ、洞窟を通り、グリフィンたちはダンジョンから脱出する。
太陽はすでに傾いていて夜の気配が近づいてきていた。ダンジョンの近くで木にもたれつつ待っていたセヴェルスは、安心した様子でシャクラに話しかける。
「無事だったか。ダンジョンが閉じたときはどうなるかと思ったぞ」
「おお、ちょいとな。じゃが、およそ一時間で戻ったろう?」
「言われた時間を守っていることと、心配することに因果関係はない。……だが、ダンジョンの気配が変わったような気がしてな」
セヴェルスの言葉にシャクラは返答を迷いつつ、グリフィンに助けを求めて軽く手を引く。グリフィンはざっくばらんに「ダンジョン・コアを置きなおしたからじゃない?」と嘘とは言い切れないことを言ってごまかした。
「グリフィンの言う通りじゃ。わしの見立てでは、今後ダンジョンから魔物が飛び出してくることはなかろう。……わざと持ち出さん限りな」
シャクラは暗に、やらないようセヴェルスに言い含める。セヴェルスもそれはわかっているのか、苦々しい表情で同意を示した。
「これ以上集落の者が怪我をしても困る。2人のことはダンジョンに逃げられたと言うさ」
「追ってくるのではないか?」
「いいや。ルパギンティニアの連中ならまだしも、同じ集落の洞人は追わない。ダンジョンに突入できるような人手は怪我人ばかりだからな」
集落を出るときに急いで飛び出してはきたが、セヴェルスからすれば追いかけられるような人手がない。もちろん、知らぬ間にルパギンティニアから人が入り込んでいる可能性もないとは言えないが、スキノスの集落はその血族しかいないためにありえないことだと判断していた。
「2人さえよければ、妖精の小道を頼むが」
「わしは問題ない。グリフィンはどうじゃ」
「いいよ」
「よし。会都に最も近い……というか、会都から半日もかからないところへ送る。はぐれるなよ」
セヴェルスは囁き声で語りかけ、妖精の小道を開く。セヴェルスはシャクラと、シャクラは加えてグリフィンと手を繋ぎ、セヴェルスの先導で妖精の小道へと進んだ。




